公家衣服の一種。束帯の半臂(はんぴ)の下,または直接に袍(ほう)の下に着る垂領(たりくび)で身頃二幅仕立ての腋(わき)あけの内衣。平安時代後期以降,衣服の大型化,広袖化とともに下襲の後身の裾(きよ)(尻(しり)ともいう)が非常に長くなった。947年(天暦1)に下襲の長さが,親王は袍の襴より出ること1尺5寸,大臣1尺,納言8寸,参議6寸としたが,1212年(建暦2)には大臣1丈,大納言9尺,中納言8尺,参議7尺となった。したがって,束帯姿で座るときは裾を幾重にも折り畳み,寝殿の簀の子(すのこ)に座るときは高(勾)欄(こうらん)に掛け,歩行のときは後ろに長く引き,あるいは折り畳んで石帯や剣に掛けたり従者に持たせたりした。また後身の裾が長くなったため着脱の便宜上,天皇,皇太子のほかは別裾(べつきよ)と称して腰部から切り離し,紐をつけて下襲の上より結びつけた。下襲の地質は,公卿以上は冬は表裏とも綾,夏は縠(こめ),殿上人以下は冬は表裏とも平絹,夏は無文縠。色は位袍よりやや自由であったが,公卿以上は冬は表白,裏蘇芳(すおう),萌葱などの襲(かさね)の色。夏は蘇芳,青朽葉など。殿上人は冬は表白,裏蘇芳。夏は二藍(ふたあい)。文様は冬は表が唐花の丸や臥蝶の丸,裏が若年は繁菱(しげびし),壮年は遠菱(とおびし)。夏は公卿以上の若年は繁菱,壮年は遠菱。近世における天皇,皇太子の冬の地質は表が小葵(こあおい)綾,裏が立遠菱深蘇芳綾,親王,公卿の表が臥蝶(ふせちょう),殿上人が無文綾で,公卿,殿上人とも裏の蘇芳が黒に変わった。なお,行幸の供奉(ぐぶ)などには,その当日のみ好みの地質を使用し,その装束を一日晴(いちにちばれ)と称した。
執筆者:高田 倭男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
公家(くげ)男子衣服の一種。束帯(そくたい)の内着で、半臂(はんぴ)の下、または直接に袍(ほう)の下に着る。垂領(たりくび)、身頃二幅(みごろふたの)仕立てで腋(わき)あけ形式。平安時代後期以降、衣服の大形化、広袖(ひろそで)化とともに下襲の後ろ身の裾(きょ)(尻(しり)ともいう)が長くなった。そこで、束帯姿で座るときは裾を折り畳み、寝殿の簀子(すのこ)に座るときは勾欄(こうらん)に掛け、歩行のときは折り畳んで石帯(せきたい)や剣(たち)に掛けたりした。下襲着用の便宜上、天皇、皇太子のほかは別裾(べっきょ)とよんで、後腰部から切り離し、紐(ひも)をつけて下襲の上から締めて後方に引いた。
地質は公卿(くぎょう)以上、冬表裏とも綾(あや)、夏縠(こく)。殿上人(てんじょうびと)以下、冬表裏とも平絹、夏無文縠。色目(いろめ)はやや自由で、公卿以上、冬表白、裏蘇芳(すおう)、萌黄(もえぎ)、二藍(ふたあい)などの襲色目、夏蘇芳、青朽葉(くちば)など。殿上人以下は冬表白、裏蘇芳、夏二藍の場合が多い。行幸の供奉(ぐぶ)などに束帯を着装して、その当日のみ、袍以外は好みの地質、色目、文様を使い、これを一日晴(いちにちばれ)の装束といったが、ことに下襲の色をかえ、二倍(ふたえ)織物や刺しゅうあるいは文様染めを施し、華やかなものとして染下襲と称した。
[高田倭男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…武家も将軍以下五位以上の者は大儀に際して着装した。束帯の構成は冠,袍(ほう),半臂(はんぴ),下襲(したがさね),衵(あこめ),単(ひとえ),表袴(うえのはかま),大口,石帯(せきたい),魚袋(ぎよたい),履(くつ),笏(しやく),檜扇,帖紙(たとう)から成る。束帯や十二単のように一揃いのものを皆具,あるいは物具(もののぐ)といった。…
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[歌舞の舞人装束]
歌舞とは,神楽(御神楽(みかぐら)),大和(倭)舞(やまとまい),東遊(あずまあそび),久米舞,風俗舞(ふぞくまい)(風俗),五節舞(ごせちのまい)など神道系祭式芸能である。〈御神楽〉に使用される〈人長舞(にんぢようまい)装束〉は,白地生精好(きせいごう)(精好)の裂地の束帯で,巻纓(けんえい∥まきえい),緌(おいかけ)の冠,赤大口(あかのおおくち)(大口),赤単衣(あかのひとえ),表袴(うえのはかま),下襲(したがさね),裾(きよ),半臂(はんぴ∥はんび),忘緒(わすれお),袍(ほう∥うえのきぬ)(闕腋袍(けつてきほう)――両脇を縫い合わせず開いたままのもの),石帯(せきたい),檜扇(ひおうぎ)(扇),帖紙(畳紙)(たとうがみ),笏(しやく)を用い,六位の黒塗銀金具の太刀を佩(は)き,糸鞋(しかい)(糸で編んだ沓(くつ))を履く。手には鏡と剣をかたどった輪榊を持つ。…
※「下襲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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