ユダヤ人歴史家,著述家。エルサレムの名門祭司の家に生まれ,聖書と律法解釈の教育を受けた後,パリサイ,サドカイ,エッセネの3派を巡る。64年ころローマへ使節として赴く。66年第1次ユダヤ戦争勃発とともにガリラヤの長官となり,翌年ローマ軍に投降。敵将ウェスパシアヌスとその子ティトゥスがローマ皇帝となることを予言し,69年予言の実現とともに自由の身になり,新帝の氏族名フラウィウスを与えられ,71年以降ローマに住み,新帝以下フラウィウス朝の皇帝たちの保護の下に著述に専念し,ギリシア語による大部な著作を残した。その像がローマに建立され,著書はローマの図書館に収納されたと伝えられる。
その著《ユダヤ戦記》7巻は,マカベア戦争に始まり,第1次ユダヤ戦争の経緯を中心としたユダヤ史。この戦争に関するローマ側の公式記録たるべく期待され,同時にフラウィウス朝支配の正当化,補強の役割も担わされ,さらに同胞その他に無謀な反乱を戒める意図も盛られていた。75-79年の作。《ユダヤ古代誌》20巻は,ユダヤ人とはいかなる民族なのかということを,天地創造から第1次ユダヤ戦争勃発直前までのユダヤ史を紹介することによって異邦世界に示し,ユダヤ教の律法に従うことによって神の全き徳にあずかるよう読者に勧めようとしたもの。93ないし94年に擱筆された。《自伝》1巻は前著の付録で,ガリラヤにおける著者の行動の弁明の書。《アピオンへの反論》2巻は,ユダヤ民族の古さを弁証し,アピオンその他によるユダヤ民族に対する非難・中傷に反論したもの。95年ころの著作と推測される。
執筆者:土岐 健治
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ユダヤの歴史家。祭司の家系に生まれ、第一ユダヤ戦争(66~73)ではユダヤ軍のガリラヤ地区の指揮官として戦ったが、彼の立てこもったヨタパタの陥落とともに、ローマ軍総司令官で後の皇帝ウェパシアヌスに投降した。その後ローマ軍の案内人となり、70年、エルサレムの陥落後、ローマに赴き、ローマ市民権、土地、年金を与えられ、著作活動に専念した。『ユダヤ戦記』(七巻)、『ユダヤ古代誌』(20巻)、『自伝』(一巻)、『アピオン反論』(二巻)がその著作として伝えられ、いずれもギリシア語で記されている。彼は戦争では民族を裏切った立場に置かれたが、この戦争を扇動した熱心党を糾弾し、異民族に対してはユダヤ人を弁護した。彼の史書は、ユダヤ史はもちろん、ローマ史、原始キリスト教史にも貴重な史料を提供している。
[秀村欣二]
『新見宏・秦剛平訳『ヨセフス全集』全16巻(1975~85・山本書店)』
37?~100?
ユダヤの歴史家。イェルサレムの祭司の家の出。第1次ユダヤ戦争でガリラヤの防衛にあたり,敗れて攻将ウェスパシアヌスに降ったが,厚遇され,ローマで『ユダヤ戦記』『ユダヤ古代史』などを著した。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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