日本大百科全書(ニッポニカ) 「フヨウ」の意味・わかりやすい解説
フヨウ
ふよう / 芙蓉
[学] Hibiscus mutabilis L.
アオイ科(APG分類:アオイ科)の落葉低木。茎は株立ちとなり、高さ1~3メートル、樹皮は灰白色。葉は互生し、五角状心臓形で掌状に3~7裂し、径10~20センチメートル、基部は心臓形、縁(へり)に丸みを帯びた鋸歯(きょし)があり、裏面は星状毛がある。7~10月、葉腋(ようえき)に淡紅色で径10~13センチメートルの5弁花を開く。朝開いて夕方しぼむ一日花で、花の下部の小包葉は10枚で線状針形。萼(がく)は鐘形で5中裂し、裂片は三角状卵形で星状毛と腺毛(せんもう)がある。雄しべは多数で筒状に合生し、長い花柱はこれを貫き、先は5裂する。果実は球形、径約2.5センチメートルの蒴果(さくか)で、毛を密生し、黄褐色に熟して5裂する。種子は腎臓(じんぞう)形、背に剛毛がある。中国中部原産と考えられる。日本では古くから各地で栽培され、温暖な地域では野生化している。園芸品種には、花が白色で一重咲き、白色で八重咲き、紅色で八重咲きのものなどがあり、スイフヨウ(酔芙蓉)は花は半八重で、白色から午後には淡紅色、さらに紅色に変わる。名は、花を、酒に酔って顔が赤くなるのに見立てたもの。庭園や公園に植える。耐寒性は強くないが耐潮性はあり、陽樹で日当りのよい適湿地を好み、成長は速い。北アメリカ南東部原産のアメリカフヨウH. moscheutos L.は多年草で花はフヨウに似るが大輪、葉は卵状楕円(だえん)形である。
[小林義雄 2020年4月17日]
文化史
芙蓉(ふよう)は本来大きい形(花)を意味し、唐以前はハスにあてられていた。白楽天が『長恨歌(ちょうごんか)』で楊貴妃(ようきひ)を「芙蓉如面柳似眉」(面(かお)は芙蓉の如く、眉(まゆ)は柳に似る)と例えた芙蓉はハスである。『源氏物語』の「桐壺(きりつぼ)」の巻の太液(たいえき)の芙蓉も、楊貴妃にちなんだ太液池のハスからの引用である。一方、フヨウは唐代までは木芙蓉(もくふよう)と称され、単に芙蓉となるのは宋(そう)代以降である。宋の周敍(しゅうじょ)の『洛陽花木記(らくようかぼくき)』(1082)には、千葉芙蓉の名がみえ、当時八重咲きが栽培されていたことが知れる。日本では室町期の『尺素往来(せきそおうらい)』に初見し、『池坊専応口伝(いけのぼうせんのうくでん)』(1542)は、祝言に用うべき花の一つにあげている。
[湯浅浩史 2020年4月17日]