リアリズム(読み)りありずむ(その他表記)realism

翻訳|realism

デジタル大辞泉 「リアリズム」の意味・読み・例文・類語

リアリズム(realism)

現実主義
写実主義
哲学で、実在論。また、実念論

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精選版 日本国語大辞典 「リアリズム」の意味・読み・例文・類語

リアリズム

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] realism )
  2. 事物をありのままに写し出し空想や理想化を排する芸術上の立場。写実主義。写実。
    1. [初出の実例]「主実主義(リアリズム)を卑(かろ)んじて、二神教(ヂュアリズム)を奉じ」(出典:小説総論(1886)〈二葉亭四迷〉)
  3. 日常において、現実を第一義とし、現実的・実際的な事柄を重視する立場。現実主義。
    1. [初出の実例]「リアリズムの世の中ですからね」(出典:なめくぢ横丁(1949)〈尾崎一雄〉三)
  4. 哲学で、実在論。

リアリズムの語誌

( について ) ( 1 )あらゆる時代に見られるが、西洋では特に一九世紀中期以降、実証主義の影響の下にロマン主義への反動としてフランスに始まり各国に波及した。代表作家にバルザックフロベールサッカレーディケンズヘッベルケラーツルゲーネフドストエフスキートルストイなど。
( 2 )日本では井原西鶴などの近世文学にも見られるが、近代リアリズムの理念は坪内逍遙の「小説神髄」によって提唱され、二葉亭四迷、尾崎紅葉、樋口一葉などによって継承され、自然主義に発展していった。また、詩歌・美術の領域や写生文などにもこの理念が生かされ、左翼文学では社会主義リアリズムが唱えられた。

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知恵蔵 「リアリズム」の解説

リアリズム

リアリスティック(realistic)なフィクション(fiction)という用語法自体が形容矛盾ではあるが、リアリズムはすべての文学に多かれ少なかれ内在する。リアリズムは普遍的な様式概念としてではなく、より具体的に、19世紀小説の時代様式として考えた方がわかりやすい。19世紀リアリズム小説は、ロマン主義の過剰への反動として成立し、様々な階層の日常的なキャラクターを登場させ、その日々の暮らしを通じて特定の時代、特定の社会を活写した。虚飾を排した平明な文体で、出来事や人物のみならず、話の展開に直接の関係を持たない些事や日常生活の細部を事細かに描出していった。19世紀リアリズム小説の代表的作品には、フランスのギュスターヴ・フロベール『ボヴァリー夫人』(1857年)、ロシアのイワン・ツルゲーネフ『猟人日記』(1852年)などがある。19世紀リアリズムの一流派であり、その方法をより客観主義的、科学的方向に純化したものとして、自然主義がある。自然主義文学は、人間は社会的、歴史的存在であると同時に、生物学的、生理学的原理によって抗しがたく導かれるもの、との基本的立場から、想像力の働きを抑制し、観察の結果を重視した、科学主義的、実験的手法でそんな人間の生態を精密に描き出そうと試みた。自然主義文学の代表作、フランスのエミール・ゾラの『ルーゴン=マッカール叢書』(1869〜93年)に見て取れるように、そこにはそれまでの文学にはない同時代性と社会批判の要素があった。明治後期の日本に導入された自然主義は、私小説という変種を生んだ。私小説は「私」を描き尽くすのではなく、むしろ半透明化された「私」を通して、そこに映じた人間関係や外界を写しとろうとした。それは必然的に、心境小説と化していく。私小説的伝統の残滓を通して、自然主義は今日に至るまで日本文学の現場に、その影をとどめている。

(井上健 東京大学大学院総合文化研究科教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「リアリズム」の解説

リアリズム
realism

現実主義。哲学・芸術上では,現実的(realis)であることを重んずることを意味するが,何を真実とみるかによってその内容は異なる。哲学上では認識の問題として,なんらかの意味で意識から独立した実在を認める立場をいう(実在論)。文芸上では特に19世紀後半フランスに始まる写実主義をいい,ここではロマン主義に対して自然や人生の現実をありのままにみようとするが,やがて人間と社会生活を自然科学的方法で解剖しようとするに至った(自然主義)。他方また,現実の直視が民主主義的な意味を持つことを強調する社会主義リアリズムが成立する。美術上では文学よりも広義に理解されるが,歴史的流派としてはクールベ,ムニエらをさしていう。また,国際政治学では,第一次世界大戦後,平和を実現するためには国際法国際機構の整備・充実をはかればよいとの考え方(理想主義,ユートピアニズム)が支配的であったが,第二次世界大戦後は国際政治をアナーキー的状況ととらえ,自国の安全を保障するにはパワー(権力)に依存するしかないとする考え方が強まった。これも現実主義という。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リアリズム」の意味・わかりやすい解説

リアリズム
realism

写実主義,現実主義。哲学では実在論と訳される。一般的には,客観的事物をあるがままに,正確に再現しようとする態度。概念として,抽象芸術古典主義ロマン主義と対立する。美術,文学上,この語が用いられるようになったのは,A.コント実証主義の影響のもとに,理想主義的啓蒙思想と夢幻的ロマン主義への反動として,19世紀中葉に発達した芸術運動による。(→リアリズム〈美術〉,リアリズム〈文学〉)

リアリズム[文学]
リアリズム[ぶんがく]
realism

写実主義,現実主義。 1850年代フランスに起った,客観的観察によって現実を忠実に再現しようとした運動をいう。続いて起った自然主義と共通するところが多い。シャンフルーリ,H.ミュルジェ,L.デュランチーらに代表されるが,ゴンクール兄弟,フローベールの活躍が特筆される。特にフローベールの『ボバリー夫人』 (1857) は,厳密な客観性の追求と美的に完成された文体によって,一流派を超越した存在となった。現代ではリアリズムはきわめて広く解釈されて,時代をこえて文学の一構成要素とも考えられている。

リアリズム[美術]
リアリズム[びじゅつ]
realism

写実主義,現実主義。 G.クールベの「レアリスム」がまずあげられる。ドーミエの政治的風刺画,農民を描いた J.ミレーの作品なども含まれるが,これはイギリスの J.コンスタブル,フランスの T.ルソー,G.ドービニーら外光派の風景画を介して印象主義へと続く。また 20世紀に入って,1930年代に社会的現実としての貧困や暴力を写実的に描く「社会的リアリズム」がドイツで提唱され,ソ連では「社会主義リアリズム」が支配的な教義となった。 (→リアリズム )  

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改訂新版 世界大百科事典 「リアリズム」の意味・わかりやすい解説

リアリズム
realism

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百科事典マイペディア 「リアリズム」の意味・わかりやすい解説

リアリズム

写実主義

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「リアリズム」の意味・わかりやすい解説

リアリズム
りありずむ

実在論

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旺文社世界史事典 三訂版 「リアリズム」の解説

リアリズム

写実主義

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世界大百科事典(旧版)内のリアリズムの言及

【アメリカ文学】より

…もう一人は生前まったく世に隠れて,きわめて私的な自己の世界を磨き,宝玉のような短詩に表現していったエミリー・ディッキンソンである。
[リアリズムの時代]
 南北戦争(1861‐65)から戦後の〈めっき時代〉にかけてアメリカ社会の広範さ,多様さが強く意識され,また人間性の概念が変化した。小説作品が伝記,歴史,哲学上の著作に劣らぬ重要性をもつことを作者が主張するようにもなった。…

【写実主義】より

…リアリズムrealism(英語),レアリスムréalisme(フランス語)などの訳語として成立し,おもに文学・美術などの分野で使われる用語。リアリズム,レアリスムなどの西欧語は,使用分野や意味に応じてそれぞれに訳し分けられて日本に導入された。…

【日本美術】より

…唐は藤原貴族にとって観念化された理想の世界であり,そうした異国へのあこがれを秘めながら,逆説的なかたちで国風美術は形成され爛熟した。平安時代美術
[リアリズムと宋代美術の影響――藤原末・鎌倉の美術]
 院政時代の美術は,前述のような洗練された耽美主義的傾向を示す一方で,いきいきとした現実感の描出を求めている。《信貴山縁起》《伴大納言絵詞》や《鳥獣戯画》などいわゆる男絵系絵巻の変化と流動感に満ちた描写,《地獄草紙》や《餓鬼草紙》《病草紙》など六道絵にみる醜悪な光景の大胆なとりあげ,これらに共通するのは,現実社会への,あるいは人間性への強い関心である。…

※「リアリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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