京都・鎌倉の両五山を中心に臨済宗の禅僧により,鎌倉時代末期(14世紀前半)から室町末期(16世紀後半)にかけて開版された,国書および宋・元刊本の復刻本の総称。平安・鎌倉時代の各寺院の開版は,ほとんど仏書に限られたが,その後,入宋僧の手で仏典以外の儒書,詩文集,医書などの移入を見,五山の僧によって復刻開版され,いわゆる〈五山文学〉の隆盛をもたらした。五山版の開版は日本の禅僧のみならず,帰化宋僧の力によるところが少なくなく,五山の開版事業の隆盛にともない,中国の彫工の来日もさかんとなり,やがて営利出版をうながす原因ともなった。五山版の特徴は,仏典以外の図書の印行にあり,国書開版の糸口を開いたことにあるが,装丁様式にも変化を加え,従来の巻子(かんす)本,折本,粘葉(でつちよう)本のほかに袋綴(ふくろとじ)本(ふつうの和本の形式)があらわれ,しかも,その大部分をしめるようになったことである。なお,開版時の年号,または開版者の名を冠して,〈延徳版〉〈大永版〉〈師直(もろなお)版〉などと呼ぶものもある。
執筆者:庄司 浅水
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鎌倉末期(14世紀前半)から室町末期(16世紀後半)にかけて、主として京都・鎌倉の五山の禅院から出版された書籍の総称。内容は禅籍を中心とした仏典を主に、禅僧の教養に必要な中国の経書、史書、あるいは杜甫(とほ)などの詩文集、作詩作法書などの外典にも及んでいる。出版された書籍は、禅籍三百数十種、漢籍100種、総計四百数十種。現存する五山版は約1500部といわれる(川瀬一馬『五山版の研究』による)。五山版の特色の一つは、春日(かすが)版、高野(こうや)版などと異なり、多くが中国伝来の宋(そう)・元(げん)・明(みん)版および朝鮮版の覆刻本、すなわち今日でいう覆製本であるということである。いま一つの特色は、出版には中国から来朝した兪良甫・陳孟栄らの名工が従事したことから、印刷や造本の様式、たとえば匡郭(きょうかく)・界線(かいせん)・版心(はんしん)を刻するなどの点で、中国の印刷技法の影響が顕著にみられることである。そしてこの様式は以後日本の版本様式の基となった。
[金子和正]
『川瀬一馬著『五山版の研究』(1970・A・B・A・J)』
鎌倉・室町時代,京都・鎌倉五山などの禅宗寺院や禅僧によって刊行された書籍。宋刊本・元刊本・明刊本の復刻本や,宋元本の版式をもつ版本で,禅籍や漢籍(外典)などがある。最古の五山版は,1287年(弘安10)建長寺の正続庵で出版した「禅門宝訓」2巻で,鎌倉時代は20余刊行された。南北朝期に最盛期を迎え,数百種を出版。京都では春屋妙葩(しゅんおくみょうは)が,天竜寺に住した際に多数の書籍を刊行している。大陸から多数の刻工も移住し,その技術を伝えた。出版を行った寺院は,臨川(りんせん)寺・東福寺・建仁寺・南禅寺など。室町時代になるとしだいに地方での出版が多くなり,中期以後,京都五山の出版は衰退した。
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…平安朝末期から鎌倉時代にかけ,興福寺をはじめとし奈良の諸大寺で盛んに印刷が行われた。やがて禅宗の伝来につれ,鎌倉の〈五山〉を中心とする〈五山版〉の刊行が盛んとなった。このころになると,中国からはすぐれた宋版が輸入されたが,日本では仏典以外の書物を印刷することは,ごく稀であった。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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