ヒックス(英語表記)John Richard Hicks

デジタル大辞泉 「ヒックス」の意味・読み・例文・類語

ヒックス(John Richard Hicks)

[1904~1989]英国の経済学者。ワルラスパレートに由来する一般均衡理論を発展させ、また景気理論資本成長の理論などにも貢献した。1972年ノーベル経済学賞受賞。著「価値と資本」「景気循環論」「資本と成長」など。→IS-LM分析ヒックスの楽観主義

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改訂新版 世界大百科事典 「ヒックス」の意味・わかりやすい解説

ヒックス
John Richard Hicks
生没年:1904-89

イギリスの経済学者。イングランドのウォリックシャーに生まれ,オックスフォード大学卒業後,ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(LSE)講師,ケンブリッジ大学フェロー,マンチェスター大学教授を経てオックスフォード大学教授(1952-66),またオールソールズ・カレッジのフェロー(1952-)。主著《価値と資本Value and Capital》(1939)は,ワルラス,パレートの一般均衡論に北欧学派の立場を摂取し,価格経済構造を微視的社会像として定着させた古典である。序数的効用理論(限界代替率)に基づく需要供給理論,連関財の理論,静学的安定論,経済理論の動学化を主要テーマとして,個人と社会,静学と動学を貫徹する共通原理を追求している。研究の出発点であった《賃金の理論》(1932)においても,〈中立的技術進歩〉や〈代替の弾力性〉という新概念提唱して大きな影響を与えた。論文《ケインズ氏と一般理論》(1937)でいわゆるIS- LM曲線を提唱したが,これはケインズ理論の核心を表現しえたものとして学界に受け入れられ,今日のマクロ経済分析の基本的道具の一つとなっている。IS- LMの静学的立場は《景気循環論》(1950)において,加速度原理と乗数過程(乗数理論)の相互作用による動学的展開に発展した。《資本と成長》(1965)では固定価格モデルと伸縮的価格モデルの区別を提唱し,その後の不均衡マクロ分析の展開に影響を与えた。ほかに《経済史の理論》(1969),《ケインズ経済学危機》(1974)などの著書がある。1964年列爵。72年ノーベル経済学賞受賞。
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百科事典マイペディア 「ヒックス」の意味・わかりやすい解説

ヒックス

英国の近代経済学者。オックスフォード大学教授。効用の不可測性の問題を序数的効用,無差別曲線,限界代替率の概念を用いて解決し〈消費者選択の理論〉を完成させた。《ケインズ氏と一般理論》でIS-IM曲線を提唱,ケインズ理論の核心を表現したものと評価される。また時のずれを導入し乗数理論と加速度原理を総合したマクロ景気変動論など多彩な研究がある。主著《価値と資本》《景気循環論》など。1972年ノーベル経済学賞受賞。
→関連項目ケインズ学派安井琢磨

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世界大百科事典(旧版)内のヒックスの言及

【安定条件】より

…この調整過程にしたがえば,一財の市場で需要曲線が右下がり,供給曲線が右上がりの標準的なケースでは,価格は時間とともに需給曲線の交点が与える均衡価格に収束することが知られる。 多数財の市場における安定性は最初J.R.ヒックスによって需要関数と供給関数の形状を用いての静学的方法によって分析されたが(静学的安定条件),P.A.サミュエルソンは先に述べたような形で調整過程の動学方程式を定式化し,安定のための十分条件を求めた(動学的安定条件)。彼の結果は後にK.アローやL.ハーウィッツらによって発展させられ,安定条件についてより適切な経済的な解釈が与えられるようになった。…

【価値】より

…人々があるべき価格水準についての価値観を共有しているならば,それが人々の需給行動に対し影響を与えないはずはない。J.R.ヒックスは,公正賃金fair wageという概念にもとづくことによって,市場価格が人々の“価格に関する価値観”によっていかに左右されるかを論じている。 マルクスは,労働価値説という大いに疑わしい仮説に依拠して資本家の獲得する剰余価値や労働者の被る搾取を説明したのであったが,社会的価値の考え方にもとづけば,剰余価値や搾取に対して別様の解釈を下すことができる。…

【景気循環】より

…この欠陥を取り除くためには,体系を非線形化する必要がある。乗数・加速度モデルで発散解の場合をとりながら,完全雇用の天井と成長する独立投資の底をおくことにより体系を非線形化して景気循環を説明したのはJ.R.ヒックスである。 他方,アメリカの経済学者グッドウィンR.M.Goodwinは,実際の資本量が最適資本量より小さいか,等しいか,あるいは大きいかによって,投資の大きさが変化するとし,加速度関係を非線形化して,循環的変動とともに成長の現れる理論を構築した。…

【市場均衡】より

…ワルラスの後継者V.パレートは,ワルラスの基数的な効用理論をより一般的な序数的効用理論によっておきかえることに成功し,スウェーデン学派のK.ウィクセルは,ワルラスによって扱われた資本,利子,貨幣の分析を多方面に発展させた。また1940年を前後してJ.R.ヒックス,P.A.サミュエルソンは一般均衡理論の体系に比較静学の方法を導入し,同じころ,W.レオンチエフは産業間の相互依存をデータ分析が可能な形に具体化した産業連関理論(産業連関表)を開拓した。以後の均衡分析の発展では,均衡解の存在についての厳密な証明,安定分析,動態経済の分析,ゲーム理論との対応の研究などに重要な貢献が多い。…

【ロンドン学派】より

…ロビンズは処女作《経済学の本質と意義》(1932)において,有名な〈経済学の希少性定義〉を与えるとともに,相異なる個人の基数的効用の比較可能性を前提とするA.C.ピグーの〈旧〉厚生経済学の基礎を厳しく批判した。厚生経済学から分配に関する〈非科学的〉価値判断を放逐し,資源配分の効率性の確保にのみ科学としての厚生経済学の可能性を認めるN.カルドア,J.R.ヒックス,A.P.ラーナーらの〈新〉厚生経済学は,ロビンズによるこの批判を契機として誕生したものである。一方ハイエクは,オーストリア学派の資本理論を継承・発展させた《資本の純粋理論》(1941)を著すとともに,L.E.vonミーゼスにより先鞭をつけられた,社会主義経済における合理的経済計算の可能性についての論争においても重要な役割を果たし,価格機構の情報伝達機能に関する深い洞察を示した。…

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