哲学者。明治期の官僚九鬼隆一(1852―1931)の四男として東京に生まれる。第一高等学校を経て1909年(明治42)東京帝国大学哲学科に入学、大学院を経て1921年(大正10)ヨーロッパへ留学する。以後1929年(昭和4)まで、フッサールやハイデッガーなど新しい哲学の胎動に立ち会った。帰国後、京都帝国大学に招かれ、死に至るまでその職にあった。九鬼の業績は三つに大別できる。(1)『西洋近世哲学史稿』上下(1944、1948。死後出版)に代表される西洋哲学の研究、(2)『偶然性の問題』(1935)に代表される偶然性の研究、(3)『「いき」の構造』(1930)に代表される日本文化の研究。この三者はそれぞれ独立したものではなく、相互に深くかかわっている。すなわち、西洋哲学の基調に孤立した主体というモチーフを看取した九鬼は、主体と主体の出会いと、その出会いにおいてあらわになる根源的な偶然性に立脚した新しい哲学を志向した。そして、そのような偶然性は日本文化の伝統において豊かな表現を実現していたと考えたのである。
[渡辺和靖 2016年8月19日]
『『九鬼周造全集』11巻・別巻1(1980~1982・岩波書店)』
哲学者。東京で九鬼男爵家に生まれ,1912年和辻哲郎と同期に東京帝国大学哲学科を卒業した。22年ヨーロッパに留学し,リッケルト,ハイデッガー,ベルグソンに学ぶとともに,第1次世界大戦後の激動する西欧思想の多彩な展開のなかに身を置いた。29年に帰国,京都帝国大学哲学科講師,助教授,次いで35年教授となって,西洋近世哲学史やフランス哲学を講じた。すでに在欧中に多くの論文を発表していたが,帰国後,ハイデッガーの現象学的・解釈学的方法を日本文化の解釈に用いた《いき′の構造》(1930)を発表,日本の哲学に新生面をひらいた。また実存哲学(〈実存〉という訳語は彼にはじまる)のはらむ問題性を〈偶然性〉の問題を中心に追求し,世界理解と実践的行為の根源的意味を問うて《偶然性の問題》(1935)を著すなど,現代哲学の中心的課題を探求したが,研究の中途で病没した。
執筆者:荒川 幾男
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大正・昭和期の哲学者 京都帝国大学教授。
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…こうしたできごとを見るときわれわれは〈偶然の災難〉とよぶのである。もともと偶然の〈偶〉とは,偶数とか配偶の偶,つまり1と1が合して2となること,二つのものが〈出遇う〉こと(九鬼周造《偶然性の問題》1935)なのであるから,これこそが偶然のもっとも根源的な意味なのである。偶然をあらわすギリシア語のsymbebēkosやラテン語のaccidens,ドイツ語のZufall,英語のcontingencyにも,すべてsym‐,ac‐,zu‐,con‐といった2者の出遇い,何ものかの襲来を意味する前つづりが付されている。…
…現象学は第2次大戦中に亡命者によってアメリカにも伝えられ,第2次大戦後のアメリカ社会学(現象学的社会学),政治学の展開にも貢献している。現象学研究に関しては,日本もフランスやアメリカより長い歴史をもち,その影響下に九鬼周造《“いき”の構造》(1930),《偶然性の問題》(1935),三宅剛一《学の形成と自然的世界》(1940),市川浩《精神としての身体》(1975)のようなすぐれた成果を生んでいる。現象【木田 元】。…
…このように遍在する各種の美の主要類型を美的範疇ästhetische Kategorienと呼ぶが,美的範疇論においては狭義の美(純粋美)も優美,悲壮,滑稽などと同列に位するものとして扱われる。なお,日本における美的範疇論では〈幽玄〉〈あはれ〉〈さび〉の位置を見定めた大西克礼(よしのり)(《美学》2巻,1959‐60),〈いき〉を解明した九鬼周造(《“いき”の構造》1930)を忘れることはできない。 さて芸術作品には上記のごときもろもろの美が表現されて定かな姿をとるが,そればかりでなく,芸術の本質は芸術家の意図にもとづく新たな美的価値の創造にあり,それゆえ美は芸術美(建築美,音楽美等々)としていっそう多様な充実をみせることになる。…
※「九鬼周造」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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