リカード(英語表記)David Ricardo

デジタル大辞泉 「リカード」の意味・読み・例文・類語

リカード(David Ricardo)

[1772~1823]英国経済学者。古典学派の完成者。労働価値説、貿易における比較生産費説などを展開した。著「経済学および課税原理」など。

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精選版 日本国語大辞典 「リカード」の意味・読み・例文・類語

リカード

  1. ( David Ricardo デービッド━ ) イギリスの経済学者。アダム=スミスと並ぶ古典学派の代表者。労働価値説・分配論・差額地代論国際貿易に関する比較生産費説など創見が多く、マルクスにも大きな影響を与えた。主著「経済学及び課税の原理」。(一七七二‐一八二三

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改訂新版 世界大百科事典 「リカード」の意味・わかりやすい解説

リカード
David Ricardo
生没年:1772-1823

古典派経済学の完成者とみなされ,今日にも大きな影響力を及ぼしているイギリスの経済学者。オランダ生れのユダヤ教徒の株式仲買人の子としてロンドンに生まれ,初等教育だけで14歳から父の見習として働いたが,1793年クエーカー教徒との結婚のため父に義絶された。その後独立の株式仲買人となり,とくに公債引受人として成功し,大きな財産を築いた。1819年42歳のとき,イギリス南西部のグロスターシャーの土地を購入して事業を退き,地金論争(1809-12)ころからしだいに関心を強めていた経済学面での研究・文筆生活にはいったが,主著刊行時と同様,J.ミルの強制に近いまでの勧告によって同年下院議員となり,耳疾の悪化で急死するまで,その地位にとどまった。

 リカードは,職業柄,初めから金融問題を中心に経済問題に関心をもっていたはずだが,その関心に弾みを与えたのは,1797年夫人の病気療養のために赴いたバース温泉で偶然接したA.スミスの《国富論》だったといわれる。1809年,当時の兌換(だかん)停止下での物価騰貴問題について《モーニング・クロニクル》紙に〈金の価格〉を寄稿,翌10年それを整理・再編成したパンフレット《地金の高価格》を公刊して,兌換停止が物価騰貴の原因だとして当時のイングランド銀行の不換銀行券の過剰発行を批判し,兌換の再開を求めたが,これが同年発表された《地金委員会報告書》と同一線上のものだったため,一躍経済学者として注目されるようになった。引き続く穀物法論争(1813-15)時には,J.ミルの強い影響下にパンフレット《低廉な穀物価格が資本の利潤に及ぼす影響についての一試論》(通称《利潤論》)を著して穀物法を擁護するマルサスを批判し,穀物の輸入制限は穀価騰貴=賃金騰貴によって利潤の減少と地代の増加をもたらすから,地主階級の利害と資本家・労働者階級の利害とは対立するとして,差額地代論を中心に,価値論を除く,主著《経済学および課税の原理》(1817)の長期動態論の主要骨格を提示し,穀物の自由貿易への漸次的移行を提唱した。主著で展開された投下労働価値論からはリカード派社会主義やマルクス経済学が生まれ,また彼の差額地代論からはやがて土地国有化論が生まれた。P.スラッファ編(M. ドッブが協力)の《リカード全集》(1951-73)がある。
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百科事典マイペディア 「リカード」の意味・わかりやすい解説

リカード

英国の古典派経済学の大成者。富裕な商人の子で,14歳から株式仲買に従事し富と名声を得た。穀物法改正問題に際して自由貿易論の立場から経済学を研究し,主著《経済学および課税の原理》(1817年)を公刊。同書でスミスの労働価値説を徹底させ,商品価値は投下労働量(労働時間)により決定されるとし,労働の価値(賃金)は労働者の生計費である等の重要な結論を展開した。また地代を生産物の価値に結びつけて究明し,差額地代論を唱えた。労働価値説に立って貨幣,価格をはじめ,賃金と利潤の相反関係等を一貫して究明し,古典学派の最高水準に達した。1819年以降下院議員。前記のほか《地金の高価》(1809年)等の論著がある。
→関連項目古典派自由貿易主義スラッファ賃金生存費説比較生産費説ミル

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「リカード」の解説

リカード
David Ricardo

1772~1823

イギリスの古典学派経済学者。オランダ系ユダヤ人スミス『諸国民の富』にふれ経済学に志す。その立論のうち資本主義的部分はのちにミル(ジョン・ステュアート)によって,剰余価値論の萌芽の部分はマルクス(カール)によって展開された。1819年から下院議員としてみずからの政策の実現を期した。主著『経済学および課税の原理』(1817年)。

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旺文社世界史事典 三訂版 「リカード」の解説

リカード
David Ricardo

1772〜1823
イギリスの経済学者
アダム=スミスの労働価値説を徹底したうえ,分配論や地代論を大成し,古典派(正統派)経済学を確立した。地主・資本家・労働者各階級の利害対立を解明し,穀物法廃止運動の際には,資本家側の立場にたって,廃止を支持した。主著は『経済学および課税の原理』(1817)。

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世界大百科事典(旧版)内のリカードの言及

【軍事費】より

…と同時に軍事費は課税によってまかなわれ,国民の負担とならざるをえないことを一般に強く知らしめるようになった。このような状況にあって,ナポレオン戦争後の戦費問題処理に悩んでいたイギリスで,D.リカードは,《経済学及び課税の原理》(初版1817)で,個々の人が単にその母国に住むという特権のために甘んじて支払う税の負担には限界がある,と述べている。リカードの主張は,租税はその国の資本を減少させ,生産の増加に悪影響をもつ,という考え方を基本にしているが,当時イギリスに脅威となる他の国がなかったことも注意する必要がある。…

【経済学】より

… 社会的分業を出発点として,労働こそ社会の発展の本源的な力であることを明確にして,市場的交換の意味を探ることによって,商品,貨幣,資本,産業組織,資本主義的再生産過程などの理論を展開し,資本主義的市場経済制度のもとにおける経済循環の過程を解明し,さらに市場経済社会における国家の果たすべき経済的役割を分析したのであった。
[リカードによる継承]
 スミスの経済学は,その後D.リカードによっていっそう精緻(せいち)な論理的体系を装うことになっていった。リカードは資本主義経済を構成する経済主体を,地主,資本家,労働者の三大階級に分けた。…

【経済学および課税の原理】より

…古典派経済学の完成者,D.リカードの主著。1817年刊。…

【経済学説史】より

…しかしスミスは,土地のみが生産的であるとする重農主義をも批判し,利潤の概念を確立させた。古典派経済学は,さらに《経済学および課税の原理》(1817)の著者D.リカード,《人口論》(1798),《経済学原理》(1820)などを著し,有効需要の問題を重視して後にケインズに評価されたT.マルサスなどにより展開されていく。そして,古典派経済学の最後の巨峰はJ.S.ミルであり,その著《経済学原理》(1848)は古典派経済学の完成の記念碑である。…

【古典派経済学】より

…古典派経済学(略して古典派あるいは古典学派ともいう)とは一般に,18世紀の最後の四半世紀から19世紀の前半にかけイギリスで隆盛をみる,アダム・スミスリカードマルサスJ.S.ミルを主たる担い手とする経済学の流れをさしている。D.ヒュームらアダム・スミスの先行者や19世紀のJ.ミル,J.R.マカロック,R.トレンズ,ド・クインシー,S.ベーリー,N.W.シーニアー,S.M.ロングフィールドらをどう扱うか,またJ.S.ミルに後続するフォーセットHenry Fawcett(1833‐84)やケアンズJohn Elliot Cairnes(1823‐75),フランスのセーやシスモンディをどう扱うかについて,多少考え方の相違があるが,おおむねこれらの人たちも含まれる。…

【資本】より

… 資本を用いる生産の本質を明らかにするような仕方で,生産の技術上の要件であるさまざまなものの蓄積の本質を示すことはできないかという問題がある。D.リカードとその追随者およびオーストリア学派によれば,資本は過去の労働の蓄積である。資本の量については,たとえばリカードは投下労働の量を,J.S.ミルは生存資料の量を,そしてE.vonベーム・バウェルクは平均生産期間の概念,つまり労働が生産過程内にとどまる平均の時間を考えるというようにさまざまであるが,基本となる考え方は同じである。…

【セーの法則】より

…実際,ナポレオン戦争後の恐慌(1817‐19)の際,J.C.シスモンディやT.R.マルサスが全般的過剰生産が起こりうることを認め,いわゆる過少消費説(〈恐慌〉の項参照)を主張したのに対し,セーは上述の理解から,ただ生産部門間の不均衡による部分的過剰生産を認めただけで全般的過剰生産を否定し,前2者とのあいだに〈市場論争〉と呼ばれる論争を展開した。この論争にはD.リカードやJ.ミルも参加し,全般的過剰生産を否定するセーの見解に賛意を表した。 この論争自体は,恐慌を資本主義的生産様式の矛盾の現れとして最初に問題にしたものとして注目されるが,しかしセーの販路説は,もともと主観的な効用価値説を基礎としており,A.スミスやリカードの労働価値説を継承してその上に展開されたものではなかった。…

【地代】より

…このように,さまざまな土地の地代の差,すなわち,差額地代はそれらの土地の限界生産性や限界効用の差を反映している。それに対して,D.リカードの差額地代説によれば,優等地と劣等地の価値生産性の差額が地代になる。しかし,劣等地でもその存在量が固定されており,その土地の限界生産性あるいは限界効用がゼロでないかぎり,地代は生ずる。…

【賃金生存費説】より

…賃金水準は,労働者の生存費によって決定されるとする賃金学説。その発想は,W.ペティや重農学派にもみられるが,A.スミスによる古典派経済学の体系化をうけてこれを純化したD.リカードにおいて最も明確な理論的表現に達した。すなわちリカードは,偶然的事情で変動する市場価格とその基準となる自然価格とを区別したうえで,〈労働の自然価格は,平均的にいって労働者たちが生存しかつ彼らの種族を増減なく永続させるのに必要な,その価格のことである〉(《経済学および課税の原理》第5章)と規定している。…

【比較優位】より

…ある国はなぜ自動車や鉄鋼を輸出し,石油や鉄鉱石を輸入するのであろうか。A.スミスやD.リカード以来,経済学者の間でこの疑問に答えようとする試みがさまざまな形でなされ,国際分業の理論として展開されてきた。比較優位という考えはリカードによって初めて明確に述べられ,以後国際分業の理論の中心概念となっている。…

【貿易理論】より

…現代の国際分業理論の主翼をなす要素賦存説では,この要因がクローズアップされている。 D.リカードが唱えた比較生産費説は労働のみを生産要素とする単純な生産モデルに基づいている。したがって,各国の貿易前の均衡では,財・サービスの相対価格は各部門の生産物1単位当りに必要な労働量(労働生産性の逆数)の比率に等しくなる。…

【労働価値説】より

…しかもその2様の把握は資本主義的商品生産社会を〈初期未開社会〉と区別する彼の視点とも対応し,最終的には彼自身の労働価値説を市場の需給関係で決定される賃金,利潤,地代それぞれの自然率によって構成される現象に埋没した生産費説に帰着させることになった。 その後19世紀に入ってD.リカードはその主著《経済学および課税の原理》(1817)において,彼が矛盾すると考えたスミスの二つの見解を投下労働価値説に一本化することによって論理的に首尾一貫した整合的な理論にしようと努めた。スミスが投下労働説が維持できないとした資本蓄積と土地所有の成立以後の社会においても,商品の価値は生産に投下された総労働量によって依然として規定され尺度されるというのがリカードの見解であった。…

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