古生代石炭紀にはじまり,二畳紀末に絶滅した原生動物の一群で,高等有孔虫に属する。名称は紡錘のラテン名fususに由来し,紡錘虫ともよばれる。フズリナは,元来,G.フィッシャー・ド・ワルトハイムが1829年ロシアのモスクワ盆地の上部石炭系に産する米粒様化石(はじめ極微小な頭足類と考えられた)に与えた属名Fusulinaであったが,しだいに近縁の種属がたくさん認められ,群全体を指す語としても用いられるようになった。分類上は独立した目Fusulinidaとされる(A.V. フルセンコ,1958)。南極大陸とオーストラリア以外の世界各地に産し,古生代後半の海生無脊椎動物としては頭足類とともに,地層の区分,年代的対比,古生物地理区の認定などに重要な群である。
殻は石灰質で,軟体部化石は知られていない。殻の外形はレンズ形,円板形,円筒形,紡錘形,球形などさまざまである。殻壁は軸の回りに渦巻状に旋回しながら順次形成され,殻の前面は次の成長段階ではおおわれて内部の隔壁となる。隔壁は平滑なものから著しく波うったものまで種々変化する。このようにして,壁と隔壁によって作られた内部区画は室とよばれ,各室間は中央の初室からのびるトンネルで連絡されている。隔壁と隔壁の間に,これと平行でやや短い仕切りが形成されることがあり,これを副隔壁という。副隔壁はまた軸と直交する旋回方向にも発達することがある。トンネルの両側にできる石灰質の沈殿物をコマータといい,トンネルが多数あって突起した沈殿物が数多く形成されるとこれを準コマータとよぶ。殻には,緻密層からなるもの,さらにその緻密層の上下に沈殿層が加わって計3層よりなるもの,また,緻密層下に透明層が形成されて計4層となるもの,緻密層の下に櫛の歯状のケリオテーカとよぶ層が加わるものなどがある。殻の微細構造はもっとも重要な形質とされ,科単位の分類に用いられる。内部構造の研究と,属,種の鑑定は,普通,軸に沿って作られた顕微鏡用定方位薄片によって行い,以上の諸形質の組合せによって分類される。現在までに約140属,3000種以上が知られている。フズリナ目は大別してフズリナ超科とネオシュワゲリナ超科に分けられるが,後者は壁がケリオテーカ型で,副隔壁と準コマータを有する群を指す。
フズリナは石炭紀初期にエンドティラ型の小型有孔虫より分かれ,古生代末に絶滅するまでの約1億年間に急激な進化をとげた。はじめは石炭紀のエオスタッフェラEostaffellaのように数百μmの大きさでレンズ形のものが,しだいに大きさを増し,球形,紡錘形,長円筒形と変化し,この間,壁の組織,構造もしだいに複雑になった。最大のものは二畳紀のポリディークソーディナPolydiexodinaのように長さ数cmに達するものがある。また系列によっては,ニッポニテラNipponitellaのように軸の回りに旋回する殻壁がほぐれてくるものもある。
フズリナ類の化石は主として石灰岩,また石灰質の砂岩,泥岩に産する。生時には外洋性の暖かい浅海に適応して底生生活を送っていたと考えられる。シュードシュワゲリナPseudoschwagerinaや,フェルベーキナVerbeekinaのように殻が比較的薄く,球形に膨れて室の大きなものは浮遊性生活を送っていたかもしれない。真光帯より深い場所には生息しなかった。世代交代による二形性の認められるものもある。
フズリナは,日本の古生層にも多産する。大正時代初期までは,古生層石灰岩はすべてフズリナを含み,二畳紀のものと考えられていた。フズリナ石灰岩は岐阜県赤坂では鮫(さめ),霞などの石材商品名で採掘,加工された。現在も各地で主としてセメント原料として採掘されている。栃木県葛生で古くから米石(米粒石)といわれるものはパラフズリナParafusulinaの遊離個体である。宮城県気仙沼で松葉石とよばれるものは,モノディークソーディナMonodiexodinaの殻がとけて砂岩中に残った細長い外形である。C.W.vonギュンベルによって記載されたフズリナ・ジャポニカF.japonicaは,日本産化石研究中もっとも古い記録(1874)であるが,その後,矢部長克の研究(1899)以降多くの研究者によって重要な貢献が日本から相ついでなされた。このため,フズリナは日本産古生代化石のうち,もっともよく調べられた群となった。
執筆者:加藤 誠
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