ラッコ(読み)らっこ(英語表記)sea otter

翻訳|sea otter

共同通信ニュース用語解説 「ラッコ」の解説

ラッコ

食肉目イタチ科に分類される海生哺乳類。主な生息地は北太平洋沿岸。体長100~145センチ、体重15~45キロで、海にすむ哺乳類の中で最も小さい。皮下脂肪が薄く、1日に体重の約3割もの海産物を食べて体温を維持している。あおむけの姿勢で泳いだり、腹の上で貝などをたたき割ったりする姿が人気。18世紀以降、ラッコの良質な毛皮を求めた乱獲で個体数が減少し、2000年、国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種に指定した。日本では臘虎らっこ膃肭獣おっとせい猟獲取締法で捕獲が禁じられており、現在は米国も輸出を原則禁止している。

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日本歴史地名大系 「ラッコ」の解説

ラッコ
らつこ

漢字表記地名「楽古」のもとになったアイヌ語に由来する地名。河川名・山名としても記録されている。また河川名「ラツコベツ」が当地をさす地名として用いられる場合もある(東行漫筆)。当地一帯は近代に入り茂寄もより村に包含された。仮名表記は「ラツコ」「らつこ」(東蝦夷地場所大概書)のほか異表記をみない。語義について秦「地名考」は「ラツコベツ ラツコは落なり。滝をラツキベと云。キコ通音。又獣のラツコも海岸の岩に上り居る処へ蝦夷舟至れハ落る如くに海底に入を以てラツコルと云しを、語略してラツコと云」と記し、「地名考并里程記」には「昔時此川の辺江猟虎流れ寄りしより字になすと云ふ」とある。松浦武四郎は板本「東蝦夷日誌」では「昔し爰へ猟虎が流れよりしが故に号く」と従来の説をあげるとともに、「奥の方の山焼来り、此処にて留りしに依ても言伝ふ」と「惣乙名ハユヘク」の解釈を紹介している。

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改訂新版 世界大百科事典 「ラッコ」の意味・わかりやすい解説

ラッコ
sea otter
Enhydra lutris

カワウソに似るが後足に大きな水かきを備え,より水中生活に適した食肉目イタチ科カワウソ亜科の哺乳類。かつては北海道からサハリン,カムチャツカ,コマンドル諸島,プリビロフ諸島,アレウト列島,アラスカ南岸を経てカリフォルニア西岸までの沿海に広く分布していた。一時絶滅寸前となったが,現在ではカリフォルニアからアレウト列島付近でよく繁殖し始めている。体長100~120cm,尾長25~37cm,体重は雄で22~45kg,雌で15~32kg。体は大きくがんじょうで,首,四肢,尾は短い。頭は丸く,耳介は小さくほとんど毛に隠れ,目も小さい。吻(ふん)に触毛が発達する。前足は小さく,指も短いが,左右の前足で物を巧みにつかむ。後足は平たく大きくひれ状に発達し,第1指よりも第5指のほうが長い。鰭脚(ききやく)目の海獣とは異なり,皮下には特別に厚い脂肪層はない。体毛は厚く密で水をよくはじき,赤褐色から暗褐色,ほとんど黒色まであり,頭部,のど,胸は灰色または黄白色。

 海上生活によく適応し,ほとんど陸に上がらず,あお向けに海面に浮かび生活する。集団で生活し,一般に昼行性で,海中に20mほど,ときに100m近く潜り,ウニ,アワビなどの貝類,カニ,不活発なイカや魚などをとらえる。海面に浮かんで獲物を食べるが,殻の硬いものは,海底で拾った石を胸に置き,それに打ちつけて殻を割り,身を食べる。摂食量は多く,1日に体重の20~25%に達するが,それは体温を保つためと,必要な水分を得るためで,水分の23%は海水を飲むことで得られ,残りは食物より得る。夜はコンブなどを体に巻きつけて流されるのを防いで眠る。

 繁殖は一年中行われるが,北部では5~6月,南部では12~2月に出産のピークがある。妊娠期間は6ヵ月半から9ヵ月で,受精卵の子宮への着床遅延があるとみられている。出産はしばしば水中で行われるようで,1産1子,まれに2子が生まれるが,2子の場合育つのは1頭のみである。子は初め母親の胸の上で育てられ,6~8ヵ月間は母親に依存して生活する。寿命は飼育下で19年の記録がある。

 毛皮は最高級品のため乱獲され,1758年に発見されて以来およそ150年間にほぼ絶滅状態となり,1911年に国際条約で保護された。ようやく近年になって生息数が増加し,83年末には日本の水族館へも送られてくるようになった。
執筆者:

臘虎また海獺の文字をあてる。毛皮として賞用されたため,19世紀にロシア人,中国人,日本人,アメリカ人などが北太平洋沿岸のラッコを争って捕獲したためほとんど絶滅に瀕(ひん)した。数が少ないため古来最高価の毛皮とされ,明治・大正期に〈ラッコの皮を襟巻(えりまき)にしている〉という表現が,成金紳士の形容としてよく用いられた。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラッコ」の意味・わかりやすい解説

ラッコ
らっこ / 猟虎
sea otter
[学] Enhydra lutris

哺乳(ほにゅう)綱食肉目イタチ科に属する海獣。成体の頭胴長は1.2メートル、尾は0.4メートル。体重は25~40キログラム。雄は雌よりやや大きい。イタチに似た体形であるが、頭部は上下に平圧された形で、胴は長く筒形である。口辺の感覚毛は長くて目だつ。前肢は短くて小さい。指の間には水かきがあるが、器用に物をつかむことができる。後肢は大きく、水かきが発達し、遊泳器官として適応している。尾は平たく、先端はとがる。体色は黒褐色から灰褐色まで個体差が大きく、頭部ほど淡い。年をとるにつれて銀白色に変わる。綿のような下毛と、太く長い上毛からなり、一つの毛穴から1本の上毛と約70本の下毛が生える。密に生えた下毛の間の空気の層が保温の役目をする。

 ラッコは海生で、岩礁に上ることもあるが、通常は海岸の岩礁域の海の中で生活し、背中を下にして水面で休んだり、泳いだりするのが特徴的である。その際には頭と前肢を水面に出し、後肢と尾で推進したり体のバランスをとったりする。また、海藻を体に巻き付けて休むことも多い。ラッコは北太平洋の中央カリフォルニアからアラスカ、アリューシャン列島カムチャツカ半島千島列島、樺太(からふと)(サハリン)、北海道にかけての沿岸の水深40メートル以浅の海に生活し、回遊はしない。

 良質な毛皮の生産を目的として、18世紀から19世紀にかけて乱獲され、各地で絶滅の危機にさらされたが、1911年(明治44)から国際条約によって保護した結果、資源はしだいに回復し、1970年代には約14万頭の資源量が推定され、分布域もしだいに拡大している。最近北海道の南岸でもみかけるようになった。雌は3、4年で成熟し、繁殖周期は2年である。交尾期は10~11月が盛期で、5~6月に出産する例が多いが、1年のいつでも交尾と出産がみられる。自然死亡率は約10%であり、最長寿命は23歳と推定される。餌(えさ)は貝類、棘皮(きょくひ)動物、節足動物で、石を道具に使って貝殻を割って食べることもする。

 現在、ラッコの猟獲は全面的に禁止され、毛皮は商品となっていない。資源が回復した結果、飼育のための捕獲が緩和され、最近では日本の各地の水族館でアメリカから輸入して観覧に供している。資源が増加するにつれて、ラッコは漁業者と競合するようになった。ラッコは新陳代謝が盛んで、商品価値の高いアワビ、二枚貝、ウニなどを好んで大量に捕食して、それらの水産物を利用して生活する漁業者に不利益を与えている。

[西脇昌治]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラッコ」の意味・わかりやすい解説

ラッコ
Enhydra lutris; sea otter

食肉目イタチ科カワウソ亜科ラッコ属。体長 100~130cm,尾長 25~37cm。体重は雄 22~45kg,雌 15~32kg。出生体重は 1.4~2.3kg。頭部,喉部,胸部は灰色もしくは黄白色,それ以外は暗褐色や赤褐色,黒色など,さまざまな毛色を呈する。頭部は大きく丸みを帯びる。鼻鏡は菱形で触毛が密に生える。前肢は短く,指は分かれていない。後肢に大きな鰭(ひれ)状の蹼(みずかき)がある。乳頭数は 2個。門歯は上顎 6本,下顎 4本,犬歯は上顎と下顎に各 2本,前臼歯は上顎と下顎に各 6本,臼歯は上顎 2本,下顎 4本である。密生している毛に空気をたくわえ,海水中に体温が放出されるのを防ぐ。昼行性で夜は大型のケルプ(オニコンブなど)の中で休む。アワビ,ウニ,二枚貝,底生魚類などを好んで捕食する。前肢で巧みに餌をつかみ,幅広で平たい臼歯で殻を砕く。また石や貝を用いて貝殻を割ることがよく知られている。ケルプを食べるアワビやウニをとるので,ケルプとの共生関係にあり,ラッコの生息地では良好な海中林が形成される。繁殖期は一様でなく,アリューシャン列島では 5~6月,カリフォルニアでは 12月~2月である。妊娠期間は 6.5~9ヵ月。通常 1産 1仔であるがまれに 2仔。出生仔は明るい茶色を呈する。性成熟は雄 5~6歳,雌 4歳。千島列島,アリューシャン列島,アラスカ湾およびカリフォルニアに分布する。良質の毛皮を目的に乱獲されたが,1911年以降保護されている。カリフォルニアに生息するものはアラスカより移入されたものである。かつては北海道にも生息していたが乱獲により激減した。近年,千島列島からの迷入個体が北海道沿岸で確認されることがある。飼育下での繁殖例は多い。

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小学館の図鑑NEO[新版]動物 「ラッコ」の解説

ラッコ
学名:Enhydra lutris

種名 / ラッコ
科名 / イタチ科
日本にいる動物 / ◎
解説 / 海岸から約10km以内の海で生活し、海の上にうかんで、とったえものを食べます。
体長 / 1.2~1.5m/尾長25~37cm
体重 / 15~45kg
食物 / 魚、甲殻類、ウニ、貝
分布 / 北太平洋の沿岸域。日本近海では北海道東沿岸
絶滅危惧種 / ☆

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百科事典マイペディア 「ラッコ」の意味・わかりやすい解説

ラッコ

食肉目イタチ科の哺乳(ほにゅう)類。体長55〜130cm,尾13〜33cmほど。カワウソに似るが,後肢が大きく櫂(かい)状。北千島〜アラスカ半島南方,カリフォルニア沿岸に分布。海上に群生し,背を下にして浮かび,腹の上でウニやアワビの堅い殻などを石で割ったりして食べる。夜も海に浮かんだまま眠る。毛皮は最高級品で,乱獲の結果減少した。現在では国際条約で捕獲禁止。

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世界大百科事典(旧版)内のラッコの言及

【毛皮】より

…日本にも少数生息する。 シー・オッターsea otterラッコの毛皮。毛色は黒に近い褐色で,年をとると銀色の刺毛がまじり,じょうぶで美しい。…

【海獣】より

…基本的には陸上動物としての生活に適した哺乳類の特徴(肺呼吸,胎生など)を備えながら,水中生活に二次的に適応した動物群。水中生活への適応の程度は,種類によってさまざまで,クジラ類のように,水中生活に高度に特殊化した魚型の体型をもつものから,ラッコやホッキョクグマのように,水中生活者としての進化史が浅く,陸上動物とあまり変わらない体型をもつものまでが含まれる。生活時間の多く,あるいはすべてを水域で過ごし,食物のほとんどすべてを水域から得ているが,アシカ,アザラシのように子の水中での運動能力が十分でないことから,繁殖と育児は陸に上がって行う必要のあるものがある。…

【毛皮】より

…18世紀になって,乱獲による毛皮獣の減少から,ヤサクの減収や滞納が目だつようになると,ロシア政府はシベリアにヤサク委員会を設けて,毛皮徴取の方法などを改善整備するが,減少傾向はくい止められず,19世紀の毛皮生産はかなり後退する。クロテン,テン,カワウソの減少は著しく,とくにビーバーやラッコは完全に捕り尽くされた。しかし現在もなおロシアは世界有数の毛皮産出国であり,幾種類かの高級毛皮を国際市場に送りだしつづけている。…

※「ラッコ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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