哲学者阿部次郎が著した随筆評論集。1914年(大正3)刊。のち続編をあわせて『合本・三太郎の日記』(1918)として刊行。
著者が東京帝国大学卒業のころ(1911)から雑誌・新聞に書いていた自我や理想についての感想批評の小編を集めたもの。暗愚な三太郎が自己の行為や情操や想念を、少しも飾らず仮借せず、理想に照らして究明する。その誠実な姿勢と鋭利な思弁とは、従来に例をみない魅力で、一世を風靡(ふうび)し、ほとんど30年にわたって(第二次世界大戦まで)、教養ある若者の必読の書となった。著者の人間観は行動的、芸術的な混沌(こんとん)を含み、それを分析処理するのは西洋的論理の整然たるものであったから、結果として赤裸々な自己告白が、堅固な欧文脈によって男らしく迫ってくるのである。
自己の内面から発するものに究極の価値を置く、著者後年の「人格主義」の源泉はここにあるが、また近代日本の文体の主流をなす欧文脈の完成と定着がここにみられることに注目すべきである。
[原田隆吉]
『井上政次解説『阿部次郎全集 第1巻 三太郎の日記』(1960・角川書店)』▽『新関岳雄著『光と影 ある阿部次郎伝』(1969・三省堂)』▽『「文化主義・教養主義の確立と哲学」(宮川透・荒川幾男編『日本近代哲学史』所収・1976・有斐閣)』
阿部次郎の感想評論集。《三太郎の日記》(1914),《三太郎の日記第弐》(1915),《合本三太郎の日記》(1918),《三太郎の日記補遺》(1950)のすべてをさす。1911年から14年までの著者の〈内面生活の最も直接な記録〉が大部分を成す。内省によって自己の本質に達し,その内面の要求を,世界の諸思想や学芸の多面的な摂取によって実現しようとする,著者の分身,青田三太郎の自己確立への歩みが,日記,対話,評論,小説,翻訳など多様な形式で告白されている。その悩み多き自己確立は,たんに現実蔑視の選良意識によるものでなく,西欧文化の重圧の中で民族的自覚を踏まえることで,奥行きのあるものとなっている。大正・昭和期を通じ,旧制高校の生徒をはじめとして,若い人々に愛読された。
執筆者:助川 徳是
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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