偶然
ぐうぜん
hazard; chance
chanceはさいころが落ちることを意味し,hazardは十字軍の兵士たちがさいころ遊びを考案した場所の名に由来する。だれが意図したわけでもなく,だれも予見しえなかったことが,当事者の目的意識を裏切る形で起るとき,その起り方をいう。奇跡とは異なり当の事件は世界連鎖に基づいて起っているが,その連鎖が人間の判断能力をこえているのが特色で,直接関係のない2つ以上の事件連鎖のぶつかり合いから生れる付随的効果として説明される。当事者の目的意識が偶然の要件の一つであるから,必然的に価値判断が介入し,偶然は幸運や不運の代名詞となることが多く,さらにその効果の大きさから偶然が人格化もしくは神格化されて,運命の意味に接近することもある。
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ぐう‐ぜん【偶然】
〘名〙 (形動ナリ・タリ)
① 他のものとの因果関係もつながりもはっきりせず、予期しないことが起こること。また、そのさま。思いがけないこと。⇔
必然。
※松山集(1365頃)貽独醒老書「若謂三之出二乎偶然一噫亦謬矣」
※文明論之概略(1875)〈福沢諭吉〉一「偶然の禍福を待つのみにて」 〔列子‐黄帝〕
② (
副詞的に用いて) ふと。たまたま。〔
日葡辞書(1603‐04)〕
※天地有情(1899)〈土井晩翠〉例言「素
是諸書漫読の際偶然抄訳し置けるもの」
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偶然【ぐうぜん】
必然の対。最広義には,予測を超えた複数の事象の一致・符合,約言すれば偶(二つ)なるものの出会いをいう。ラテン語accidens,ドイツ語Zufall,英語contingencyなども2者の遭遇を含意する。根拠を欠く事態として長く考察の外にあったが,理性中心主義の克服を図る論者には注目され,九鬼周造も卓抜な論考をものしている(《偶然性の問題》1935年)。芸術においてもデュシャンやJ.ケージらの大きなモティーフである。
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ぐうぜん【偶然】
〈必然〉と対をなす語で,必然が〈必ずそうであること〉を意味するのに対して〈たまたまそうであること〉を意味する。しかし,必然が多義的であるのに応じて,偶然も多様な意味をもつ。 (1)中世のスコラ哲学では神を〈必然的存在者〉とよび,被造物を〈偶然的存在者〉とよんだ。それは,〈もっとも完全なる者〉という神の本質にはいかなる欠如もありえず,したがって〈存在しない〉ということもありえない,つまり必然的に存在せざるをえないのに対して,被造物は存在しないことも可能であり,その存在が神の意志,つまり他の存在者に依存しているからである。
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