ドリオピテクス(英語表記)Dryopithecus

改訂新版 世界大百科事典 「ドリオピテクス」の意味・わかりやすい解説

ドリオピテクス
Dryopithecus

スペイン,フランス,ハンガリーなどから発見されている1200万~900万年前の化石類人猿。1855年フランスのサンゴーダンで発見された。それまで化石類人猿の存在は知られていなかったが,下顎の大臼歯に現生類人猿と同じ五つの咬頭(ふくらみ)とY字型の溝があることから,翌年E.ラルテが類人猿として,正しく記載した。属名は地層から出てきた樫の葉にちなんでギリシア語のドリュス(樫)からとられた。4種が知られているが,一部をヒスパノピテクスHispanopithecusとして属を分ける主張もある。スペインから発見されているピエロラピテクスPierolapithecusから進化した可能性がある。同時代のシバピテクスSivapithecusに比べると,エナメル質が薄く,顎のつくりも華奢で,果実食だったと考えられる。四肢骨は,現生大型類人猿に似て,懸垂姿勢に適応した特徴を発達させている。ユーラシアに分布を広げ,オランウータンを生み出した系統の放散の一つとする考えが有力だが,現生アフリカ類人猿と人類の系統に近縁であるとする意見もある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドリオピテクス」の意味・わかりやすい解説

ドリオピテクス
どりおぴてくす
Dryopithecus

第三紀中新世後期から鮮新世初期にかけて生存していた大型の化石霊長類。その名は「ナラの木のサル」を意味する。かつて森にすみ、樹上生活を営んでいたとされる。1856年、フランスのラルテにより発見されたが、学問的に研究された最初の化石類人猿である。今日ではヨーロッパ、アフリカ、アジアの各地から数多くの化石が出土しているが、そのほとんどは顎骨(がくこつ)と歯である。これらの標本は多くの学者により分類が試みられ、シバピテクス、プロコンスルと同属とされたこともあった。大臼歯(きゅうし)の咬面(こうめん)にY字状の溝があり、これが現代人の大部分の下顎第一大臼歯にみられるところから、かつては人類の祖先とみなすむきもあった。今日では現生大型類人猿の祖先、あるいはその近縁のものと考えられている。

[香原志勢]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドリオピテクス」の意味・わかりやすい解説

ドリオピテクス
Dryopithecus

霊長目ヒト上科に属する化石類人猿の一属。 1856年にフランスで E.ラルテによって発見された下顎骨を最初に,その後ヨーロッパ,アフリカそしてアジア各地で多数の化石が発見された。体の大きさはチンパンジーと同じくらいであり,歯や顎の形態によって,シバピテクスプロコンスルなどとともにドリオピテクス亜科に統一されている。これらは中新世から鮮新世にかけて住んでいたと推定され,ゴリラ,チンパンジー,オランウータンなどの類人猿の祖先と考えられている。ヒトの祖先との関係はまだ明らかでない。

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世界大百科事典(旧版)内のドリオピテクスの言及

【類人猿】より

…ヒトと類人猿との間には,後者の犬歯は強大で歯列を抜き,また上あごの第2切歯と犬歯間,下あごの犬歯と第1小臼歯(しようきゆうし)間に歯隙がある点,前者だけが直立2足歩行を行う点などに相違を認めることができる。 もっとも古い類人猿は始新世末期のアンフィピテクスAmphipithecusとされ,それに続く漸新世にはエジプトピテクスAegyptopithecusが,また中新世にはドリオピテクスDryopithecusやテナガザルの祖先と考えられるプリオピテクスPliopithecusが知られている。また最近の研究結果からすると,ヒトと現生のアフリカの類人猿との分岐は鮮新世とされている。…

【霊長類】より

…中新世から鮮新世にかけては高等霊長類の適応放散の時代で,コロンビアの中新世の地層からはホムンクルスHomunculusなど新世界ザルの化石資料が増え,ヨーロッパからアフリカにかけてはドリコピテクスDolichopithecus,メソピテクスMesopithecusなどのオナガザル科の化石が知られている。また,ヨーロッパではテナガザルの祖型と考えられているプリオピテクスPliopithecusが,イタリアからはオレオピテクスOreopithecusの完全な化石が発見されているし,プロコンスルProconsul,ドリオピテクスDryopithecus,ラマピテクスRamapithecus,ギガントピテクスGigantopithecusなどの現生類人猿やヒトに近縁な化石がアフロ・ユーラシア各地で発見されている。そして鮮新世後半のアウストラロピテクスAustralopithecus,さらに洪積世の原人ホモ・エレクトゥスHomo erectusへとつながっていくのである。…

【化石類人猿】より

…この後者の化石類人猿は,中新世の中期ごろまでにある程度放散をとげ,特徴もかなりはっきりしてくる。ちょうどこの頃,アフリカとユーラシアの両大陸間に陸橋が形成され,その陸橋を通って南ヨーロッパに入り,西へと広がったグループがあり,ドリオピテクス類の名でよばれている。一方,東へ広がったグループに,シバピテクス類やギガントピテクス類がある。…

【類人猿】より

…ヒトと類人猿との間には,後者の犬歯は強大で歯列を抜き,また上あごの第2切歯と犬歯間,下あごの犬歯と第1小臼歯(しようきゆうし)間に歯隙がある点,前者だけが直立2足歩行を行う点などに相違を認めることができる。 もっとも古い類人猿は始新世末期のアンフィピテクスAmphipithecusとされ,それに続く漸新世にはエジプトピテクスAegyptopithecusが,また中新世にはドリオピテクスDryopithecusやテナガザルの祖先と考えられるプリオピテクスPliopithecusが知られている。また最近の研究結果からすると,ヒトと現生のアフリカの類人猿との分岐は鮮新世とされている。…

【霊長類】より

…中新世から鮮新世にかけては高等霊長類の適応放散の時代で,コロンビアの中新世の地層からはホムンクルスHomunculusなど新世界ザルの化石資料が増え,ヨーロッパからアフリカにかけてはドリコピテクスDolichopithecus,メソピテクスMesopithecusなどのオナガザル科の化石が知られている。また,ヨーロッパではテナガザルの祖型と考えられているプリオピテクスPliopithecusが,イタリアからはオレオピテクスOreopithecusの完全な化石が発見されているし,プロコンスルProconsul,ドリオピテクスDryopithecus,ラマピテクスRamapithecus,ギガントピテクスGigantopithecusなどの現生類人猿やヒトに近縁な化石がアフロ・ユーラシア各地で発見されている。そして鮮新世後半のアウストラロピテクスAustralopithecus,さらに洪積世の原人ホモ・エレクトゥスHomo erectusへとつながっていくのである。…

※「ドリオピテクス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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