(1)能の用語 演奏形式の一種。打楽器(小鼓・大鼓・太鼓)奏者1人に謡い手1人(まれに助吟者が1~2人つく)が能の一部分を演奏すること。演奏するのは能の中でも謡のおもしろい部分で,打楽器も普通とは異なる特別の手組を奏する。謡い手,囃子方ともに水準以上の力量が要求され,特に囃子方では,〈習物(ならいもの)〉として初心者などには演奏を許さない。難しい曲はさらに〈別習(べつならい)〉,〈重き習〉とか称して大事にしている。演奏される曲は囃子方の流儀によって異なるが,小鼓一調は35~45曲,大鼓一調は23曲,太鼓一調は23または33曲数えられる。よく演奏される曲は,小鼓は《松虫》《蘆刈》《籠太鼓》《女郎花(おみなめし)》《夜討曾我》など,大鼓は《安宅》《蘆刈》など,太鼓は《葛城(かずらき)》《杜若(かきつばた)》《山姥(やまんば)》《春日竜神》などである。こうした選曲には,楽器の音色の美しさを味わうことを主とするものと,リズムの緩急の変化のおもしろさを味わうことを主とするものの2傾向がある。
一調の変種のものに〈一調一声〉〈一調一管〉〈無謡(むうたい)一調〉がある。一調一声は,ノリ拍子のアシライのおもしろさを主眼にしたもので,小鼓と大鼓にあり,《小督(こごう)》《浮舟》《玉葛》《三井寺》などの後半が演奏される。特に幸(こう)流小鼓や幸清(こうせい)流小鼓では,出端事(ではごと)の一声を小鼓だけで打つ(普通のときよりは短くする)のが特徴である。
一調一管は笛の入る一調で,笛の聞かせどころである舞事(まいごと)を中心に演奏する。多く〈序ノ舞物〉が選ばれ,小鼓や大鼓は《班女》《江口》《芭蕉》などを,太鼓は《葛城》《雲林院》などが奏される。舞事は普通よりも短く3段で演奏される。また,流派によっては囃子部分だけの一調一管もあり,《獅子》《猩々乱》《置鼓(おきつづみ)》などが演奏される。無謡一調は,謡が入らず打楽器の奏者1人だけで演奏するが,昭和になってからは,故人となった川崎九淵(きゆうえん)(葛野流大鼓方)・幸祥光(よしみつ)(幸流小鼓方)しか演奏していない。
(2)歌舞伎囃子の用語 小鼓だけ(複数の場合も)で,他の打楽器が入らない奏法。〈壱調〉または〈小鼓壱調〉と言い,《一谷嫩(いちのたにふたば)軍記》の〈熊谷陣屋〉の義経の出などに用いる。また,長唄や清元など,唄,三味線と合奏する場合もある。
執筆者:松本 雍
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかし,一般に大曲,秘曲と目されている演目,たとえば能の《石橋(しやつきよう)》や《道成寺》,老女物の《姨捨(おばすて)》《関寺小町》《檜垣》《鸚鵡(おうむ)小町》《卒都婆小町》など,また狂言の《釣狐》《花子(はなご)》などは,各流派,各役種とも習に扱っている。また,通常の演じ方とは替えて演ずることが習に結びつく一つの要件で,小書(こがき)(特殊演出)の能は原則として習であり,同様の意味で,〈一調(いつちよう)〉という演奏形式はつねに習である。 習には伝授の順序が定められており,演目ごとに初伝(しよでん)・中伝・奥伝,あるいは小習(こならい)・中習(ちゆうならい)・大習(おおならい)・重習(おもならい)・別習(べつならい)・一子相伝(いつしそうでん)などと名づけられた等級がある。…
…(11)一管(いつかん) 笛1人で囃子事を変奏する。(12)一調(いつちよう) 打楽器1人と謡1人で打楽器の聞かせどころを変奏する。(13)一調一声(いつちよういつせい) 特殊な一調である。…
※「一調」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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