ポンプ(読み)ぽんぷ(英語表記)pump

翻訳|pump

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポンプ」の意味・わかりやすい解説

ポンプ
ぽんぷ
pump

外部から機械的エネルギーを与えられ、それを流体のエネルギーに変換する装置。すなわち、電動機などによって駆動され、低いところにある液体を高いところに揚液したり、低圧の液体を高圧の容器の中に送り込んだりする機械をいう。

[池尾 茂]

歴史

人間の生活にとって水は欠くことのできないものであり、古くからポンプが用いられてきた。水をくみ上げるもっとも古い装置は、はねつるべを使うつるべ井戸で、紀元前1550年ごろからエジプトで灌漑(かんがい)に用いられていた。水を高所に運ぶ方法としては、適当な容器に水を入れその容器自体を必要な高さまで運んで揚水する方法と、ピストンまたは羽根車などを用いて水に圧力と速度を与えて、その水を管を通して揚水する方法とがある。前者を揚水機、後者をポンプと区別してよぶこともある。前述のつるべ井戸は揚水機の一種である。その後、揚水機としては、車井戸、鎖ポンプ、水揚げ車などが考案され、ピラミッド建設工事中に用いられたというヨセフの2段水揚げ車は90メートルの地下から水をくみ上げていた。前3世紀にアルキメデスが考案したといわれるスクリューポンプ(アルキメデスの螺旋(らせん))は船底の水あかをくみ上げるために考案された揚水機で、後にレオナルド・ダ・ビンチもスケッチを残している。これは、現在でも世界各地で水揚げ機として低地の水のくみ上げ用に使用されている。

 また、16世紀にドイツのアグリコラが著した『デ・レ・メタリカ』には、鉱山の排水用にすでに3段のピストンポンプを使っていたことが記載されている。これは、川の水で水車を回して動力源としたもので、約60メートルの深さから地下水をくみ上げることができた。

 文明の発達に伴い、より高くそしてより多く揚液することが要求され、揚水機では不十分のため、ポンプが次々と開発された。たとえば、工業が盛んになると燃料としての石炭が多く必要になり、炭鉱はより深く掘っていくことになる。地中深く掘っていくと、当然地下水が出てくるため、揚水ポンプで地上にくみ出す必要がある。坑内をより深く掘ると地下水はより多く出るので、揚水機ではまにあわなくなり、1588年にイタリアのラメリAgostino Ramelli(1530ころ―1590ころ)がロータリーポンプを、1593年にフランスのセルビエールが歯車ポンプを、また1712年にイギリスのニューコメンが蒸気機関で駆動するピストンポンプを発明した。

 揚水量がさらに増えるとピストンポンプ、歯車ポンプなどの容積型ポンプではまにあわなくなり、1818年にアメリカでマッコンティにより遠心ポンプが開発され、その後、大型・高性能のポンプが次々に開発され今日に至っている。日本では、1905年(明治38)に芝浦製作所(現、東芝)が渦巻ポンプを製造したのが、近代的なポンプの始まりである。

[池尾 茂]

ポンプの形式

ポンプの基本的な性能は、ポンプがその中を通過する単位重量の液体に与えるエネルギーを表す全揚程と、単位時間に送ることのできる液体の体積を示す流量と、ポンプの回転速度とで表示される。したがって、全揚程、流量および扱う液体の種類に応じてポンプには多くの形式がある。作動原理からポンプを分類すると、ターボ型ポンプ、容積型ポンプおよび特殊型ポンプに分類される。

[池尾 茂]

ターボ型ポンプ

回転する羽根車の中を液体が連続的に通り抜ける間に、羽根に作用する力を媒介として液体にエネルギーを与える機械である。液体が羽根車内を通り抜けるときの流れの方向と回転軸との関連から、遠心ポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプに分けられる。

 用途に応じてどのようなポンプがもっとも適しているかを判断するための指標として比速度あるいは形式数が用いられる。比速度はポンプ羽根車を通る流れの水力学的相似則から導かれた数値で、次の式で表される。

  ns=nQ1/2/H3/4
 ここで、nsは比速度、nは回転速度、Qは吐出し量、Hは全揚程である。比速度は、幾何学的に相似な羽根車を使って毎分1立方メートルの液体を全揚程1メートル揚液するために必要なポンプ回転数である。通常、最高効率点の性能に対して求められ、幾何学的に相似な形状のポンプにおいては、大きさ、回転速度の大小にかかわらず一定となる。したがって、比速度はターボ型ポンプ分類の目安となる。吐出し量が少なく全揚程の大きいことが要求される場合には、比速度の値が小さい、渦巻ポンプが適することがわかる。また、逆に吐出し量が多く全揚程の小さくてよい場合には、比速度は大きくなり、軸流ポンプが適していることがわかる。

 比速度は無次元数ではなく、nHQの単位の取り方で値が変わることや、Hの定義に重量が用いられていることから、基本単位として重量ではなく質量を用いることにしているSI単位では、比速度のかわりに無次元数である形式数を用いている。形式数Kは、全揚程Hのかわりに、単位質量の液体に対してポンプ羽根車がなす有効仕事E(=gH、gは重力加速度)を用いて、次式で定義される。

  K=2πnQ1/2/(gH)3/4
 比速度あるいは形式数はターボ型ポンプだけでなく、容積型ポンプに対しても計算することができる。容積型ポンプの比速度(形式数)は遠心ポンプ(渦巻ポンプ)に対する値よりもさらに小さくなる。すなわちHが大きく、Qが小さい用途に適している。しかしながら、容積型ポンプの比速度(形式数)は、ターボ型の場合とは違って流体要素の形状を支配するパラメーターとはならない。

(1)遠心ポンプ 羽根車から吐き出される流れが回転軸に垂直な面内にあるポンプで、羽根車の吐出し側に直接渦巻形ケーシングをもつものを渦巻ポンプといい、羽根車の吐出し側に案内羽根形のディフューザーをもつものを(その外側に渦巻ケーシングがあってもよい)ディフューザーポンプという。また、羽根車の吸込み形式により、遠心ポンプは片吸込みポンプと両吸込みポンプとに分けられる。遠心ポンプで羽根車の吸込み口が片側にだけあるものを片吸込みポンプといい、羽根車の吸込み口が両側にあるものを両吸込みポンプという。一般に、吐出し量が多く必要とされる場合に、両吸込みポンプが用いられる。さらに、羽根車の段数によって、ポンプは単段ポンプと多段ポンプとに分けられる。単段ポンプは、ポンプに入った液体が1個の羽根車を通る構造のポンプであり、多段ポンプは、ポンプに入った液体が2個以上の羽根車を順次通り抜ける構造のポンプである。多段ポンプでは、液体はそれぞれの羽根車からエネルギーを与えられるため、ポンプとしての全揚程は非常に高くできる。そのため多段方式は他の形式のポンプにおいても用いられることがある。渦巻ポンプに適するのは吐出し量Qが小さく全揚程Hが大きいものであるが、この範囲に含まれるポンプの用途は非常に多く、家庭井戸用、ビルの給水用、化学工業用、上水道用、工業用水用、火力・原子力発電所のボイラー給水用、宇宙ロケットの燃料供給用、石炭や鮮魚などの水力輸送用などに用いられている。したがって、年間に生産される遠心ポンプはすべてのポンプのうちで金額的には全体の約70%、台数的には90%以上を占めている(1985年通商産業省工場統計による)。

(2)斜流ポンプ 羽根車から吐き出される流れが回転軸の中心線を軸とする円錐(えんすい)面内にあるポンプで、一般に羽根車の吐出し側に案内羽根形のディフューザーをもつ。羽根車の形状が三次元的で複雑であり、効率の高い斜流羽根車を設計することが困難であったため、以前はあまり用いられなかった。しかし近年では、コンピュータの発達に伴い、コンピュータを用いて効率の高い羽根車を設計することが可能になり、従来、軸流ポンプや両吸込み遠心ポンプが用いられていた応用分野にも斜流ポンプが進出してきている。現在、斜流ポンプは農地灌漑用、上下水道用、火力・原子力発電所の冷却水循環用、ドック排水用などに用いられている。

(3)軸流ポンプ 船のスクリュープロペラに似た形の羽根車の回転によって水を送るポンプであり、羽根車の入口および出口において水の流れる方向が回転軸方向である。羽根車の形状からプロペラポンプともよばれる。軸、羽根車、案内羽根、胴体および軸受で構成されており、同一水量を揚水する場合、羽根車外径は渦巻ポンプより小さく、またケーシングの渦巻部分がないため形状は小さく、渦巻ポンプの約半分の容積ですむ。吐出し量が非常に大きく、揚程が低い場合に使用されるもので、農業用揚水あるいは排水ポンプ、工業用の冷却水循環ポンプ、洪水対策用としての雨水排水ポンプなどに用いられている。

[池尾 茂]

容積型ポンプ

流れ込む液体を一定量ずつくぎってある容積をもつ空間内に入れ、液体とエネルギーの授受を行ったのちそこから排出する形式のポンプで、油圧用ポンプとして広く用いられている。この形式のポンプは往復式と回転式とに分けられる。前者は、手押しポンプのようにピストンが吸込み弁と吐出し弁を備えたシリンダー内を出入りすることにより、吸込み口から液体を吸入し、いったんシリンダー内に蓄えたのち、吐出し口に送り出すものである。1本のシリンダーだけを用いた、構造がもっとも簡単な単動式ポンプでは送水量の脈動がおこるので、送水量を平均化するために複動式や差動式往復ポンプが用いられる。往復ポンプは送水量は少ないが、高圧作動にもっとも適したポンプで、油圧用として回転子中に数組のシリンダーとピストンを組み込んだ往復ポンプが数多く用いられている。そのほかに一般送水用あるいは石油精製、石油化学工業、合成繊維工業、合成樹脂工業などの高圧を必要とする用途に多く用いられている。後者の回転ポンプ(ロータリーポンプ)は歯車ポンプのように、ローターの回転につれて液体をローターと固定壁との間に閉じ込め、これを吸込み側から吐出し側に移動させる。回転ポンプには、このほかベーンポンプねじポンプなどがある。往復ポンプと比べて、吸込み弁および吐出し弁が不要であり、構造が比較的簡単で一般に吐出し量の変動が少ない。固体摩擦部が多いため潤滑性のある液体の圧送に適していること、および低流量・高圧力のポンプとして適していることから油圧ポンプとして多く利用されている。そのほか、水、重油、タール、ガソリン、塗料などの輸送にも用いられている。

[池尾 茂]

特殊型ポンプ

種々の作動原理に基づくポンプがあるが、代表的なものは以下のようなものである。

(1)粘性ポンプ 円筒または円板を容器内で回転させ、液体の粘性を利用して、層流摩擦作用によってポンプ作用を発生させるポンプ。摩擦を利用してエネルギー変換を行うため、かならず損失が生じ、原理的に100%の変換効率は不可能である。また流量も小さいため、潤滑油ポンプなど特殊な用途にのみ用いられる。

(2)渦流ポンプ(かりゅうぽんぷ) 再生ポンプ摩擦ポンプウェスコポンプなどともよばれる。円板の外周の両側面に細長い放射状の多数の溝を設けた羽根車をケーシング内で回転させると、混合室内で循環流が生じ、羽根車によって周速度を与えられた液体が外側に移動し、その運動量を混合室内の液体に与えて昇圧する。ケーシングと羽根車との間の隙間は0.1ミリメートル程度にする必要がある。エネルギー変換が乱れ運動を介して行われるため、効率は30%程度と低いが、構造が簡単で、小流量・高揚程の用途に適しており、家庭用井戸ポンプとして広く用いられている。

(3)水撃ポンプ 管内を水が流れているとき、その出口端の弁を急激に閉鎖すると、瞬間的に管内の水圧が上昇する。この現象を水撃現象といい、弁の閉鎖時間が短いほど上昇圧力は大きくなる。この瞬間的な上昇圧力を利用して、流れている水の一部を高所に揚水するポンプを水撃ポンプという。このポンプは原動機や燃料を必要とせず、維持費もわずかですみ、信頼性も高いなどの特徴があるが、揚水量は小さく、騒音がやや高い。これらの特徴から、水撃ポンプは開発途上国での利用に適している。また、国内では酪農や簡易水道に用いられる例が多い。このほかにも開発途上国での使用に適した、構造が簡単で原動機のいらない安価なポンプとして、太陽熱駆動水ポンプがある。これは、日中の太陽熱による蒸気の発生に伴うシリンダー内の圧力上昇により水を送り出し、夜間の低温による蒸気の凝縮に伴うシリンダー内の圧力低下(真空発生)により水を下から吸い上げるポンプである。

(4)ジェットポンプ 噴流ポンプともいう。霧吹き器と同じ原理で、高エネルギーの駆動流体の噴流を用いて、吸込み管から低エネルギーの流体を吸い出し、これにエネルギーを与えて高圧部に送り出す。駆動流体として高圧の水を用いて揚水する噴射ポンプは1852年にイギリスでJ・トムソンにより考案された。運動する機械部分がないので、泥水・汚水の揚水に適しており、トンネル・坑道などの掘削時の湧水(ゆうすい)の排水、工場の消防用水などに用いられている。

 液体の噴流で気体を送り出すものは真空ポンプとして用いられる。また蒸気の噴流で液体を揚水し、ボイラーに給水するものはインゼクターとよばれ、暖房用・浴場用などの温水の給水、船の船底の水あかのくみ出しなどに用いられるものはエゼクターとよばれている。

(5)気泡ポンプ 水中に挿入した管の底に圧縮空気を吹き込み、揚水管中にできる気泡と水との混合物の比重が周りの水の比重より小さくなることを利用して揚水するポンプ。1797年ドイツの鉱山技師レッシャーE. Löscherが最初に考案した。このポンプでは気泡が水と均等に混合するほど効率がよくなるので、圧縮空気を送り込むための空気管と揚水管との取り付け部分の構造が問題となる。構造がきわめて単純で、水中に運動する機械部分がないため破損などのおそれもなく、修理も容易であるが、空気を送り込むための空気圧縮機を必要とする。空気圧縮機以外には運動する部分がないため摩耗や故障の心配はないが、井戸を深く掘る必要があり、また効率が低いという欠点がある。石油の採油や立坑内の土砂や石炭の水力輸送などに利用されている。また、空気洗浄により汚水中の不純物を酸化して浄化すること、温水のくみ上げに普通のポンプより適していることなどの利点も近年注目されている。

(6)電磁ポンプ 電気伝導率の高い液体金属を電磁力によって輸送するポンプで、液体ナトリウム冷却高速増殖炉の補助ポンプとして用いられている。電磁ポンプは、流量を容易にかつ連続的に変えることができる、可動部分がなく完全に密封することができる、設置位置に制限がない、などの利点があるが、効率が45%以下と低く、形状が大きくなるという欠点がある。

(7)真空ポンプ 容器内の気体を吸い込み、大気中に排出し、容器内の圧力を絶対真空に近い値まで減圧するための機械をいう。低圧力の気体にエネルギーを与え、大気圧まで圧縮して排出するもので、作動原理は圧縮機と同一である。真空ポンプは往復式および回転式の機械的真空ポンプと、気体または蒸気の噴流を利用する噴射式真空ポンプとに分けられる。回転式機械的真空ポンプとしてはルーツ型、液封式、油回転式などが用いられている。噴射式真空ポンプと機械的補助真空ポンプを併用した拡散ポンプは、機械的真空ポンプでは到達できない高真空を実現するために用いられている。

[池尾 茂]

ポンプの問題点

ポンプの設計・製作・運転上考慮しなければならないのは次の諸現象である。

[池尾 茂]

キャビテーション

ポンプの内部では場所によって流速と圧力が大きく変化する。ある点で流速が速くなって圧力が低下し、その液温における飽和蒸気圧まで下がると、その部分で液体が沸騰し蒸気泡が発生する。この蒸気泡は下流へと流れていき、ふたたび圧力が飽和蒸気圧以上の場所に達すると崩壊する。これをキャビテーションといい、圧力がさらに低下すると気泡の量が多くなり液体の流れを妨げるようになり、効率やポンプ揚程が低下し、気泡の崩壊に伴う騒音と振動を発生し、さらには周囲材料の損傷を生じる。遠心ポンプではキャビテーションが発達すると、羽根車流路が気泡でふさがれてしまい、揚液できなくなってしまう。それに対して、斜流ポンプや軸流ポンプでは、羽根車流路が広いため気泡でふさがれてしまうことはなく、ポンプの揚程曲線が全体的に下がってしまう。

 キャビテーションはターボ型ポンプだけでなく容積型ポンプにおいても発生する。油圧用の容積型ポンプでキャビテーションが発生すると、吐出し流量の減少、吐出し圧力の脈動が生じ、振動や騒音が大きくなる。また、気泡の消滅時に発生する高い衝撃圧によって金属表面が壊食を受ける。

[池尾 茂]

水撃作用

ポンプの急停止、起動、停電によるポンプ駆動力の消失、弁の操作などにより管路内の流速が急激に変化すると、それに伴って管路内に大きな圧力の変動が発生する。これを水撃作用(ウォータハンマー)とよぶ。この現象は、ポンプの性能とは無関係な管路系自体の問題であるが、ポンプの運転および制御方法を決定する際には、水撃作用を考慮しなくてはならない。

[池尾 茂]

サージング

ターボ型ポンプを含む管路系においては、ポンプを低流量域で運転すると、外部からの強制的な力が作用していないにもかかわらず吐出し量や吐出し圧力の周期的な変動が発生し、安全な運転が不可能になることがある。これをサージングとよぶ。ターボ型ポンプの吐出し量‐吐出し圧力特性に起因する管路系の自励振動であり、ポンプの揚程曲線が右上り勾配(こうばい)の部分をもち、管路途中に空気室あるいは気泡たまりが存在することなどの条件を満たすとき発生する。

[池尾 茂]

『大橋秀雄著『流体機械』(1987・森北出版)』『佐藤喜一・松村益至著『ポンプ工学』(1969・日刊工業新聞社)』『日本機械学会編『新版ポンプ――その設備・運転・保守』(1985・丸善)』


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改訂新版 世界大百科事典 「ポンプ」の意味・わかりやすい解説

ポンプ
pump

外部から供給された動力によって連続して液体にエネルギーを与える機械。ポンプを利用することにより液体を低いところから高いところへ移動させたり,低圧のものを高圧へと圧力を高めることができる。エネルギーの授受に注目すれば,ちょうど水車(水タービン)と逆の作用を行う。現在ではほとんど用いられない名称であるが,喞筒(そくとう)と呼ぶこともある。気体の圧力を下げ,大気圧以下にする機械を真空ポンプと呼んでおり,気体を扱う場合もポンプと呼ぶことがあるが,一般にはポンプといえば液体を扱う機械をいう。また通常,ポンプは電動機や内燃機関などの原動機により駆動され,その機械的エネルギーを流体に伝達するものであり,溶融金属や水銀を磁場と電流の相互作用によって圧送する電磁ポンプとは根本的に原理が異なっている。

 川の水をくみ上げることは古代から人類生活に欠かせなかったから,低水位の水を高水位に揚水するため,つるべ,水揚水車,ペルシャンホイールなどいろいろなものが用いられていたが,これらは人力や家畜の力などによる原始的なものであり,また容器に水を入れてくみ上げるという点からも,原理的に現在のポンプとは異質のものといえる。ただし,古代において注目すべきものがまったくなかったわけではなく,アルキメデスが考案したといわれるスクリューポンプは,連続して揚水することが可能であり,現在使用されているねじポンプと同じ考え方のものであった。その後,15世紀になってレオナルド・ダ・ビンチのピストンポンプの考案,モリスPeter Morrisによる水車駆動のピストンポンプを利用してのロンドン市内への給水の成功(1582)などもあったが,ポンプが著しく普及,発達するようになったのは18世紀末ごろより蒸気機関が動力源として利用されるようになってからである。

ポンプの形式は非常に多いが,作動原理や構造によって次のように分類される。

吸込管と吐出管をもつ容器(ケーシング)内で羽根車(インペラー)を回転させることによって,液体にエネルギーを与える形式のポンプの総称。そのうち,インペラーから吐き出される流れが主として主軸に垂直な面内にあるものが遠心ポンプである。斜流ポンプはインペラーから吐き出される流れが主軸の中心を軸とする円錐面上にあるもの,軸流ポンプはインペラーから吐き出される流れが主軸と同心な円筒面上にあるものをいう。水を扱うポンプのほとんどすべてはこのターボポンプに属している。

(1)遠心ポンプ 垂直に置かれた円筒容器に水を入れ中心軸のまわりに一定な角速度で回転させると,中心付近の水面は低く,外周の水面は高くなる。例えば,半径15cmの円筒容器を3000rpmで回転させた場合,外周と中心部の表面の水位差は113mにも達する。これは回転に基づく遠心力の作用で外側ほど圧力が高くなることによるもので,遠心ポンプもこの効果を利用したものとみなせる。ケーシング内に水を満たし,数枚の羽根をもったインペラーを回転させると,中央部の圧力は降下し,外周部の圧力が増加する。したがってインペラーの内側を吸込管に連絡すると,水は吸込管からインペラーへ流入し,エネルギーを増大させて外周部から流出する。その水をまとめて吐出管へ導く。これが遠心ポンプの作動原理である。最初に遠心ポンプが出現したのは1818年で,アメリカのボストンでマサチューセッツポンプと呼ばれるものが製作された(基礎理論そのものはすでにL. オイラーにより1754年に明らかにされていた)。その後アメリカやイギリスなどで改良が加えられ,高圧ポンプも製作されるようになり現在に至っている。日本では1904年井口在屋により発表された研究が初期のものとして有名である。

 遠心ポンプは,インペラーの外側に直接渦巻ケーシングがあって,水をまとめて吐出管へ導く渦巻ポンプと,インペラーの外側に固定羽根を並べたディフューザーを設け,流れを減速させてから渦巻ケーシングへ導くディフューザーポンプに大別することができる。渦巻ポンプはターボポンプの基本形であり,構造も簡単でもっとも多く生産されている。図1-aが片吸込渦巻ポンプである。軸受で支持された主軸は原動機により駆動される。主軸に取り付けられた主板と側板の間に数枚の羽根を円周上に並べたものがインペラー,インペラーの外側にあるのが渦巻ケーシングである(図1-b)。主軸がケーシングを貫通する部分には水漏れや空気の混入を防ぐための軸封装置がある。遠心ポンプには横軸形式,立軸形式の別があるが,形状は,重さ1kgfの水に与えられる全エネルギーを揚げることのできる高さで示した全揚程(単位m)と流量で異なってくる。数百m以上の高い全揚程の場合は一つの主軸にインペラーをいくつか並べ,そのおのおのを水が順次通過するような構造とした多段遠心ポンプが用いられる。また,二つのインペラーが背中合せに主軸に取り付けられ,水が両側から流入するようになっている両吸込遠心ポンプもある。遠心ポンプの用途は広く,上下水道用から原子力発電所や火力発電所,製鉄所,化学工場などあらゆる産業分野で使用されている。全揚程数mから数千mのものに用いられ,大きさも使用する管径が40mm程度から2m以上のものまで広範囲にわたっている。扱う液体も水のほか油,パルプ液,セメントスラリー,薬液など各種のものがある。

(2)斜流ポンプ 全揚程が数m~30m程度で比較的小さく流量が多い場合に用いられる。遠心ポンプに比べてインペラーは幅が広く,寝た形状をしている(図2)。案内羽根は円周上に固定翼を7~10枚程度並べたもので,水はその間を通る間に減速し,圧力が増大する。回転数一定の原動機で駆動する場合,ポンプ出口側の管に取り付けた弁を全閉しても運転できる。流量によって全揚程が大幅に変化するから,揚水高さの変動が大きい場合に好適である。立軸,横軸形式があり,またインペラー側板のないものも多く,大型機では運転中に羽根取付角が変えられるようにした可動羽根とすることもある。火力発電所などの冷却水循環用ポンプ,河川の排水ポンプ,下水道用ポンプをはじめ数多く製作されている。

(3)軸流ポンプ 斜流ポンプよりさらに全揚程が小さい場合に用いられる。斜流ポンプと類似な形状をしているが,インペラーは船のプロペラのような形で3~5枚程度の翼からなっている(図3)。軸流ポンプのインペラーを水の中で回転させると,翼に働く揚力が水に対し仕事をするので水のもつエネルギーは増大し,軸方向の流れが得られる。これが軸流ポンプの作動原理である。軸流ポンプは大容量のものが多いが,回転数一定の原動機で駆動する場合,運転可能なのは設計点近くの流量範囲に限られる。吐出側の弁を絞って流量を減少させると,振動を生じ,原動機が過負荷となるので運転不能になる。この欠点を回避し,広範囲の流量に対しよい効率で運転できるようにするため,とくに大型機では運転中に羽根取付角を変えられるようにしたものもある。

空間容積を周期的に変化させ,液体の吸込み,吐出作用を行わせるポンプで,種々な油圧装置用として使われることが多い。水用ポンプとして容積形ポンプの一種である往復ポンプを用いることもある。いずれもターボ形に比べて流量はきわめて少ないが,得られる圧力は非常に高い。なお,圧力油を動力伝達の媒体として使用する場合は,ポンプで加圧した油を必要なところへ導き,ポンプとほとんど同じ構造のものを逆に油圧モーターとして使用する。

(1)往復ポンプ ワットの蒸気機関の発明により,蒸気動力を利用した往復ポンプの基礎が確立され,イギリスで改良が加えられた。19世紀になりアメリカのワーシントンHenry Rossiter Worthington(1817-80)によりさらに改良され,とくに1859年に製作された2シリンダーの往復ポンプ形式のものは,今日でもウォーシントンポンプとして使用されている。往復ポンプはシリンダー内でピストンあるいはプランジャーを往復運動させ,それに対応させて吸込管あるいは吐出管への流路を弁により開閉し,水を吸い込み,吐き出させる。クランク軸の1回転につき送り出す流量は,ピストンの往復運動により排除する容量にほぼ等しいから,回転数が一定であれば,圧力上昇の大きさに関係なく流量もほぼ一定である。ピストンの吸込行程では吐出管に水が流出しないので,ピストンポンプからの吐出流れは圧力や流量が変動する。このため,吐出管の途中に空気室を設けて脈動を軽減させたり,シリンダー数を多くしてクランク軸が1回転する間の吐出回数を多くして流れを平均化している。ごく簡単なものが家庭井戸用として用いられていたが,現在使用されている工業用のものには数十MPaに達するものもある。ただし回転数が小さいので大型機械となる。油圧機器用の高圧プランジャーポンプも同様な原理である。

(2)回転ポンプ ケーシング内で特殊な形状をしたローターを回転させる形式のもので,歯車ポンプ,ベーンポンプおよびねじポンプが主要なものである。歯車ポンプは図4に示すように歯車が容器内でかみ合いながら回転し,歯とケーシング壁の間の空間に液体がはさまれ,吸込側から吐出側へ送り出されるものである。油用がふつうで,流量は少ないが25~30MPaの圧力のものまである。内接歯車を用いたものもある。なお,歯車ポンプは1593年フランスのセルビエールServièreにより,現在のものと同じ考え方のものが初めて作られた。ベーンポンプは図5に示すように,ローターの回転につれて可動羽根が半径方向に出入りし,歯車ポンプと同様にポンプ作用をする。最高40MPa程度の圧力まで得られ,主として油用である。ねじポンプは2本あるいは3本のねじ棒をかみ合わせながら回転させることによりポンプ作用をさせるもので,主として油用で数~20MPa程度の圧力に対して使用される。

(1)渦流ポンプ 摩擦ポンプともいい,軸に取り付けられた円板の外周に多くの溝を設けたインペラーを高速で回転させるもので,外側のケーシングとインペラー外周部との間にはさまれた液体はインペラーにつれて円周上を流れ,吸込口から吐出口へ移動する(図6)。渦巻ポンプに比べて小型であり,流量は少ないが比較的高い圧力が得られ,家庭井戸用のポンプとして広く用いられている。(2)ジェットポンプ 高圧の水を小さなノズルの穴から高速で噴出させると,ノズル出口の圧力が下がって真空状態となるが,これを利用して下方の管から水を吸い上げる形式のポンプをジェットポンプという(図7)。吸い込まれた水はノズルから噴出した流れと一体となり,ディフューザー部を通って減速し,圧力を高めて吐出口から流出する。原動機を必要とせず,高圧水のもつエネルギーによってポンプ作用をさせるところに特色があり,沸騰水型原子炉などで用いられている。(3)気泡ポンプ 圧縮空気を用いて揚水作用をさせるポンプ。水中に突っ込んだ揚水管の下端へ圧縮空気を吹き込むと,気泡が管内を上昇するが,それにつれて水もいっしょに上方へ移動する。この性質を利用したもので,構造は非常に簡単である。深海底のマンガン団塊の採取に利用することも検討されている。このほか特殊なポンプとしては水撃作用を利用した水撃ポンプなどがあるが,現在ほとんど用いられていない。
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百科事典マイペディア 「ポンプ」の意味・わかりやすい解説

ポンプ

外部からの動力によって,水,油などの液体に連続してエネルギーを与える機械。低水位にある液体を高水位に上げたり,圧力を高めたりするのに利用される。ポンプは容積形,ターボ形,その他に大別される。容積形は液体をいったん独立した空間に閉じ込め,吸入側から吐出側に圧送する。容積を作り出す方法に往復式と回転式があり,往復式にはピストンポンプ,プランジャーポンプ,ウィングポンプ等,回転式には歯車ポンプ,ベーンポンプ等がある。容積形は小量の液体に高圧を与えるのに適し,油圧ポンプとして使われることが多い。ターボ形は高速回転する羽根車中を通過する液体が,羽根車からエネルギーを受けて昇圧されるもので,羽根車を通過するときの流れの方向により軸流ポンプ,斜流ポンプ,遠心ポンプに分類される。容積式に比し大量の液体の圧送に適し,工業用ポンプのほとんどを占める。その他の形式には,運動量の交換を媒介として液体にエネルギーを与える渦流ポンプ,ジェットポンプ,気泡(きほう)を吹き込む気泡ポンプや,電磁気力を利用する電磁ポンプ等がある。なお真空ポンプ,エアポンプのように気体を扱う場合もポンプと呼ぶことがある。→噴射ポンプ
→関連項目水力機械農具

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化学辞典 第2版 「ポンプ」の解説

ポンプ
ポンプ
pump

おもに液体の揚送,輸送を行うための機械で,遠心式,容積往復式,容積回転式,そのほかの特殊形式に大別できる.遠心ポンプは液体を回転させ,その遠心力によって圧力を発生させるポンプの総称で,渦巻ポンプ,斜流ポンプ,軸流ポンプがある.遠心式は容積往復式に比べて同容量のものが小型になり,脈動もなく,弁をつかっていないので泥水などの輸送も可能であるが,高揚程を得るには段数を多くしなければならない.容積往復式は,ピストン,プランジャーなどの往復運動により液体を間けつ的に送るものである.単動式では脈動がはげしいので,複動,差動,2連など流れを平均化する工夫がされているものもある.主として圧力が高く流量の少ない場合や,高粘度液の輸送に用いられる.容積回転式は,ケーシングの内部ですきまのないようにつくられた歯車,仕切板,スクリューなどを回転し,液体をその空げきに閉じ込めて送り出す.容積往復式よりも脈動は少なく,また,遠心式よりも高揚程が得られる.ウエスコポンプも回転ポンプの一例で,歯のついた回転車を高速度で回転し,その粘性を利用して液体を揚げるもので,吐出量は1~8 m3,揚程は10~20 m 程度である.そのほか,特殊ポンプとしてアシッドエッグなどのように気体の圧力を利用するものもある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポンプ」の意味・わかりやすい解説

ポンプ
pump

低所にある液体を管を通して高所に揚げ,また低い圧力の容器内にある液体を管を通してより高い圧力の容器内に押込むための機械装置。ただし容器内にある空気またはその他のガスを押出して真空をつくる機械装置を真空ポンプという。ポンプには種類が多く,工業上最も多く使用されている渦巻ポンプ軸流ポンプのほか,斜流ポンプ往復ポンプ回転ポンプ再生ポンプ噴流ポンプ,空気揚水ポンプなどがあり,揚水,排水,送水,圧縮用として使用される。家庭用のほか広範囲の利用価値を有する産業機械の一種である。

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リフォーム用語集 「ポンプ」の解説

ポンプ

機械的なエネルギーを液体・気体の圧力・運動エネルギーに変換させる流体機械のこと。圧力を高めたり減圧したり、物質を 移動させる事が主用途。

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栄養・生化学辞典 「ポンプ」の解説

ポンプ

 能動輸送体をいうことがある.ナトリウムポンプ,水素イオンポンプのように使う.とくにイオンの能動輸送体をいう場合が多い.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のポンプの言及

【機械】より

…西洋では紀元前から風笛の機械装置としてパイプ・オルガンがあってヘロンやウィトルウィウスの著書にも現れている。オルガンの誕生にはふいごが前提となるから,それ以前にポンプがなければならない。ビュザンティオンのフィロン(前2世紀)には押上げポンプの記載があり,またローマ時代の揚水ポンプも発掘されているが,これはウィトルウィウスが述べているものに近い。…

※「ポンプ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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