旧暦10月の亥の日の祝い。中国では、この日の亥の刻に、ダイズ、アズキ、ササゲ、ゴマ、クリ、カキ、糖の7種を混ぜた七色の餅(もち)を食うと、無病だという俗信があって、それが平安時代の宮廷に取り入れられ、室町時代には、白、赤、黄、栗(くり)、胡麻(ごま)の五色の餅をつくった。この餅は宮中や将軍に献上するものであったが、のちには同時に宮中や将軍から臣下に下賜され、あるいは貴族同士が互いに贈答しあうことにもなった。
亥の子餅は一名亥猪(げんちょ)ともいい、厳重と書くこともある。イノシシの多産にあやかるためといって、女官たちが餅を搗(つ)く風習もあったし、宮中への餅は、天皇自ら搗くことが古くからの慣例であったらしい。
一方、現行習俗としての農村の亥の子行事は、イネの取り入れ時期にあたるため、イネの収穫祭と結び付き、亥の子様を田の神と考え、春に田畑に来臨した神を送り返す儀礼となっている。この日は新穀で餅を搗き、あるいはぼた餅をこしらえて祝うほか、子供たちが組をつくって丸い石や藁(わら)鉄砲で地面をたたく所が多い。丸石の亥の子搗きは瀬戸内海沿岸に盛んで、石に縄を幾本もつけ、引き上げて落として地を搗く。関東では10月10日の十日夜(とおかんや)に、亥の子に相当する行事を行う。
[井之口章次]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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