アメリカの物理学者。ウィスコンシン州生まれ。1965年カルフォルニア大学バークレー校を卒業。ハーバード大学大学院に進み、1970年博士号を取得した後、ワシントン大学で博士研究員として、イオン・トラップ(イオンを装置の中で保持する)などの研究に取り組んだ。1975年からアメリカ国立標準技術研究所(NIST(ニスト):National Institute of Standards and Technology)に移り、自ら創設したイオン・トラップの研究チームのリーダーを2017年まで務めた。1985年からコロラド州立大学で講師も務め、2000年からコロラド大学ボルダー校講師。2012年から同大学非常勤(客員)教授。2018年、NIST名誉所員、オレゴン大学最高栄誉研究教授。
原子や光子など物質や光を構成するミクロの世界では、われわれが可視化できる世界と異なり、多重的な状態となる不思議な物理現象(量子的特性)が存在する。存在するか、しないか、あるいはエネルギーが高いか、低いか、あるいは振動しているか、静止しているかが一つの原子、光子で同時に起こることができる。量子の「重ね合わせ」とよばれるもので、この現象を説明するのにオーストリアの物理学者エルウィン・シュレーディンガーは、1935年に思考実験「シュレーディンガーのネコ」を提唱した。外部から完全に遮断された箱の中には、ネコと、放射性原子が崩壊すると毒薬シアンが放出される仕掛けがある。放射性原子は量子的特性に従い、崩壊している、崩壊していないという状態が重なっている。箱を開けると量子の重ね合わせが崩れるが、開けない限り、ネコは死んでいるか、死んでいないかわからないというものである。
ワインランドは、コロラド州にあるNISTにおいて、周囲を電磁場で取り囲んで、イオンを真空中で一列に並べる小型の「イオン・トラップ」装置を使った実験を行ってきた。そのままでは外部の影響を受けて熱振動するため、絶対零度に近い極低温にして熱振動を抑えることができるのだが、ワインランドはさらに、ここに、イオンの操作と観測のためにレーザーパルスを照射した。この結果、熱振動がほとんどなくなるほどエネルギー状態を最低レベルにすることが可能になった。これによってイオンは「スーパーポジション」とよばれる量子特性をもつようになる。本来、エネルギー状態が一つであるはずのイオンが、高い、低いという二つのエネルギー状態をもつ「重ね合わせ状態」が観測された。シュレーディンガーのネコの思考実験のように、死んでいる状態と生きている状態を実際につくったことになる。
さらに、ワインランドは、一列に並んだ6個のイオンを、相互に作用しあって全体が異なるエネルギーの重ね合わせ状態にすることに成功。さらに、レーザー光を操作することで重ね合わせ状態をコントロールできることも確かめた。こうした手法は量子コンピュータのモデルとなる基本的な操作として注目された。現在も、ワインランドは、イオン・トラップを並べ、イオンを移動させながら計算する量子コンピュータの開発を続けている。さらに、このイオンを使い、セシウムを使った原子時計の100倍も誤差の少ない超精密時計の開発にも成功している。
1990年デビッソン・ガーマー賞受賞、1992年アメリカ科学アカデミー会員に選出され、1996年アインシュタイン賞、2000年(平成12)玉川大学の量子通信国際賞、2001年アーサー・L・ショーロー賞、2004年フレデリック・アイブズメダル、2007年アメリカ国家科学賞、2010年ベンジャミン・フランクリン・メダル物理学部門賞を受賞。2012年「個々の量子系の測定や操作を可能にする画期的な手法の開発」の業績で、フランスのコレージュ・ド・フランスの教授セルジュ・アロシュ(当時、現在は名誉教授)とノーベル物理学賞を共同受賞した。
[玉村 治 2021年9月17日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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