フランスの劇作家,小説家。パリで生まれ,造幣局監督の父に従い少年期を地方で過ごす。法律を学びパリに出てフォントネルらと交際,ランベール夫人,タンサン夫人のサロンに出入りした。ビュルレスク(バーレスク)風の小説から出発したが,1720年J.ローの東・西インド会社に投資,破産した頃から生活のため劇作に励む。同年《恋に磨かれたアルルカン》がイタリア座で成功,以後約20年間同座とコメディ・フランセーズに30余の作品を提供する。マリボーの真骨頂は恋の誕生とその発展を扱う恋愛心理喜劇にある。恋愛感情が芽生えどんな曲折を経て進行するか,元来が小説的なこの主題を彼は大胆細心に処理する。登場人物の独白は小説中の心理描写に代わり,対話は揺れ動く心の表白である。〈わたしは人の心の中で恋が人目を忍んで隠れていそうな物陰をかたっぱしからうかがった。わたしの喜劇はどれもそうした物陰のひとつから恋をかり出そうとして作ったのだ〉と語る彼は,複雑で繊細な感情を正確に表すため,〈マリボダージュ〉と呼ばれる微妙で緊張感に満ちた文体を用いた。代表作は《恋の不意打ち》(1722),《二重の不実》(1723),《愛と偶然のたわむれ》(1730),《偽りの告白》(1737)などである。小説としては未完だが当時の社会風俗のみごとな観察である長編《マリアンヌの生涯》(既刊11部,1731-41),《成上り百姓》(1734-35)が重要である。1743年アカデミー・フランセーズ会員となる。
執筆者:鈴木 康司
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フランスの劇作家、小説家。パリに生まれる。少年時代をオーベルニュ地方で過ごし、1712年パリに戻り、サロンに出入りし、芝居および小説を書いているが、評判をとるには至らない。20年喜劇『恋に磨かれたアルルカン』で成功を収める。同年財務総監ローの経済政策に巻き込まれ破産。以後、文筆だけで生計をたてようとする。1人でなんども新聞の発行を試みるが、長続きしない。描写の写実性と鋭い心理分析で知られる未完の小説『マリアンヌの生涯』(1731~41)、『成り上がり百姓』(1734~35)の2作を除けば、多くは劇作品で、40編にも及ぶ。『恋の不意討ち』(1722)、『愛と偶然との戯れ』(1730)、『偽りの告白』(1737)、『試練』(1749)など恋愛心理劇として有名である。恋の発生とそれをめぐる主人公の心理が、軽やかであるが心のひだを巧みに表現する台詞(せりふ)によって表されているところに特徴があり、その台詞はマリボーダージュmarivaudageとよばれている。すべての作品が恋愛心理劇であるわけではなく、人間の平等を寓意(ぐうい)的に主張する『奴隷の島』(1725)、『理性の島』(1727)のような作品もある。
[原 好男]
『小場瀬卓三他訳『マリヴォー・ボーマルシェ名作集』(1977・白水社)』
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…演劇の歴史のなかで,ふつう,悲劇とともに演劇の二大分野の一つをなすといわれる。明確な定義があるわけではないが,通念上の最大公約数的な定義をすれば,何らかのかたちで笑いをよびおこす演劇一般,ということができよう。しかし,実際にはたとえばチェーホフが,《桜の園》や《かもめ》のような作品の副題に,わざわざ〈喜劇四幕〉とことわったことに象徴されるように,とくに近代以降においては喜劇の概念はあいまい化しており,そのような分類自体が無意味であると考える人も少なくない。…
…一定の間隔をおき長期にわたって刊行を続ける出版物。新聞や印刷通信物などとあわせて定期刊行物periodical,または図書館などにおいては逐次刊行物などと呼ばれることもあるが,新聞などにくらべると1号ごとの内容的なまとまりが強く,発行間隔がより長いことに耐えうるような編集,印刷,造本などの配慮がなされる。継続刊行ではあっても,双書などのように当初から全容がはっきりしていてその部分をかさねてゆくのとは異なり,1号ごとの刊行が主眼となり誌齢は試行の発展(または縮小)として結果する。…
…【渡辺 守章】。。…
※「マリボー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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