ハルビン(読み)はるびん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハルビン」の意味・わかりやすい解説

ハルビン
はるびん

中国東北地区、黒竜江(こくりゅうこう)省南西部にある副省級市(省と同程度の自主権を与えられた地級市)で、同省の省都。略称は哈(は)。日本ではハルピンともよぶ。松花江(しょうかこう)中流の広大な沖積平野と洪積台地上に位置する。阿城(あじょう)、双城(そうじょう)、呼蘭(こらん)など9市轄区、方正(ほうせい)、通河(つうか)、依蘭(いらん)など7県を管轄し、尚志(しょうし)など2県級市の管轄代行を行う(2017年時点)。人口993万5115、市轄区人口553万6116(2012)。市名の語源は女真(じょしん)語のアロチン(名誉)または満州語の「網干し場」の意といわれる。気候は1月の月平均気温が零下19.7℃、7月は22.5℃、年降水量は526.6ミリメートルで夏に集中する。新潟市、旭川市と姉妹都市提携を結んでいる。

[浅井辰郎・編集部 2018年1月19日]

歴史

19世紀末までは小漁村にすぎなかったが、1896年ロシアは三国干渉の報酬として東清(とうしん)鉄道(いまの浜洲(ひんしゅう)線、浜綏(ひんすい)線)の敷設権を清から獲得し、1903年にはこれと南部支線(いまの京哈(けいは)線、瀋大(しんたい)線)を完成させて東北地区の経営に乗り出した。ハルビンには当初50平方キロメートル、ついで140平方キロメートルの鉄道付属地を買収して市街地とした。ロシア革命後、東清鉄道をはじめとする利権はソ連が受け継いだが、1932年(昭和7)に「満州国」が建国されるとその管轄下に入り、1945年の解放を迎えている。

[浅井辰郎・編集部 2018年1月19日]

産業・交通

周辺の農村では大豆、小麦、トウモロコシ、アワ、テンサイ、アマなどを豊かに産し、市内ではこれらの輸送や加工が盛んに行われる。鉄道も前記のほか、哈斉(はせい)旅客専用線(ハルビン―チチハル)、哈牡(はぼ)旅客専用線(ハルビン―牡丹江(ぼたんこう))などの高速鉄道が通じ、2013年には地下鉄も開業した。市街近郊にはハルビン太平国際空港があるほか、自動車道も集中し、交通の要衝となっている。鉱産物林産物も各地から多種集まって、重・軽工業の発達は目覚ましく、鉄鋼、発電機ボイラータービン、機関車、工作機械、化学薬品、航空機、自動車、ビールなどの工場が林立する。市内には三つの経済技術開発区があり、国内外の企業を誘致している。また、前述の産業を支える工業、農業、林業、医学の大学や専門学校、省の社会科学院や図書館、博物館も整っている。

 特産品には漢方薬の五加参(ごかさん)、チョウセンニンジンがあり、角(つの)や玉(ぎょく)の彫刻、白丁香(はくちょうこう)の茶筒も知られている。

[浅井辰郎・編集部 2018年1月19日]

文化・観光

19世紀末から20世紀初頭にかけてロシアの支配下にあったことから、市内には聖ソフィア大聖堂や生神女庇護聖堂(しょうしんじょひごせいどう)など、東方正教会の聖堂が多数残され、「東洋のモスクワ」とも称される。松花江南岸にはスターリン公園がある。

 松花江では、寒中水泳が冬の風物詩となっているほか、スケートなどのスポーツが盛ん。太陽島公園、兆麟(ちょうりん)公園などでは、毎年1月上旬から2月末ごろまで、氷の彫刻を展示するハルビン氷祭りが開催される。

[周 俊 2018年1月19日]

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改訂新版 世界大百科事典 「ハルビン」の意味・わかりやすい解説

ハルビン (哈爾浜
)
Harbin

中国,東北地区の黒竜江省の省都。面積6929km2(うち市部1637km2),人口348万(2000)。ハルビンは満州語で〈網干し場〉の意。19世紀末までは松花江のほとりに数戸の漁家の居住が見られただけであった。1898年ロシア帝国が東清鉄道の建設基地として以来,来住者が多く,交通の要衝として,モスクワに範をとった都市化が進み,1932年には人口38万,42年には75万人に達した。この間日本帝国主義の東北地区北部最大の侵略拠点とされ,とくに対ソ作戦用の鉄道建設に伴い,兵站(へいたん)基地として,軍需に結びついた各種産業が発達,日本の化学戦部隊として悪名高い関東軍防疫給水部(731部隊)もここに置かれた。

 解放後ハルビンは近代的重工業都市として再開発され,ことに発電用タービンなど重電機類の生産で全国的に知られるが,精密機器,農業機械,紡織,精糖,化学肥料,製紙,食肉加工等の工業も発達し,また松花江の水運のほか,浜洲(ハルビン~マンチュリー),浜綏(ハルビン~綏芬河(すいふんが)),哈大(ハルビン~大慶),京哈(北京~ハルビン),哈佳(ハルビン~チャムス),拉浜(拉法~ハルビン)等の各鉄道が分岐する。松花江の中州には太陽島公園があり,児童公園には子供の汽車が走っている。
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百科事典マイペディア 「ハルビン」の意味・わかりやすい解説

ハルビン

中国,黒竜江省の省都。漢字では哈爾浜。松花江右岸にあり,浜洲(ハルビン〜マンチュリー)・哈大(ハルビン〜大慶)・京哈(北京〜ハルビン)・浜綏(ハルビン〜綏芬河(すいふんが))・哈佳(ハルビン〜チャムス)の各鉄路が交差し,松花江水運の要衝。東北地区北部の商工業の一大中心で,製糖,醸造,製粉,化学,電機,搾油などの工業が盛ん。市街は1898年ロシアが東清鉄道の建設を始めた以降に発達した。満州事変から第2次大戦中は日本の東北地区支配の拠点であった。2013年,1909年にハルビン駅で伊藤博文を暗殺した朝鮮の独立運動家安重根にちなむ安重根記念館が開館した。記念館の建設は韓国の要請を受け中国が承認協力したもので,現在の日本が過去の日本帝国主義の侵略について正しい〈歴史認識〉を持っていないとの批判を韓国・中国が共同で世界にアピールする狙いがある。554万人(2014)。
→関連項目黒竜江[省]

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旺文社世界史事典 三訂版 「ハルビン」の解説

ハルビン
Hā'ěrbīn

中国東北地方,松花江流域にある黒竜江 (ヘイロンチヤン) 省の省都
交通の要地で,1896年の露清密約(李鴻章−ロバノフ条約)によりロシアが東清鉄道敷設の基地として買収し,ロシア風の都市を建設,以後急速に発展した。中華民国の成立以後,東北地区北部における政治経済の中心地となった。現在は黒竜江省の省都。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ハルビン」の解説

ハルビン
Ha'erbin[中],Harbin[英]哈爾濱

中国東北の黒竜江省の省都。松花江岸に位置する。清末に東清鉄道敷設以後,ロシア人と中国人の都市建設が行われ,水陸の要地として発展した。

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世界大百科事典(旧版)内のハルビンの言及

【反ファシズム】より

…日独伊三国軍事同盟締結と大政翼賛会,大日本産業報国会の結成は,40年のことであったが,このときにはすでに反ファシズムの組織と言論は皆無に近かった。【鈴木 正節】
【国際的な反ファシズム文化運動】
 国際的な反ファシズム文化運動の先駆としては,反戦を掲げてロマン・ロランとバルビュスが呼びかけ,ゴーリキー,アインシュタイン,ドライサー,ドス・パソスらが発起人に名を連ねる,1932年8月アムステルダムの国際反戦大会に29ヵ国2200名を集め,翌年パリで第2回大会を開催した〈アムステルダム・プレイエル運動〉,フランスの急進社会党代議士ベルジュリが主唱し,J.R.ブロック,ビルドラックらの協力した33年5月結成の〈反ファシズム共同戦線〉,ジッド,マルローらによる〈革命作家芸術家協会〉の33年における反ファシズム運動などがあげられる。しかし,それが政治的立場を超えた知識人の統一運動として定着するのは,34年の2月6日事件をまたなければならない。…

【プロレタリア文学】より

… ロシアのプロレタリア文学運動は,国際的にも大きな影響を与えた。すでに第1次大戦時から,ドイツの〈表現主義〉文学運動,フランスのH.バルビュスやバイアン・クチュリエPaul Vaillant‐Couturier(1892‐1937)の創作が,広い意味でプロレタリア文学の先駆けとみなされ,アメリカのU.B.シンクレア,J.ロンドンの文学にも同じ傾向が看取されたが,それが自覚的な文学運動となるのは,やはり1917年のロシア革命後である。ドイツでは19年に〈プロレタリア文化同盟〉が結成され,E.トラー,B.ブレヒト,J.R.ベッヒャー,A.ゼーガースらがプロレタリア作家として活躍した。…

※「ハルビン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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