ロマン(読み)ろまん(英語表記)Jules Romains

精選版 日本国語大辞典 「ロマン」の意味・読み・例文・類語

ロマン

  1. 〘 名詞 〙 ( [フランス語] roman )[ 異表記 ] ローマン・ロマーン
  2. ロマンス
    1. [初出の実例]「小説に『ロマン』の名をあたふるはゾラが好むところにあらず」(出典:柵草紙の山房論文(1891‐92)〈森鴎外〉エミル・ゾラが没理想)
  3. 小説。特に、長編小説
    1. [初出の実例]「長いロマーンや二十フィート幅の絵画において」(出典:風土(1935)〈和辻哲郎〉四)
  4. 主情的ないし理想的に物事をとらえること。また、そのようにして把握された世界。
    1. [初出の実例]「表現の写実にして取材の浪漫なるものあり。取材の写実にして表現の浪漫なるものあり」(出典:文学論(1907)〈夏目漱石〉四)

ロマンの補助注記

( 1 )→「ロマンス」の語誌。
( 2 )漢字「浪漫」「浪曼」をあて、そのまま字音読みで「ろうまん」と言うこともある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロマン」の意味・わかりやすい解説

ロマン(Jules Romains)
ろまん
Jules Romains
(1885―1972)

フランスの詩人、小説家、劇作家。本名ルイ・ファリグールLouis Farigoule。オーベルニュ出身だが早くからパリに住み、高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)に学ぶ。1903年秋、雑踏のなかで、個が群衆と都市と一つにつながり一体をなすという啓示を得て、一体主義(ユナニミスム)unanimismeを提唱する。人間性と文明への信頼に基づくこの集団的魂の理想の追求が生涯の文学活動を生み出した。この理念は詩集『一体生活』La Vie unanime(1908)、『ヨーロッパ』(1916)、小説『再生の村』(1906)、『ある男の死』(1911)、『仲間』(1913)などに表現される一方、パリ郊外クレテイユに芸術と労働の一体化した集団生活を目ざしていたデュアメル、ビルドラックなど僧院(アベイ)派の文学者に理論的支柱を与えた。一体主義はさらに、心理的・神秘的表明を『プシシェ(プシケ)』Psyché三部作(1922~29)、世界大の広がりを『善意の人々』(1932~47)によって得た。また演劇の場でも、ルイ・ジューベとの協力から、『クノック』『トルアデック氏の放蕩(ほうとう)』(ともに1923)、『ドノゴ』(1930)などの傑作喜劇が生まれた。30年代に入ると、『ヨーロッパの問題』(1933)以下一連の政治的発言で反ファシズムを呼びかけ、37~40年まで国際ペンクラブ会長を務めたのち、40年から45年までアメリカメキシコにあって自由フランスの代弁者であった。46年アカデミー会員。

[小林 茂]

『山内義雄訳『ある男の死』(1938・白水社)』『青柳瑞穂訳『プシケ』(新潮文庫)』『岩田豊雄訳『クノック』(新潮文庫)』


ロマン(長編小説)
ろまん
roman フランス語

長編小説。本来ラテン語の俗化した方言のロマン語で書かれた物語市民社会の発達とともに、物語のおもしろさより、人間の内面的苦悩を重視し、複雑な心理を中心に、人間の生きざまを描き、一つの完結した形をとる小説をさすようになる。これに対し物語性を強調する小説はレシrécit、中編小説はヌベルnouvelle、短編小説はコントconteとよばれる。

[船戸英夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「ロマン」の意味・わかりやすい解説

ロマン
Jules Romains
生没年:1885-1972

フランスの小説家,劇作家,詩人。本名Louis Farigoule。偶然の詩的体験が,文学者としての針路を決定することとなった。パリの街を散策中に,自分の心身がひとつのリズムを伴って街の大きな全体のなかに溶け込むかのような感じを味わったのである。この体験こそが,デュアメルらの〈僧院(アベイ)〉派の友人たちの手で印刷されて日の目をみた詩集《一体生活》(1908)の底流をなすものである。以後彼は,個人よりも集団を,個人と個人のふかしぎな結合から生まれる集団の精神,〈新しい神々〉を,好んで描くようになる。小説《ある男の死》(1911)を経て,三部作《プシシェPsyché》(1922-29)に至り,夫婦間の心身の愛情の諸相を語りながら一体的生の神秘を描こうとする。〈ユナニミスムunanimisme〉と呼ばれるこの非体系的思想の,気宇壮大な表現が,全27巻の大河小説《善意の人々Les hommes de bonne volonté》(1932-47)である。これは1908年から33年までのヨーロッパの社会を,1000人以上もの人物を登場させて立体的に描こうとした作品であった。そして,風刺喜劇《ル・トルーアデック氏の放蕩》(1923),《クノック,あるいは医学の勝利》(1923)などの劇作家としての輝かしい成功も,現代演劇史の一事件であった。
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百科事典マイペディア 「ロマン」の意味・わかりやすい解説

ロマン

フランスの作家。高等師範学校時代から詩作を始め,詩集《一体生活》(1908年)によりユナニミスムを提唱する。この思想は小説《ある男の死》,三部作《プシシェ》,1908年―1933年のフランス社会を描いた27巻の大河小説《善意の人々》(1932年―1947年)にも貫かれる。一方陽気な風刺家として戯曲《医師クノック》(1923年),《ドノゴー》などを書き成功した。反戦の詩《ヨーロッパ》(1916年)以後,平和問題にも詩,評論など多くの発言がある。
→関連項目ガリマール[会社]コポージューブジュベデュアメル

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロマン」の意味・わかりやすい解説

ロマン
Romains, Jules

[生]1885.8.26. オートロアール,サンジュリアンシャプトイユ
[没]1972.8.14. パリ
フランスの小説家,詩人,劇作家。本名 Louis Farigoule。エコール・ノルマル・シュペリュール (高等師範学校) に学び,しばらく教壇に立つ。宇宙的一体感,個人をこえた集団の意識を認めるユナニミスムを唱え,アベイ派に参加した。詩集『一体的生活』 La Vie unanime (1908) ,『オードと祈り』 Odes et prières (13) ,風刺劇の傑作『クノック,あるいは医学の勝利』 Knock,ou le triomphe de la médecine (23) などのほか,最も重要な作品として大河小説『善意の人々』 Les Hommes de bonne volonté (27巻,32~47) がある。この大作は,第1次世界大戦の足音がバルカン半島に響きはじめる 1908年から,再び次の世界大戦を予想させる,ヒトラーによる政権獲得の年,33年までのヨーロッパ史を描いたものである。アカデミー・フランセーズ会員 (46) 。

ロマン
Roman

ルーマニア北東部,モルドバ地方,ニヤムツ県の工業都市。 14世紀に建設され,中世のモルドバの政治,商業の中心地の一つであった。第2次世界大戦後,急速に工業が発展し,機械,農機具,コンクリート,煉瓦,家具,食品の工場がある。人口8万 192 (1992推計) 。

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世界大百科事典(旧版)内のロマンの言及

【小説】より

…この標準的な小説概念によると,小説とは散文による相当な長さの虚構物語(フィクション)で一定のまとまりと構造をもち,現実生活に即した人物と事件を扱うものをいう。この考え方だと短編小説,観念小説,怪奇小説,ファンタジーSFヌーボー・ロマンやポストモダニズムなどと呼ばれる最近の前衛的小説などが入らなくなるが,これらの小説も標準的小説の多くの特徴を取りいれており,また伝統的小説に反逆して書かれた前衛的小説にしても,この標準的小説概念を前提として含んでいるといえる。 この標準的な小説に対立するものとして,一方にロマンス,他方にアレゴリーないし寓意物語がある。…

【ガーリチ・ボルイニ公国】より

…キエフ・ロシアの分裂化が進行し,キエフ大公の地位が低下する中で,強力な公国の一つとして発展し,12世紀末には大公国と称した。当初ガーリチ公国とボルイニ公国として隣接する別々の国であったが,1199年ボルイニ公ロマンRoman Mstislavich(?‐1205)がガーリチ公国を併合して一つの公国とし,このロマンが大公の称号を採用した。キエフ・ロシアの南西部にあってポーランド,ハンガリーと国境を接し,ドナウ川沿岸地域をめぐってビザンティン帝国との関係も生じるという位置にあったため,これら諸国の介入を受けたり,ポロベツ人の襲撃に対処しなければならなかった。…

※「ロマン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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