ピンダロス(英語表記)Pindaros

デジタル大辞泉 「ピンダロス」の意味・読み・例文・類語

ピンダロス(Pindaros)

[前518ころ~前438ころ]古代ギリシャの詩人オリンピア祭など四大祭典の競技祝勝歌四十数編が伝存

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精選版 日本国語大辞典 「ピンダロス」の意味・読み・例文・類語

ピンダロス

  1. ( Pindaros ) 古代ギリシアの抒情詩人。作風は荘重で男性的。舞踊歌、乙女舞歌、酒宴歌、賛歌頌歌、哀悼歌などを作ったが、オリンピア祭などギリシア四大祭典の競技勝利者をたたえる頌歌四巻が現存している。(前五一八頃‐前四三八頃

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改訂新版 世界大百科事典 「ピンダロス」の意味・わかりやすい解説

ピンダロス
Pindaros
生没年:前522か518ころ-前442か438ころ

古代ギリシア最大の合唱隊歌詩人。テーバイの近郊キュノスケファライに生まれた。残された作品のうち最も古いものは前498年のもの(《ピュティア競技祝勝歌》第10番)と推定され,最後の歌(同8番)は前446年に制作されたと推定される。彼の生涯について知られている種々の事柄は,ほとんどが憶測に過ぎない。アレクサンドリア時代の注釈家の証言によれば,ピンダロスの詩歌集はジャンル別に編集され,その数17巻に及んだが,中でもオリュンピア,ピュティア,ネメア,イストミアの四大競技別に編集された《競技祝勝歌集》4巻が非常に愛読され,古典期以前のギリシア抒情詩人としてはまったく例外的に,現在までほぼ完全な形で伝わるところとなった。これらの歌はホラティウスクインティリアヌスといった批評眼鋭いローマの審美家たちからも絶賛されたばかりでなく,近代においてもヘルダーリンドライデンなど数多くの詩人から憧憬にも近い愛情を捧げられた。

 彼の詩は難解であるが,その外的な原因の第1は競技祝勝歌というジャンルそのものが比較を絶したものであったこと(同じく祝勝歌を制作した同時代の詩人バッキュリデスの,かなりまとまった詩行が発見されたのは,20世紀に入る直前のことである)であり,第2には古典期に入る直前という,彼の生きた時代の,美意識ないしは思想的背景がほとんど解明されていないことなどが挙げられるであろう。20世紀なかばころから,彼の詩の根本にかかわるいくつかの点が解明されるようになった。すなわち彼の祝勝歌には,勝利者,その一族,そのポリス,その種族の神話・伝説などが歌い込まれるべき要素として存在していたということであり,さらに,祝勝歌全体は,基本的には勝利者と彼にかかわりのある人々および組織の栄誉をたたえる劇的なクライマックス創出のための技巧の複合体であるということである。これらの解明を通じて浮かび上がってくる詩人像は,いわば建築家にも似た創作者の姿である。従来思想史的脈絡でとらえられていた種々の箴言や,黄金酒盃神殿,海,船などの映像的喚起力を持った言葉も,また神々や英雄たちに関する断片的言及も,すべてこれをある全体を構築するための要素として計算しつくした上で歌い込まれたものであった。断片をも含む最も優れた校合刊本はB.スネルらによる2冊本。また,おそらく日本語の持っている表現能力から最も遠いこのピンダロスの祝勝歌を日本語へと移す試みは,例えば久保正彰の《ピュティア祝勝歌集》の訳業に見ることができる。
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百科事典マイペディア 「ピンダロス」の意味・わかりやすい解説

ピンダロス

ギリシアの合唱隊歌詩人。特に競技祝勝歌で有名。オリュンピア,ピュティア,イストミア,ネメアの四大祭典における競技での勝利を祝う歌はほぼ完全に残っている。壮大華麗な用語と文体,複雑な韻律,自由奔放な想像をもって知られ,ときに難解。ヘルダーリンら近代の詩人への影響もかなり大きい。
→関連項目コリンナヒエロン[1世]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ピンダロス」の解説

ピンダロス
Pindaros

前518~前438

ギリシアの抒情詩人。ボイオティアに生まれる。各地の貴族と交わり,彼らの寵を得て詩作に従った。特に競技勝利歌によって名高く,合唱用抒情詩は彼において発展の極に達したといわれる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ピンダロス」の解説

ピンダロス
Pindaros

前518〜前438
古代ギリシアの叙情詩人
多くの合唱詩中,特に競技の優勝者賛歌が有名。作風は荘重で力強く,アイスキュロスとともに保守派の代表的詩人。

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世界大百科事典(旧版)内のピンダロスの言及

【オード】より

…古くはホメロス叙事詩も抒情詩や劇作中に含まれている合唱詩なども,等しくこの名で呼ばれ,喜びの歌も哀愁の歌もその呼称に含まれている。文芸ジャンルの分類化が進んだ前4世紀には,主として弦楽器の伴奏で歌われるステシコロス,アルカイオス,サッフォー,アナクレオン,イビュコスなどの初期抒情詩人たちや,ピンダロス,バッキュリデスらの合唱抒情詩人たちの作品がこの名で呼ばれることが多い。いずれも複雑な律格形式を用いた旋舞歌対応形の詩形をもち,神話・伝説を主題とするもの,政治・酒宴を歌うもの,恋の苦しさ・自然の美しさを語るもの,また運動競技の勝利や神々の祝祭をたたえる歌などがあるが,主題に添って神の恩恵や人間の宿命,また生を享けた者すべての抱く深い願望や高遠な理想が語られる。…

【競技祝勝歌】より

…古代ギリシアの競技会,すなわち,オリュンピア,ピュティア,ネメア,イストミア競技での勝利者をたたえて作られた合唱隊用の歌。その作者としては,前6世紀末から前5世紀前半のピンダロス,シモニデス,バッキュリデスが名高い。なかでも,競技者の肉体の美と,詩的言語を操る詩人の矜持(きようじ)とを力強い構成に組み立て,読む者をこの地上から連れ去るピンダロスの歌は,ギリシアの言語感覚の一つの頂点を形づくるものである。…

【ギリシア文学】より

…オリュンピアの体育競技の祭典やデルフォイ,イストミア,ネメアなどでの同様の催しがにぎわいの頂点にあったのも前500年代のころであり,競技祭における神人一体の勝利の喜びを合唱歌として歌った詩人たちは数多い。中でもバッキュリデス,ピンダロスらの作品は,パピルス巻本や中世写本の形で数多く伝わっている。またこの時代の文学作品として墓碑詩が多く伝存することを忘れてはならない。…

【コロス】より

…伴奏楽器としては七絃の竪琴(たてごと)が用いられたと思われるが,合唱隊の人数は明らかではない。その後,合唱詩人がギリシア諸地に輩出し,形式も3連一組の複雑な形が一般化したが,詩的想像の雄渾(ゆうこん)にして華麗なることにかけてはピンダロスの右に出るものはない。前5世紀アテナイの悲劇・喜劇はそのような合唱芸術を母体として発展したといわれているが,現存する演劇作品の中でのコロスの役割は,テーバイの老人とかフェニキアの女たちとか,各々の劇構成が要求する劇中の一群ということになっている。…

【詩】より

…抒情詩を代表するのはアルカイオスと女流詩人サッフォー(ともに前7世紀)で,ついでアナクレオンが出るが,いずれも古くから伝わる独唱歌の様式を踏んでいる。他方,合唱歌の作者としてはシモニデス,ピンダロス(ともに前6世紀から前5世紀)があり,これは公式行事や祭儀で歌われた。前者は碑銘詩の作者としても知られ,後者はオード形式の範とされる。…

【バッキュリデス】より

…ケオス島の生れ。ほぼ同年齢のピンダロス,叔父で彼に音楽教育をしたシモニデスとともに抒情詩期のギリシア文学史の頂点を形成した。1896年エジプトで発見されたパピルスによって,彼の詩行も,かなりまとまった形で知られるようになった。…

※「ピンダロス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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