ラグナレク(その他表記)Ragnarök

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラグナレク」の意味・わかりやすい解説

ラグナレク
Ragnarök

北欧神話で神と人間の世界終末を表すことば。ラグナレクに関する完全な記述は,10世紀終わり頃のアイスランド詩『巫子シビルの予言』Völuspáや,スノッリ・ストゥルルソンが 13世紀に書いた散文エッダにあるのみである。これらによると,ラグナレクは過酷な冬と道徳の乱れが訪れたあと,あらゆる方向から巨人や悪霊が神々のもとに押し寄せ,神々はエインヘルヤルらとともにビグリズの野で大部分が死に絶える。太陽は暗くなり,星は消え,世界は火の巨魔スルトによって焼き尽くされ,大地は海に没する。その後,大地は生まれ変わって新世界が現れ,オーディンの息子で光明の神のバルドルたちが死からよみがえり,正しき者たちは黄金の屋根をふいた広間に暮らす。他の多くの資料にみられるラグナレクについてのさまざまな示唆は,ラグナレクの概念がそれだけ多様であったことを示している。ある詩によれば,人間の夫婦リブとリフズラシルは身を隠していたホッドミミルの森から出てきて,世界を再創造するとある。ドイツの作曲家リヒアルト・ワーグナー楽劇 "Götterdämmerung"は,ラグナレクのドイツ語訳で「神々の黄昏たそがれ)」を意味する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「ラグナレク」の意味・わかりやすい解説

ラグナレク
Ragnarök[ドイツ]

〈神々の運命〉の意味で,北欧神話で世界の終末,とくに神々の滅亡を表す。エッダ詩《巫女の予言》およびスノッリ・ストゥルルソンの《エッダ》によると,世界の終末の前兆がいくつかあり,それから狼が太陽をのみこむ。星々は天から落ち,大地は震え,木々は根こそぎにされる。怪狼フェンリルは自由の身になり,大口を開けて進み,ミズガルズの大蛇は毒を吹きながら陸に肉薄する。天は裂け,火の巨人スルトは巨人族を率いてやってくる。彼らが渡るときビルロストの橋は砕け落ちる。ヘイムダル角笛を高々と吹いて神々を目覚ます。オーディンミーミルに助言を求め,神々と死せる戦士たちは甲冑に身を固め戦場へ急ぐ。こうして神々と巨人族は死力を尽くして戦い,オーディンは狼に呑みこまれる。トールは大蛇と相討ちし,フレイはスルトに倒される。このようにして両者とも倒れ最後にスルトが投じた火で天も地も燃え上がり全世界が火炎の中に滅び大地は海中に沈む。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「ラグナレク」の意味・わかりやすい解説

ラグナレク

北欧神話で世界の終末,神々の滅亡をいう語。原義は〈神々の運命〉。〈神々のたそがれ〉とも。オーディントールフレイらの神々とスルト,ロキフェンリル狼,ミズガルズ蛇ら巨人族,怪物が死力を尽くして戦い,最後に天地は炎上して滅びる。
→関連項目ニーベルングの指環

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のラグナレクの言及

【北欧神話】より

…奈落の口の南にムスペルスヘイムMúspellsheimrという火焰をあげて燃え上がる国があり,そこをスルトSurtrという者が警護に当たっている。彼は燃えさかる剣を手に持ち,世界の終末(ラグナレク)が近づくと荒し回り,世界を火で焼き尽くすことになる。奈落の口の北側にはニブルヘイムNiflheimrがあり,そこには氷と霜があって毒液の流れが奈落の口に流れ込んでいる。…

※「ラグナレク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android