ファント・ホッフ(読み)ふぁんとほっふ(英語表記)Jacobus Henricus van't Hoff

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ファント・ホッフ
ふぁんとほっふ
Jacobus Henricus van't Hoff
(1852―1911)

オランダの化学者。ロッテルダムに生まれる。立体化学の創設者であり、化学平衡の熱力学、溶液論などの業績で著名。オストワルト、アレニウスと並ぶ、1870年代以降の物理化学の建設者。1901年第1回ノーベル化学賞の受賞者となった。
 デルフトの工科学校からライデン大学で数学を学び、ドイツに移りボン大学でケクレについて学び、さらにパリ大学でウュルツの指導を受けた。1874年帰国、ユトレヒト獣医学校に勤め、のち1878年アムステルダム大学、1896年ベルリン大学教授となった。
 ファント・ホッフの三大業績といわれるもののうち最初にあげられるのは、立体化学の創設である。1874年帰国直後、彼は、炭素原子価の正四面体構造と不斉炭素原子の仮説を提唱した画期的な論文を書いた。この前年、ウィスリツェヌスは化学構造について幾何異性の概念を提唱し、分子の立体構造への示唆を与えていた。それを具体化し、立体化学への道を開いたのがこのファント・ホッフの業績であった。この仕事と基本的に同じ成果が、偶然であるが、まったく独立に、彼とともにウュルツの下で学んだル・ベルによって同年に発表されている。立体化学創設の功績は2人に帰せられる。
 1870~1880年代に物理化学の古典的基礎が確立された。その理論的な土台となったのが熱力学である。化学平衡一般の熱力学的解明は、原理的にはギブス、ヘルムホルツによってなされていた。しかし、化学平衡の熱力学的取扱いを具体的に示すことにより、化学者が広く熱力学を受け入れ、使うことができるようにしたのはファント・ホッフの業績であり、1884年に発表された「化学動力学の研究」と題する論文がそれである。この論文で彼は、質量作用の法則などの熱力学的導出を行い、真に化学にとって有効な熱力学的平衡理論を打ち立てた。化学熱力学がここに確立された。
 彼の第三の重要な業績は、1885~1887年に発表された希薄溶液理論である。彼は、溶液の浸透圧現象と気体法則との類似性をとらえ、「理想溶液」の概念を定立し、今日に至る熱力学的溶液論の出発点を与えた。その名は、電解質溶液におけるファント・ホッフ係数として残っている。[荒川 泓]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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