偶然(読み)グウゼン

デジタル大辞泉 「偶然」の意味・読み・例文・類語

ぐう‐ぜん【偶然】

[名・形動]何の因果関係もなく、予期しないことが起こること。また、そのさま。「偶然の一致」「偶然に見つける」⇔必然
[派生]ぐうぜんさ[名]
[副]思いがけないことが起こるさま。たまたま。「偶然旧友に出あう」
[類語]たまたまひょっこりたまさか矢先折も折折しも折よく折節折から丁度頃しも時しもきわ際して適時もし仮にたとえもしかよしんばたといよしやもしも万一万一ばんいち万が一万万一もしやもしかしたらもしかするとひょっとするとひょっとしたらひょっとしてあるいはもしかしてどうかすると下手すると一つ間違えばあわよくばまかり間違うよもやまさか万万ばんばん夢かうつつ図らずもはしなくはしなくも思いがけず思いも寄らない思いのほか心外突然唐突案に相違する意表を突く意表予想外意想外ゆくりなくまぐれひょんなひょっとゆくりなし我にもなく期せずして悪くすると事と次第による事によるとともするとややもすれば何かにつけ何かと言えば折に触れてもしくははたまたないし時としてかも知れない思わず思わず知らず我知らず知らず知らず折もあろうに折悪しく慮外存外望外

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精選版 日本国語大辞典 「偶然」の意味・読み・例文・類語

ぐう‐ぜん【偶然】

  1. 〘 名詞 〙 ( 形動ナリ・タリ )
  2. 他のものとの因果関係もつながりもはっきりせず、予期しないことが起こること。また、そのさま。思いがけないこと。⇔必然
    1. [初出の実例]「若謂之出乎偶然噫亦謬矣」(出典:松山集(1365頃)貽独醒老書)
    2. 「偶然の禍福を待つのみにて」(出典:文明論之概略(1875)〈福沢諭吉〉一)
    3. [その他の文献]〔列子‐黄帝〕
  3. ( 副詞的に用いて ) ふと。たまたま。〔日葡辞書(1603‐04)〕
    1. [初出の実例]「素是諸書漫読の際偶然抄訳し置けるもの」(出典:天地有情(1899)〈土井晩翠〉例言)

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改訂新版 世界大百科事典 「偶然」の意味・わかりやすい解説

偶然 (ぐうぜん)

〈必然〉と対をなす語で,必然が〈必ずそうであること〉を意味するのに対して〈たまたまそうであること〉を意味する。しかし,必然が多義的であるのに応じて,偶然も多様な意味をもつ。

 (1)中世のスコラ哲学では神を〈必然的存在者〉と呼び,被造物を〈偶然的存在者〉と呼んだ。それは,〈もっとも完全なる者〉という神の本質にはいかなる欠如もありえず,したがって〈存在しない〉ということもありえない,つまり必然的に存在せざるをえないのに対して,被造物は存在しないことも可能であり,その存在が神の意志,つまり他の存在者に依存しているからである。(2)ライプニッツは,〈三角形はその和が2直角に等しい内角を有する〉というような,その反対が不可能である事態およびその認識を〈必然的真理(理性の真理)〉と呼び,それに対して〈カエサルルビコン川を渡った〉というような,その反対が必ずしも不可能ではない事態およびその認識を〈偶然的真理(事実の真理)〉と呼んだ。(3)個々のできごとに関しても必然的-偶然的ということが言われる。つまり線状の因果系列を想定し,あるできごとの直接の原因を同定しうる場合には,それは〈必然的に起こった〉といわれ,その原因を見いだしえないとき,それは偶然的できごとだといわれるのである。原因を発見しえないのは通常は認識能力の限界によるとされ,したがって近代哲学においては,偶然性は〈われわれの認識の不完全性〉(スピノザ)から生ずると考えられた。(4)これに対して,現代物理学においては量子的できごとのレベルに本質的な不確定性があると考えられており(不確定性原理),それによって生ずる〈偶然〉がありうることになる。たとえば,分子生物学において〈偶然と必然〉(J. モノ)が論じられている場合にも,こうした量子的レベルでの偶発事が遺伝情報の複製に突然変異を生じさせるのだと考えられている。

 (5)しかし,もっとも一般的には,二つの因果系列がある時点で予期不可能なしかたで同期化する事態が偶然と呼ばれる。たとえば,一方である医師が新しい患者に至急の往診をたのまれ家を出る。他方,ある屋根職人がその隣家の屋根の修理をしている。その医師がちょうど隣家の前を通りすぎるとき,屋根職人が金づちを落とし,その落下軌道がたまたま医師の歩く軌道と交差していたために,彼は頭蓋骨を砕かれて死んでしまう。こうしたできごとを見るときわれわれは〈偶然の災難〉と呼ぶのである。もともと偶然の〈偶〉とは,偶数とか配偶の偶,つまり1と1が合して2となること,二つのものが〈出遇う〉こと(九鬼周造《偶然性の問題》1935)なのであるから,これこそが偶然のもっとも根源的な意味なのである。偶然をあらわすギリシア語symbebēkosやラテン語のaccidens,ドイツ語のZufall,英語のcontingencyにも,すべてsym-,ac-,zu-,con-といった2者の出遇い,何ものかの襲来を意味する前つづりが付されている。しかし,注意されねばならないのは,そうしたいくらでも起こりうる偶発的な出遇いが特に偶然として意識されるのは,その出遇いが,少なくとも一方の系列のその後の展開を左右する場合だということである。つまり,ある偶発的な出遇いがその系列によって内面化され,その系列の新たな展開の出発点となり,いわば必然に転じられるようなとき,特にそれが偶然として意識されるのである。偶然とは〈運命の先駆形態〉(W.vonショルツ)であるとか,運命とは〈内的に同化された偶然〉(ヤスパース)であるといったふうに,しばしば偶然が運命の意識と結びつけて論じられるのもそのゆえである。しかも,偶然の出遇いを内的に同化し運命に転じるには,その当事者が他に開かれた自由な存在でなければならない。したがって,その運命の意識はけっして宿命論的なものではなく,むしろ自由の意識と密接に連関している。自由な意識だけが他者との偶然的な出遇いを内的に同化し,それを必然へと転じて,〈命なりけり〉(西行)と観じることができるのである。

 理性ratioとはもともと根拠・理由ratioをさがしもとめる能力である。したがって,理性を基軸に展開された西洋の近代哲学にあっては,〈根拠なし〉に生起することである偶然性が問題にされる余地はまったくなく,むしろ〈偶然的なものの排除にこそ哲学的考察のねらいがある〉(ヘーゲル)と考えられていた。偶然性をはじめて哲学的に問題にしたのが,シェリングやニーチェといった近代理性主義の乗越えをはかる哲学者であったのは当然のことなのである。ハイデッガー,ヤスパース,メルロー・ポンティといった近代の超克を企てる現代の哲学者たちも,こぞって偶然性の問題に取り組んでいる。日本では九鬼周造が偶然性についてのすぐれた体系的考察を展開した。

 現代芸術においても,画家のデュシャンや作曲家のケージらは〈偶然〉を芸術表現の重要な契機と考え,いわゆる〈偶然性の芸術〉を展開している。しかし,これに限らず一般に芸術は合理的活動ではなく,まさしく〈根拠なしに〉おこなわれるものであろうし,芸術家の何ものかとの偶然的な出遇いによって担われた,しかも無目的な偶然的活動である(O. ベッカー《美のはかなさと芸術家の冒険性》1929)。現代の哲学者たちが,芸術を拠りどころに存在の偶然性を追究しようとするのも理由のないことではない。
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普及版 字通 「偶然」の読み・字形・画数・意味

【偶然】ぐうぜん

たまたま。ゆくりなく。〔後漢書、儒林、劉昆伝〕詔して昆に問うて曰く、(さき)に江陵に在りしとき反風、火を滅す。後に弘農に守たりしとき虎、北のかた河を度(わた)る。何のを行ひて、是の事を致せると。昆對(こた)へて曰く、偶(たまたま)然るのみと。

字通「偶」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「偶然」の意味・わかりやすい解説

偶然【ぐうぜん】

必然の対。最広義には,予測を超えた複数の事象の一致・符合,約言すれば偶(二つ)なるものの出会いをいう。ラテン語accidens,ドイツ語Zufall,英語contingencyなども2者の遭遇を含意する。根拠を欠く事態として長く考察の外にあったが,理性中心主義の克服を図る論者には注目され,九鬼周造も卓抜な論考をものしている(《偶然性の問題》1935年)。芸術においてもデュシャンやJ.ケージらの大きなモティーフである。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「偶然」の意味・わかりやすい解説

偶然
ぐうぜん
hazard; chance

chanceはさいころが落ちることを意味し,hazardは十字軍の兵士たちがさいころ遊びを考案した場所の名に由来する。だれが意図したわけでもなく,だれも予見しえなかったことが,当事者の目的意識を裏切る形で起るとき,その起り方をいう。奇跡とは異なり当の事件は世界連鎖に基づいて起っているが,その連鎖が人間の判断能力をこえているのが特色で,直接関係のない2つ以上の事件連鎖のぶつかり合いから生れる付随的効果として説明される。当事者の目的意識が偶然の要件の一つであるから,必然的に価値判断が介入し,偶然は幸運や不運の代名詞となることが多く,さらにその効果の大きさから偶然が人格化もしくは神格化されて,運命の意味に接近することもある。

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