イギリスの理論経済学者。イングランドのウォーリックシャーの勅許温泉地レミングトン・スパに生まれる。ブリストルのクリフトン・カレッジを経て、オックスフォードのベリオール・カレッジに学び、1926年ロンドン・スクールの講師となった。その後ケンブリッジ大学のフェロー(1935~38。この時代に財政学者アースラ夫人Ursula Kathleen Webbと結婚)、マンチェスター大学教授(1938~45)を務めたのち、母校オックスフォード大学に迎えられ、ナフィールド・カレッジのフェロー(1945~52)、教授(1952~65)を経て、65年に同大学名誉教授となった。なお、1942年にFBA(Fellow of British Academy)に選ばれ、64年にナイトの称号を受け、72年にノーベル経済学賞を受賞した。
ヒックスの業績は幅広く、そして奥深い。まず第一は一般均衡理論の確立である。彼は『価値と資本』Value and Capital(初版1939、第二版1946)で、ワルラス、パレートに由来する一般均衡理論を大きく拡充して学界に衝撃を与えた。この著は、比較静学の手法を提示するほか、大小さまざまの分析手法に満ちており、みごとな集大成であり、微視的理論の最高峰とされている。第二は景気理論への寄与である。彼の『景気循環論』A Contribution to the Theory of the Trade Cycle(1950)は、景気循環の分析に経済成長の要因を導入し、「制約循環」の理論を完成した。第三は成長理論、資本理論への貢献である。彼の『資本と成長』Capital and Growth(1965)は、経済成長と資本蓄積の分析の流れを整理し、さらにその展開を目ざしたものであり、『資本と時間』Capital and Time(1973)は、オーストリア学派の資本理論を導入して成長理論に新生面を開くことを試みたものである。さらに彼の著作には、『賃金の理論』The Theory of Wages(1932)、『経済の社会的構造』The Social Framework : An Introduction to Economics(1942)、『需要理論』A Revision of Demand Theory(1956)、『貨幣理論』Critical Essays in Monetary Theory(1967)、あるいは『世界経済論』Essays in World Economics(1959)、『経済史の理論』A Theory of Economic History(1969)、『経済動学の諸方法』Methods of Dynamic Economics(1985)などがあり、いずれも重要な一石を投じている。
[佐藤豊三郎]
『安井琢磨・熊谷尚夫訳『価値と資本』全二冊(1951・岩波書店)』▽『古谷弘訳『景気循環論』(1951・岩波書店)』▽『安井琢磨・福岡正夫訳『資本と成長』全二冊(1970・岩波書店)』▽『根岸隆訳『資本と時間』(1974・東洋経済新報社)』
イギリスの経済学者。イングランドのウォリックシャーに生まれ,オックスフォード大学卒業後,ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(LSE)講師,ケンブリッジ大学フェロー,マンチェスター大学教授を経てオックスフォード大学教授(1952-66),またオールソールズ・カレッジのフェロー(1952-)。主著《価値と資本Value and Capital》(1939)は,ワルラス,パレートの一般均衡論に北欧学派の立場を摂取し,価格経済構造を微視的社会像として定着させた古典である。序数的効用理論(限界代替率)に基づく需要供給理論,連関財の理論,静学的安定論,経済理論の動学化を主要テーマとして,個人と社会,静学と動学を貫徹する共通原理を追求している。研究の出発点であった《賃金の理論》(1932)においても,〈中立的技術進歩〉や〈代替の弾力性〉という新概念を提唱して大きな影響を与えた。論文《ケインズ氏と一般理論》(1937)でいわゆるIS- LM曲線を提唱したが,これはケインズ理論の核心を表現しえたものとして学界に受け入れられ,今日のマクロ経済分析の基本的道具の一つとなっている。IS- LMの静学的立場は《景気循環論》(1950)において,加速度原理と乗数過程(乗数理論)の相互作用による動学的展開に発展した。《資本と成長》(1965)では固定価格モデルと伸縮的価格モデルの区別を提唱し,その後の不均衡マクロ分析の展開に影響を与えた。ほかに《経済史の理論》(1969),《ケインズ経済学の危機》(1974)などの著書がある。1964年列爵。72年ノーベル経済学賞受賞。
執筆者:久我 清
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…この調整過程にしたがえば,一財の市場で需要曲線が右下がり,供給曲線が右上がりの標準的なケースでは,価格は時間とともに需給曲線の交点が与える均衡価格に収束することが知られる。 多数財の市場における安定性は最初J.R.ヒックスによって需要関数と供給関数の形状を用いての静学的方法によって分析されたが(静学的安定条件),P.A.サミュエルソンは先に述べたような形で調整過程の動学方程式を定式化し,安定のための十分条件を求めた(動学的安定条件)。彼の結果は後にK.アローやL.ハーウィッツらによって発展させられ,安定条件についてより適切な経済的な解釈が与えられるようになった。…
…人々があるべき価格水準についての価値観を共有しているならば,それが人々の需給行動に対し影響を与えないはずはない。J.R.ヒックスは,公正賃金fair wageという概念にもとづくことによって,市場価格が人々の“価格に関する価値観”によっていかに左右されるかを論じている。 マルクスは,労働価値説という大いに疑わしい仮説に依拠して資本家の獲得する剰余価値や労働者の被る搾取を説明したのであったが,社会的価値の考え方にもとづけば,剰余価値や搾取に対して別様の解釈を下すことができる。…
…この欠陥を取り除くためには,体系を非線形化する必要がある。乗数・加速度モデルで発散解の場合をとりながら,完全雇用の天井と成長する独立投資の底をおくことにより体系を非線形化して景気循環を説明したのはJ.R.ヒックスである。 他方,アメリカの経済学者グッドウィンR.M.Goodwinは,実際の資本量が最適資本量より小さいか,等しいか,あるいは大きいかによって,投資の大きさが変化するとし,加速度関係を非線形化して,循環的変動とともに成長の現れる理論を構築した。…
…ワルラスの後継者V.パレートは,ワルラスの基数的な効用理論をより一般的な序数的効用理論によっておきかえることに成功し,スウェーデン学派のK.ウィクセルは,ワルラスによって扱われた資本,利子,貨幣の分析を多方面に発展させた。また1940年を前後してJ.R.ヒックス,P.A.サミュエルソンは一般均衡理論の体系に比較静学の方法を導入し,同じころ,W.レオンチエフは産業間の相互依存をデータ分析が可能な形に具体化した産業連関理論(産業連関表)を開拓した。以後の均衡分析の発展では,均衡解の存在についての厳密な証明,安定分析,動態経済の分析,ゲーム理論との対応の研究などに重要な貢献が多い。…
…ロビンズは処女作《経済学の本質と意義》(1932)において,有名な〈経済学の希少性定義〉を与えるとともに,相異なる個人の基数的効用の比較可能性を前提とするA.C.ピグーの〈旧〉厚生経済学の基礎を厳しく批判した。厚生経済学から分配に関する〈非科学的〉価値判断を放逐し,資源配分の効率性の確保にのみ科学としての厚生経済学の可能性を認めるN.カルドア,J.R.ヒックス,A.P.ラーナーらの〈新〉厚生経済学は,ロビンズによるこの批判を契機として誕生したものである。一方ハイエクは,オーストリア学派の資本理論を継承・発展させた《資本の純粋理論》(1941)を著すとともに,L.E.vonミーゼスにより先鞭をつけられた,社会主義経済における合理的経済計算の可能性についての論争においても重要な役割を果たし,価格機構の情報伝達機能に関する深い洞察を示した。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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