改訂新版 世界大百科事典 「ポリ酸」の意味・わかりやすい解説
ポリ酸 (ポリさん)
polyacid
オキソ酸の酸基が縮合した2核以上の多核の酸をいう。縮合酸,多重酸ともいう。S,Se,Te,P,As,Sb,Si,Ge,B,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Uなどを中心原子としたオキソ酸に多数みられる。H2S2O7,H2Cr2O7,H5P3O10,H3B3O6,H6Mo7O24などのように1種類の中心原子を含む場合をホモポリ酸またはイソポリ酸といい,H4SiW12O40,H3PMo12O40などのように2種類以上の中心原子を含む場合をヘテロポリ酸という。これらのポリ酸は水溶液中で多塩基酸として解離し,いろいろな数のH⁺を含んだイオンとして存在する。たとえば
H2Mo7O244⁻⇄H⁺+HMo7O245⁻⇄2H⁺+Mo7O246⁻
またいろいろな縮合度のポリ酸として存在する。たとえば
3B(OH)3⇄B3O3(OH)4⁻+H⁺+2H2O
4B(OH)3⇄B4O5(OH)42⁻+2H⁺+3H2O
イソポリ酸は,イオン半径の小さいS,Cr,P,Siなどでは,たとえばSO42⁻,PO43⁻などのような四面体形4配位の頂を共有したS2O72⁻,P2O74⁻のような構造をとり,さらに縮合が進んでも[CrnO3n⁺1]2⁻のように基本構造は四面体であるが,これらよりイオン半径の大きいMo,Wなどでは基本構造は八面体形6配位である。たとえばメタモリブデン酸塩と呼ばれるものでは[Mo8O26]4⁻のようなポリ酸イオンがあり,メタタングステン酸塩では同様にWO6が縮合してH⁺をとり込んだ[H2W12O40]6⁻のようなイオンが存在する。これに対しヘテロポリ酸イオンは,各種ヘテロ原子を中心とした四面体もしくは八面体のまわりに縮合したポリ酸である。イソポリ酸やヘテロポリ酸,およびその塩は,無機化合物としては珍しく式量の大きなものがあり(たとえばリンタングステン酸塩,リンモリブデン酸塩など),しかも電解質であって,水や有機溶媒によく溶ける。またアルカロイドやアミンと不溶性の塩をつくりやすく,タンパク質を凝固させるなどの特異性のあるものがある。このため分析化学,生物化学などで沈殿剤として,あるいは染織などでの沈殿から顔料やインキとして,広い用途がある。
執筆者:中原 勝儼+大瀧 仁志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報