パラダイム(英語表記)paradigm

翻訳|paradigm

デジタル大辞泉 「パラダイム」の意味・読み・例文・類語

パラダイム(paradigm)

ある時代に支配的な物の考え方・認識の枠組み。規範。「企業は新しいパラダイムを必要としている」
語学で、語形変化一覧表

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「パラダイム」の意味・読み・例文・類語

パラダイム

〘名〙 (paradigm)
① 名詞や形容詞、または動詞の変化を格、人称、数、時制などによって整理し、表としたもの。
アメリカ科学史家T=クーンが一九六二年に提唱した概念で、ある時代に支配的なものの見方、考え方のこと。パラダイム理論とは、科学理論を人間の知的活動の産物と見なす考え方。これによると、例えば、地動説天動説は共に、それぞれ異なった時代に属するパラダイムであって、いずれか一方が真であるわけではない、ということになる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「パラダイム」の意味・わかりやすい解説

パラダイム
paradigm

もともとはギリシア語のparadeigmaに由来し,〈範例〉を意味した語。近代英語の用法では,とくにラテン語などの名詞や動詞の語型変化を記憶する際の〈代表例〉--例えば定形動詞の変化として“愛する”のamoを用いて,amo,amas,ama,……という人称変化や時制変化,モード変化を記憶する--の意味で用いられることが多かった。しかし1962年,T.S.クーンの《科学革命の構造》が発刊され,そのなかで,クーンはこの言葉に新しい特定の意味を与えて使い,この用法が非常な普及を見せたため,それ以降〈パラダイム〉は,欧米でも日本でも(ときに〈範型〉〈範例〉と訳されるが,通常はこの片仮名書きが多用されている),クーンの意味によることになった。

 クーンの〈パラダイム〉は,科学の歴史や構造を説明するために持ち込まれた概念で,ある科学領域の専門的科学者の共同体scientific communityを支配し,その成員たちの間に共有される,(1)ものの見方,(2)問題の立て方,(3)問題の解き方,の総体であると定義できよう。クーンの議論に従えば,ある時代ある社会の科学者の共同体(それが明確に形成されない場合もあり,その場合は,パラダイムも明確な形では存在しないことになる)は,一つのパラダイムに基づいて,自然探究の営みを行う。そこでは,認識論的にも,自然のなかに何を見いだし,そこからどのような問題をひき出すか,という点がそのパラダイムによって暗黙のうちに,あるいは明確な形で規定され,その問題をどのように解き,結果をどのように受けいれさせるかについても,社会制度的にパラダイムによって規定されている。したがって,パラダイムは,認識論的側面と社会学的側面の双方を兼備した概念といえる。

 クーンは,この一つのパラダイム支配下に行われる科学的活動を〈通常科学normal science〉と呼び,それを〈パズル解き〉(つまり原図--それがパラダイムに相当する--のあるはめ絵パズルを解いていくこと)に比する。パラダイムに危機が訪れ,やがて,新しいパラダイムが生まれて再び〈通常科学〉の営みが始まるまでの間の活動を,クーンは〈異常科学extraordinary science〉と呼ぶ。科学の歴史は,こうして,一貫した蓄積,進歩,発達の歴史というよりは,非連続的ないくつものパラダイムの交代の歴史としてとらえられ,そうしたパラダイムの交代現象をクーンは〈科学革命scientific revolutions〉と呼んだ。

 クーンのパラダイム概念は《科学革命の構造》の初版で提案されたが,上のような定義からくる曖昧さ--例えば科学者の共同体の規模をどの程度にとるかによっては,パラダイムは具体的な一つの狭い理論でもありうるし,あるいは,その時代の〈時代精神〉とでも呼ぶしかない広範なものでもありうることになる--を批判されたため,同書第2版では,パラダイムを〈学問母型disciplinary matrix〉に置き換えて,概念の整理を図ろうとした。しかし70年代に入って,おりしも異文化方法論ethnomethodologyが隆盛となり,単に民族文化の比較においてのみならず,従来は連続的な発達・発展と考えられてきた個人や社会の歴史についても,非連続的な異文化の並列--例えば個人についていえば,発達心理学を排して,子どもと大人とをお互い異文化に属するものとして扱おうとする--と考える発想を後ろ盾として,パラダイムは,さまざまな領域でさまざまに利用され,ひとり歩きを始めている。その意味では,パラダイム論にはレビ・ストロース以降の構造主義的な発想とも呼応するものがあり,クーンの手を離れて,概念的にも実際上も豊かな可能性を開きつつある反面,俗用場面も拡大されているといえよう。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パラダイム」の意味・わかりやすい解説

パラダイム
paradigm

特定の学問分野を担う科学者の集団において,歴史上の一定期間その成員に共有される研究の範例。元来は,語形変化表の意の文法用語,あるいは範例,模範などの意の普通名詞であったが,アメリカ合衆国の科学史家トマス・S.クーンが『科学革命の構造』The Structure of Scientific Revolutions(1962)のなかでこの語を用いてのち,学術的概念として普及した。クーンのパラダイム論によれば,自然科学の歴史は連続的な進歩,拡大の歴史ではなく,いくつかの科学革命(パラダイムの転換)によって画される断続史である。パラダイムを共有する科学者集団が,一定期間パラダイムに基づいて科学を発展させ,その通常科学が行きづまると科学革命が起こり,新たなパラダイムが取って代わるという。古代ギリシアの天文学者クラウディオス・プトレマイオスの宇宙観(→天動説)に対して提唱された 15~16世紀のニコラウス・コペルニクス地動説や,近代イギリスのアイザック・ニュートンが打ち立てたニュートン力学に再考を迫った 20世紀前半の量子力学一般相対性理論の確立などが科学革命の典型例である。学問の基本的路線を問題にする概念として,自然科学だけでなく社会科学,人文科学にも多大な影響を及ぼした。日本では中山茂の翻訳により紹介され一般にも広まった。(→科学史科学哲学

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パラダイム」の意味・わかりやすい解説

パラダイム
ぱらだいむ
paradigm

アメリカの科学史家クーンが著書『科学革命の構造』The Structure of Scientific Revolutions(1962)で特殊な用い方をした単語およびその概念。ことばとしては、辞書によれば範例とか模範という訳があり、また文法の語形変化の例として用いられるが、クーン以来、学界・思想界で彼の用い方が広く使われて今日に至っており、日本では訳語をあてず、パラダイムのまま通用している。

 クーンによれば「パラダイム」とは「広く人人に受け入れられている業績で、一定の期間、科学者に、自然に対する問い方と答え方のモデルを与えるもの」とされる。例としてはプトレマイオスの『アルマゲスト』、コペルニクスの『天球の回転について』、ニュートンの『プリンキピア』などがあげられる。あるパラダイムをモデルとして普通の科学者が行っている仕事が通常科学normal scienceであり、通常科学の発展が行き詰まると変則性が現れて危機が生じ、科学者は他のパラダイムに乗り換えて科学革命が起こる。ニュートン力学からアインシュタイン相対論へのパラダイム変換はそのような科学革命の例である。科学研究の成果は累積的に一定方向に進歩するという伝統的な科学観を崩し、科学の進歩は、あるパラダイムに基づいて一定期間行われる活動によって、科学革命がおこり路線が変わるものであることを示した。そこから一般にパラダイムは思考の枠組みというように拡大して用いられ、既成慣行のものにとってかわる新しいオルターナティブalternativeを求める際によく使われる。

[中山 茂]

『クーン著、中山茂訳『科学革命の構造』(1971・みすず書房)』『中山茂編『パラダイム再考』(1984・ミネルヴァ書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「パラダイム」の意味・わかりやすい解説

パラダイム

元来は〈範例〉を意味する語だが,米国の科学史家トマス・クーンが1962年に《科学革命の構造》の中で,科学の歴史や構造を説明するために使った概念をいうようになった。それによると,〈専門的科学者の共同体を支配し,かつ広く受け入れられているものの見方,問い方,解き方の総体〉と定義される。クーンは科学の歴史を,非連続的ないくつものパラダイムの交代の歴史としてとらえ,パラダイムの交代を〈科学革命〉と呼んだ。今日では,資本主義パラダイム,社会主義パラダイムというように,体制選択を意味するものとしても用いられる。
→関連項目クーン中山茂

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ASCII.jpデジタル用語辞典 「パラダイム」の解説

パラダイム

方法論のこと。パソコン用語では、プログラミングにおける開発チームの中での共通の思考パターンを指す。

出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android