井原西鶴(さいかく)の浮世草子。1696年(元禄9)1月、西鶴の第四遺稿集として門人北条団水(だんすい)が5巻5冊に編集し、京都・上村平左衛門、大坂・雁金屋庄兵衛(かりがねやしょうべえ)、江戸・万屋(よろずや)清兵衛より刊行。大坂・高津の片辺りで張貫(はりぬき)の女人形をつくる職人が、材料の紙くずのなかからみつけだしたという趣向で、20編の書簡体小説からなる。「おかしき噂(うわさ)、かなしき沙汰(さた)、あるひは(うれ)しきはじめ、栄花(えいが)終り」(序文)のさまざまな手紙であるが、巻1の3や巻2の3のように、窮迫した状況に陥った人間たちの真情を描いた佳作を含む。書簡体を利用して、人の心の奥底を表現しようとした西鶴の新しい試みを示す作品。
[浅野 晃]
『神保五彌他校注・訳『日本古典文学全集40 井原西鶴集 3』(1972・小学館)』▽『麻生磯次・冨士昭雄訳注『対訳西鶴全集15 万の文反古』(1977・明治書院)』
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