ロブグリエ(読み)ろぶぐりえ(英語表記)Alain Robbe-Grillet

デジタル大辞泉 「ロブグリエ」の意味・読み・例文・類語

ロブ‐グリエ(Alain Robbe-Grillet)

[1922~2008]フランス小説家映画監督ヌーボーロマンを代表する一人。脚本を担当した映画「去年マリエンバートで」はベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。その他、小説「消しゴム」「のぞく人」「嫉妬しっと」など。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「ロブグリエ」の意味・読み・例文・類語

ロブ‐グリエ

  1. ( Alain Robbe-Grillet アラン━ ) フランスの小説家。ヌーボーロマン代表者の一人。映画でも活躍。小説「消しゴム」「覗く人」「嫉妬」、シナリオ「去年マリエンバートで」など。一九二二年生。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロブグリエ」の意味・わかりやすい解説

ロブ・グリエ
ろぶぐりえ
Alain Robbe-Grillet
(1922―2008)

フランスの小説家。ブレストに生まれる。国立農業専門学校在学中、占領ドイツ軍に徴用され、ニュルンベルクの工場で工員として働く。卒業後、農業技師としてフランス領西インド諸島などに滞在。その間『弑逆者(しいぎゃくしゃ)』を書いたが、1978年まで発表されなかった。最初に発表した『消しゴム』(1953)でフェネオン賞、『覗(のぞ)くひと』(1955)で批評家賞を受賞。中性的な文体による事物の徹底的な視覚描写の技法が注目されたが、反発も多く、ことに『嫉妬(しっと)』(1957)で総攻撃されたので、のちに『新しい小説のために』(1964)所収の論争的評論を相次いで発表、クロード・シモン、ミシェル・ビュトール、ナタリー・サロートらのヌーボー・ロマン(新小説)の代弁者となった。『迷路のなかで』(1959)で、描写の連鎖だけでめくるめく主観性の表現に成功し、さらに『快楽の館(やかた)』(1965)や『ニューヨーク革命計画』(1970)では、香港(ホンコン)やニューヨークのもっとも今日的な風俗を素材に、イメージや挿話の自己増殖という方法で物語の直線的構造を完全に破壊した。『幻影都市のトポロジー』(1976)では既発表の雑文モザイク、『囚(とら)われの美女』(1975)ではルネ・マグリットの絵画からの連想、『ジン』(1981)ではアメリカ向け訳読教科書の形で、さらに奔放で幻惑的な小説を書く。

 他方、アラン・レネの映画『去年マリエンバートで』(1961)のシナリオを執筆してから、自らメガホンをとり、『不滅の女』(1963)以後、『快楽の漸進的横滑り』(1973)を経て、『囚われの美女』(1983)に至る計8本の映画を監督した。さらに『狂気を呼ぶ音』(1995)を製作し、2002年にはシネロマン(映画用原作)『グラディーヴァが君を呼ぶ』を発表した。これはまだ映画化されていないが、虚構空間探索の技術の開発というテーマは、これらの映画にも共通している。

 1980年代の私回帰の風潮に呼応して、総題を『ロマネスク』とする自伝的回想録『戻ってきた鏡』(1985)、『アンジェリック、もしくは蠱惑(こわく)』(1988)、『コラント伯爵の最期(さいご)』(1994)の3巻を発表したが、作中で活躍するコラント伯爵やアンジェリックは架空の人物であるから、これは回想録の形をとった自伝であると同時にフィクションであり文学論である。2001年に久しぶりの小説『反復』と評論・対談集『旅人』を発表した。

[平岡篤頼]

『平岡篤頼訳『新しい小説のために』(1969・新潮社)』『平岡篤頼訳『ニューヨーク革命計画』(1972・新潮社)』『平岡篤頼訳『快楽の漸進的横滑り』(1977・新潮社)』『平岡篤頼訳『秘密の部屋 ギュスターヴ・モローに捧げる』(『フランス幻想小説傑作集』所収・1985・白水社)』『平岡篤頼訳『ジン』(『集英社ギャラリー 世界の文学9 フランス4』所収・1990・集英社)』『平岡篤頼訳『弑逆者』(1991・白水社)』『平岡篤頼訳『反復』(2004・白水社)』『平岡篤頼訳『迷路のなかで』(講談社文芸文庫)』『天沢退二郎・蓮實重彦訳『去年マリエンバートで・不滅の女』(1969・筑摩書房)』『若林真訳『快楽の館』(1969・河出書房新社)』『白井浩司訳『嫉妬』(1972・新潮社)』『中村真一郎訳『消しゴム』(1978・河出書房新社)』『江中直紀訳『幻影都市のトポロジー』(1979・新潮社)』『望月芳郎訳『覗くひと』(講談社文芸文庫)』『オルガ・ベルナール著、金井裕訳『ロブ=グリエ論――不在の小説』(1971・審美社)』『浜田明著『ロブ=グリエの小説美学――「ル・ヴォワユール」を中心に』(1978・牧神社)』『中谷拓士著『反レアリスム論――ロブ=グリエをめぐって』(1985・創元社)』『奥純著『アラン・ロブ=グリエの小説』(2000・関西大学出版部)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ロブグリエ」の意味・わかりやすい解説

ロブ・グリエ
Alain Robbe-Grillet
生没年:1922-2008

フランスの作家。ブレストに生まれる。国立農業専門学校を卒業後,農業技師としてフランス領植民地を回ったが,1949年に処女作《弑逆(しいぎやく)者》(1978)を書く。その後《消しゴム》(1953),《覗く人》(1955),《嫉妬》(1957),《迷路のなかで》(1959)を発表して,事物の視覚的描写に徹する無機的な作風が話題を呼び,賛否相半ばしたが,同時に《新しい小説のために》(1963)に収録された論争的評論で伝統的リアリズム小説を攻撃し,いわゆるヌーボー・ロマンの代弁者となった。その論の根底にあるのは世界と人間とのカフカ的な断絶の確認だが,ルーセルの影響を受けた彼の小説には,形而上学的な思い入れを排した表層のゲーム的構成も認められる。《快楽の館》(1965),《ニューヨーク革命計画》(1970),《幻影都市のトポロジー》(1976)では,後者の傾向がいっそう顕著となる。脱線が筋を混乱させ,人物が操り人形化し,《ジン》(1981)に至ってはルイス・キャロル的ノンセンス文学に到達している。彼がシナリオを書き,アラン・レネが監督した《去年マリエンバートで》(1961)の成功以来,自らメガホンをとって《快楽の漸進的横滑り》(1973)など8本の映画を監督制作した経験が,相互作用的に小説をも変えていったらしいが,やがて登場するフランスの新しい哲学者たちの言語観を予告した点でも,サルトル,カミュ以後最も注目すべき作家である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロブグリエ」の意味・わかりやすい解説

ロブ=グリエ
Robbe-Grillet, Alain

[生]1922.8.18. ブレスト
[没]2008.2.18. カン
フランスの小説家,脚本家,映画監督。パリの農業学校で学び,農業技師としてフランス植民地の熱帯地方を転々としたのち文学に転向。1953年『消しゴム』Les Gommesを発表,『覗く人』Le Voyeur(1955)によりクリチック賞を受け,ヌーボー・ロマンの旗手的存在となった。続いて『嫉妬』La Jalousie(1957),『迷宮の中で』Dans le labyrinthe(1959),『ニューヨーク革命計画』Projet pour une révolution à New York(1970)を発表した。意味を有するわけでもなくまた不条理でもない,ただ存在する世界を視覚的に描写するその手法はロブ=グリエを映画に向かわせ,アラン・レネ監督の『去年マリエンバートで』L'Année dernière à Marienbad(1961),みずから監督した『不滅の女』L'Immortelle(1963)などの脚本を書いた。ほかに『ジン』Djinn(1981),『アンジェリックもしくは魅惑』Angélique ou l'Enchantement(1988),『反復』La Reprise(2001),評論集『新しい小説のために』Pour un nouveau roman(1963)がある。2004年アカデミー・フランセーズ会員に選ばれた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「ロブグリエ」の意味・わかりやすい解説

ロブ・グリエ

フランスの作家。農業技師として仏領諸植民地を転々とした後,《消しゴム》(1953年),《嫉妬》(1957年)を発表,ヌーボー・ロマンの旗手として作家活動。ほかに短編集《スナップショット》,レネ監督の映画台本《去年マリエンバートで》,評論に《新しい小説のために》。《戻ってきた鏡》《アンジェリックもしくは魅惑》は小説と評論の性質をあわせもった自伝である。自ら監督した映画に《囚われの美女》など。
→関連項目サロート

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のロブグリエの言及

【心理小説】より

…こうした傾向を集約した人間学の新しい理論として登場したのが,フロイトの精神分析学であるが,それと呼応するかのように,プルーストは畢生の大作《失われた時を求めて》(1913‐27)で,〈私〉の独白に始まる自伝的回想が,そのまま写実的な一時代の風俗の壁画でもある空間を創造して,心理小説に終止符を打った。人物や家屋や家具の純粋に視覚的な描写の連続のしかたが,そのまま観察者=話者である主人公の嫉妬の情念の形象化でもあるようなロブ・グリエの《嫉妬》(1957)は,プルーストの方法をいっそうつきつめた成果であるが,その先駆者は《ボバリー夫人》(1857)のフローベールにほかならない。 この観点からすると,どんなに写実的であろうと,すべての小説は心理小説であるという逆説も成り立つ。…

※「ロブグリエ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android