八文字屋本(読み)ハチモンジヤボン

デジタル大辞泉 「八文字屋本」の意味・読み・例文・類語

はちもんじや‐ぼん【八文字屋本】

八文字屋から出版された浮世草子役者評判記の類の総称。特に文学的には浮世草子をさす。広義には、同時代の他の八文字屋風の浮世草子をもいう。

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精選版 日本国語大辞典 「八文字屋本」の意味・読み・例文・類語

はちもんじや‐ぼん【八文字屋本】

  1. 〘 名詞 〙 江戸時代、京都麩屋町の版元、八文字屋から出版された本。特に、元祿一六八八‐一七〇四)の末から明和年間(一七六四‐七二)に出された役者評判記や浮世草子類をいう。文学史的には浮世草子を意味し、なお拡大して同時代に他の本屋から出版された八文字屋風の浮世草子をもさす。時代物、気質物などに分かれ、通俗的娯楽読物として名声を得た。二代目八文字屋八左衛門(自笑)のとき、八文字屋本としての名を挙げ、作者に江島其磧などを出した。〔随筆・京摂戯作者考(江戸後)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「八文字屋本」の意味・わかりやすい解説

八文字屋本 (はちもんじやぼん)

狭義には,浮世草子のうち1701年(元禄14)刊江島其磧きせき)作《けいせい色三味線》以後約70年間,京都の八文字屋八左衛門の刊行した諸作を一括して指す称。広義には,その中心作者其磧の作で他店より刊行のものを含め,さらに同時期・同傾向の他作や,1780年代に及ぶ亜流作に範囲を広げていうことがある。その衰退後の1800年代に初めてこの称が用いられ,明治以後文学史の術語としても用いられている。其磧は趣向を重視し,構成の才にすぐれ,好色物気質(かたぎ)物に力作があるが,演劇翻案の時代物にも長編構成技巧に見るべきものがある。後をうけた多田南嶺(なんれい)もその鋭さ・奔放さによって異彩を放ち,西鶴以後の浮世草子の主流を占め,その技巧面で後期江戸文学に及ぼした影響は西鶴以上のものがある。また彼らの活躍は八文字屋の主人八左衛門のリードによる点も大きく,その結果八文字屋は浮世草子出版の第一人者となり,出版史上注目すべき存在となった。
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百科事典マイペディア 「八文字屋本」の意味・わかりやすい解説

八文字屋本【はちもんじやぼん】

浮世草子一種。京都の書店八文字屋から刊行された諸作品をまとめていう。作者は江島其磧(きせき),八文字屋自笑(じしょう),八文字屋其笑(きしょう)など。1702年の《けいせい色三味線》に始まる。正徳年間(1711年―1716年)以後盛んであった。他の店から刊行の同傾向のものや,1780年代にまで及ぶ亜流作を含めてこの語を用いることもある。
→関連項目貸本屋多田南嶺役者評判記

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「八文字屋本」の意味・わかりやすい解説

八文字屋本
はちもんじやぼん

浮世草子(うきよぞうし)のうち、1701年(元禄14)刊の『けいせい色三味線(いろじゃみせん)』以後、1770年代に及ぶ間に、京都の八文字屋八左衛門の刊行した諸作。また、その中心作者江島其磧(えじまきせき)の作で他店より刊行のもの、同時期、同傾向の他作者の作、1780年代に及ぶ亜流作を含めていうことがある。この語は八文字屋衰退の1800年代に初めて用いられ、近代の文学史の術語として継承された。其磧、多田南嶺(ただなんれい)などの才筆により、西鶴(さいかく)以後の浮世草子の主流となり、八文字屋隆盛の因をなし、江戸にも進出、後期江戸文学にも影響を及ぼした。初期には好色物、のちには演劇翻案の時代物長編が多く、趣向の珍奇と構成の巧妙をもってもてはやされた。

長谷川強]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「八文字屋本」の意味・わかりやすい解説

八文字屋本
はちもんじやぼん

浮世草子の一種。狭義には京都の八文字屋が出版した浮世草子と,中心作者江島其磧の作品。広義には,狭義のものと同時期,同傾向の作および八文字屋刊本の亜流作品を含めての浮世草子をさす。元禄 14 (1701) 年の其磧作『傾城色三味線 (けいせいいろじゃみせん) 』が最初で,主として横本仕立ての読みやすい書型をもつ。歌舞伎の時代物を世話物化した作も多いが,遊里生活を中心に描くいわゆる三味線物,人間の類型的性癖を描き分けるいわゆる気質 (かたぎ) 物などに最大の特色をもつ。八文字屋本の板木は明和3 (66) 年大坂の書肆升屋に売られ,事実上,八文字屋本の命脈は絶えた。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「八文字屋本」の解説

八文字屋本
はちもんじやぼん

京都の書肆八文字屋八左衛門の刊行書。とくにその浮世草子をさす。八文字屋は上方を代表する正本屋だったが,1701年(元禄14)に役者評判記のかたちをとった新機軸の小説「けいせい色三味線」が評判となり,類作を続刊。井原西鶴以来の浮世草子に新風をまきおこした。自笑(じしょう)(八左衛門)作と称していたが,江島其磧(きせき)や多田南嶺(なんれい)などを陰の作家に起用していた。小説としては,彼らが他の書店から刊行した作も含めて八文字屋本と総称することもある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「八文字屋本」の解説

八文字屋本
はちもんじやぼん

江戸中期,京都で出版された浮世草子
京都の書店主八文字屋自笑 (じしよう) と江島其磧 (えじまきせき) らが1701年から出版。『傾城 (けいせい) 色三味線』など,井原西鶴の文辞をまねた,気質物 (かたぎもの) ・好色物を中心とするものだが大当たりとなり,広く流布した。

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世界大百科事典(旧版)内の八文字屋本の言及

【江島其磧】より

…後年死没に至る20年間ほどは,歌舞伎・浄瑠璃の翻案を主とした長編の時代物の作が多く,《鎌倉武家鑑》(1713)など長編の構成力の熟達を示すが,慣れによる安易に流れた作も見える。西鶴以後の浮世草子作者の第一人者で,彼の作を中心とする八文字屋刊の浮世草子を八文字屋本と呼ぶ。西鶴の鋭さはないが,趣向の珍奇,構成力の卓抜,平明通俗の表現を特色とし,当時の人気,後代への影響は西鶴をしのぐものがある。…

※「八文字屋本」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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