日本大百科全書(ニッポニカ) 「買取請求権」の意味・わかりやすい解説
買取請求権
かいとりせいきゅうけん
権利者が一定の者に対して自己の有する権利の買取りを請求する権利。私法上、建物買取請求権、造作買取請求権、株式買取請求権がある。
[平井一雄]
建物買取請求権
土地の賃借人がその地上に建物を所有していたが、借地権の期間が満了して、契約期間の更新がなく土地を明け渡さなければならない場合に、本来は、建物を収去して土地を明け渡すことが求められる。しかし、それは賃借人が建物に投下した資金の回収を認めない結果となり、あわせて社会経済的にも既存建物の無駄な消滅という結果となる。このことを考慮して、土地賃借人から賃貸人に対して、建物を買い取るよう請求することができるとした。これが、借地借家法第13条の建物買取請求権である。買取価格は、建物の立地条件や環境も考慮にいれた取引価格であるとされる。請求権とあるが、建物所有者からの申し入れに対して、借地権設定者(貸地人)はこれを拒むことはできない。買取価格の合意がないときは、訴訟で裁判所が決めることになる。期間満了のほかに、借地契約の合意解除や債務不履行解除でも借地権は消滅するが、この場合にも建物買取請求が認められるかに関しては、異論があり判例は否定的である。
借地上の建物所有者が第三者にこれを譲渡した場合には、借地権についても譲渡がされたことになるが、貸地人がこれを承諾しない場合には、第三者は借地権設定者(貸地人)に取得した建物の買取りを請求することもできる(借地借家法14条)。
また、建物賃貸借で、賃貸人の同意を得て、賃借人が建物に付加した建具などの造作について、賃貸借が期間の満了または解約申入れによって終了するときに、建物賃貸人に対してその造作を時価で買い取ることを請求できる。これを造作買取請求権という(借地借家法33条)。
売買では、原則として相手方が債務を履行するまで自分の債務の履行を拒むことができる、同時履行の抗弁権(民法533条)が認められているが、買取代金の支払いと建物の明け渡しが引き換え履行の関係にあるかについては解釈の分かれるところである。判例では、建物買取請求の場合には借地人が返還すべきは土地であって建物ではない、と否定的で、造作買取請求の場合には造作は返還すべき建物と一体的である、と肯定的である。
[平井一雄]
株式買取請求権
合併、営業譲渡など会社の営業全体に関係する事項の決定や株式の譲渡制限を定める定款変更について、株主総会の決議に反対する株主が、自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう、会社に請求する権利(会社法469条、785条、797条、806条、116条)。少数株主を多数決原理の弊害から保護するため1950年(昭和25)および1966年の商法改正で認められ、会社法においても必要な場面で認められている。
[戸田修三・福原紀彦]