浮世草子。江島其磧(きせき)作。1715年(正徳5)刊。5冊。八文字屋本の気質物(かたぎもの)の最初の作であり15話より成る。町人の家庭に育った子息の性質をさまざまな類型に分けて描いたものともみられるが,実は町人としての身分や職業に相応した気質ではなくて,むしろそういう身分や職業に相応しない気質を描いたものである。したがって,町人の子息という身分から必然的に派生してきた性向や習癖や趣味・嗜好というよりは,むしろ子息としての身分に過ぎたり偏したりする人間を描いている。ここに気質は偏気(かたぎ)として捉(とら)えられる。この偏気的な形象は,現実の転倒,食い違い,反語の強調といえよう。
執筆者:森山 重雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
江島其磧(きせき)の浮世草子。1715年(正徳5)江島屋市郎左衛門刊。五巻15話。先に『寛闊役者片気(かんかつやくしゃかたぎ)』(1711。坂田藤十郎追善)があるが、浮世草子気質物の第一作。「今時の息子は甘やかされて育つ故に身をもち崩す、その様々を書いて孝の一助にする」(序)として、西鶴(さいかく)の『本朝二十不孝』の不孝話をも抱摂しつつ、家業を外に遊芸などにふける息子たちを描く。誇張しすぎの感もあるが、常識を越えるような性癖や行動に意表外のおもしろさがあり、従前みられなかった人間の一タイプを創出、安永(あんえい)期(1772~81)まで続く気質物の道を開いた。なお本書は、書肆(しょし)八文字屋との確執(前年に内情を暴露)のなかで案出された苦心作でもある。
[江本 裕]
『『八文字舎本5種』(1927・有朋堂文庫)』▽『『日本名著全集9 浮世草子集』(1928・同書刊行会)』
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…浮世草子のうち,特定の身分・職業を限り,その特有の性格・性癖のさまざまな現れを描いた一群の作品を指す。江島其磧(きせき)の《世間子息(むすこ)気質》(1715),《世間娘気質》(1717),《浮世親仁形気》(1720)が初期の作で,性別・年齢別に特徴的な性癖の発現を誇張して描き,西鶴の町人物などとは視角を変えた巧みな短編集となっている。その後,多田南嶺の《鎌倉諸芸袖日記》(1743)という社会観察の皮肉さと奔放な表現の佳作があり,和訳(わやく)太郎(上田秋成)の《諸道聴耳(ききみみ)世間猿》(1766),《世間妾(てかけ)形気》(1767)は観察眼の特異さと構成の巧みさで抜群の作。…
※「世間子息気質」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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