改訂新版 世界大百科事典 「バルトリハリ」の意味・わかりやすい解説
バルトリハリ
Bhartṛhari
古代インド,5世紀後半の文法学者,哲学者。生没年不詳。詳細は不明であるが,おそらくガンガー(ガンジス)川流域のアバンティ地方の王家あるいは王族の出身であるという。著作には,《文章単語編(バーキヤパディーヤVākyapadīya)》とパタンジャリの《大注》を解説する《大注解明(マハーバーシャディーピカーMahābhāṣyadīpikā)》がある。もし同名の詩人と同一人物であるとすれば,《恋愛百頌》《処世百頌》《離欲百頌》の三部作も彼の著作であるが,別人であるとする意見が有力である。彼は当時衰微していた古代インドの文法学の伝統を復興させたのみならず,一つの哲学学派にまで発展させた。その際,ベーダーンタ学派の哲学をよりどころとしたために,ベーダーンタ学者とも見なされている。彼はベーダ聖典の絶対的権威を認め,文法学をベーダ聖典を理解し維持するための学問であるとする。彼の文法学は,それにとどまらず,ベーダーンタ哲学と同様に,解脱を目的とする内我の学である。現象世界の差別相は絶対無差別のブラフマンに基づくが,このブラフマンは語よりなり,語を本性としており,語は万有の本質であるとして,語ブラフマン論を主張した。また,語の本体は常住不滅のスポータsphoṭaであり,これはブラフマンと同一であるという。スポータ説といえば,彼の言語哲学を指す。正しい語の使用は善であり,語の汚れを除去し,語の正しい意義,用法を習得,実行することが最高我の完成,すなわち解脱であるとされる。
執筆者:前田 専学
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報