乗・載(読み)のる

精選版 日本国語大辞典 「乗・載」の意味・読み・例文・類語

の・る【乗・載】

[1] 〘自ラ五(四)〙
① 移動する物の上に位置を占める。
(イ) 動物の背などの上にいてあやつり進む。
万葉(8C後)五・八〇四「赤駒に 倭文鞍(しつくら)うち置き 匍(は)ひ能利(ノリ)て 遊びあるきし」
(ロ) 乗物の上におさまって移動する。
※万葉(8C後)一五・三五七九「大船に妹能流(ノル)ものにあらませばはぐくみ持ちて行かましものを」
(ハ) 波・風・雲などの上におさまって進む。
※竹取(9C末‐10C初)「おほぞらより人雲に乗ておりきて」
② 一般に高い所、物の上などに位置を占める。
※万葉(8C後)四・五〇九「臣の女の 匣に乗有(のれる) 鏡成す みつ浜辺に」
③ (「道にのる」の形で) 目的地に向かう道に出る。路上に出る。
※万葉(8C後)一一・二三六七「海原の路に乗(のり)てや吾が恋ひ居らむ大舟のゆたにあるらむ人の児(こ)ゆゑに」
④ (「心にのる」の形で) 心を占めて離れなくなる。また、心にかなう。
※万葉(8C後)一四・三四六六「まかなしみ寝(ぬ)れば言(こと)に出(づ)さ寝(ね)なへば心の緒ろに能里(ノリ)てかなしも」
⑤ 神霊や物の怪(け)などがのりうつる。つきものがする。憑依する。
平家(13C前)二「われに十禅師権現のりゐさせ給へり」
⑥ 勢いを利用する。はずみがついて調子がよくなる。勢いづく。調子づく。乗ずる。「気がのる」「興にのる」「図にのる」「調子にのる」
※朝忠集(966頃)「あまの戸をあくるまをだに許されでまだきにのりてかへりけるかな」
※四座役者目録(1646‐53)下「うつきりとのってうつことならぬ鼓也」
⑦ 思わずつりこまれる。一杯食う。ひっかかる。だまされる。のせられる。「おだてにのる」「口車にのる」「その手にはのらない」
咄本醒睡笑(1628)一「ふはとのる」
⑧ (載) 人々のうわさや、おおやけの記録・新聞雑誌等の記事などに出る。取り上げられる。記載される。
※百座法談(1110)三月一二日「伴蜜語記に此事のれる所也」
古本説話集(1130頃か)三九「人の口にのれる哥にて侍るは」
⑨ 誘いに応じて仲間や相手になる。相談やたくらみごとに関係する。参加する。「話にのる」「一口のる」
※浄瑠璃・雪女五枚羽子板(1708)中「目覚し高名御感状を拝受し、今の泣言やめふぞやと、かたれ共三郎は少ものらぬ顔色(がんしょく)にて」
⑩ うまく合う。調和する。なじむ。
(イ) 音楽の調子に従う。拍子リズムに合う。仕種踊りが、音楽に合う。
※八帖花伝書(1573‐92)三「舞のうちよりのる心有て和歌謡ひ出し」
(ロ) 似合う。
※雑俳・住吉みやげ(1708)「蚊屋のちに赤いどんすはのった物」
(ハ) 薬が体質や症状などにうまく適合する。
※雑俳・もみぢ笠(1702)「あたまから見たてがよふて乗る薬」
(ニ) 機械の調子に合う。「マイクにのる声」
⑪ ある方向に進む流れの中に位置を占める。また、その流れによって運ばれる。「軌道にのる」
ノリソダ騒動記(1952‐53)〈杉浦明平〉三「それによって〈略〉かれの仕事本筋に乗ることができるからであった」
⑫ 充実する。いきわたる。
(イ) 絵の具・白粉(おしろい)などが、はげたりにじんだりせず、地になじんでよく付く。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「田舎育だけに根から白粉(おしろい)がのりませんが」
(ロ) 体内に脂肪が十分ゆきわたる。
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)初「天麩羅か黒漫魚(まぐろ)のさしみで、油の乗(ノッ)たあいさつが聞きてへの」
(ハ) (「実がのる」の形で) 実がつく。みのる。
※日葡辞書(1603‐04)「ミ noru(ノル) キ〈訳〉実のなる木」
⑬ 邦楽で、テンポを速める。符号は、かたかなで「ノル」と書く。
※浄瑠璃・義経千本桜(1747)四「鼓の方をなつかしげに ノルヲクリ 見返り、見返り行となく」
[2] 〘他ラ五(四)〙 馬や乗物などをあやつって進ませる。走らせる。操縦する。「のりまわす」「のりこなす」などの形で用いられる。
※古今著聞集(1254)一〇「雲分といふあがり馬をのられけるに」

の・せる【乗・載】

〘他サ下一〙 の・す 〘他サ下二〙 のるようにさせる。
① 人などを、乗物に乗るようにさせる。また、それらに物を積む。
※大唐三蔵玄奘法師表啓平安初期点(850頃)「素き象に載(ノセ)て、還りて紫震に献(たてまつ)らむ」
② 人や物を、台や棚などの上に置く。上げる。
※東大寺本大般涅槃経平安後期点(1050頃)「汝我を床に(ノセ)て、往きて仏の所に至さしむべし」
③ (載) 公の記録や刊行物の紙面にのるようにする。掲載する。記載する。登録する。「戸籍にのせる」「雑誌にのせる」
※大唐西域記長寛元年点(1163)一「或は地に暑湿多しと書(しる)し、或は俗仁慈を好むと載(ノセ)たり」
④ ことばたくみにもちかけて、こちらの思うつぼにはめる。おだてたりして、相手をひきつける。「おだてにのせる」「口車にのせる」
※申楽談儀(1430)声のこと「やうやうと云ふ声を言ふ者有。のせたる心より出づ」
⑤ たくらみごとの仲間に入れる。参加させる。「一口のせる」
⑥ 調子を合わせる。調和させる。「リズムにのせる」
※俳諧・初懐紙評註(1686)「愁思有心にて前句を乗たる也」
(イ) 取引相場で、前からの売買玉にさらに売り増し買い増しをする。
(ロ) 米相場で、利になった時に米を売買する。
※稲の穂(1842‐幕末頃)「利方に成たる時売事をのせるとも、利のせ共言」
⑧ 近世上方語で、進める。〔新撰大阪詞大全(1841)〕
⑨ 飲む、食うことをいう、人形浄瑠璃社会の隠語。
※滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)下「ナントせい(〈注〉酒)をぜかし(〈注〉止)て、しぶたら(〈注〉茶)をのせ(〈注〉呑)ようぢゃアねへか」
⑩ 進行する流れに乗るようにさせる。物事が滞りなく運ぶようにする。「仕事をスケジュールに乗せる」

のっか・る【乗・載】

〘自ラ五〙 「のる(乗)(一)」の俗ないい方。
※当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉三「酒には酔ってるし、思はず車にのっかったとは表向で」

のっ・ける【乗・載】

〘他カ下一〙 「のせる(乗)」の俗ないい方。
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉九「血だらけの『ハンカチーフ』を頭にのっけて」

の・す【乗・載】

〘他サ下二〙 ⇒のせる(乗)

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