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享保の改革 きょうほうのかいかく

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

享保の改革
きょうほうのかいかく

江戸時代,8代将軍徳川吉宗が幕政建直しのために行なった改革。幕府三大改革のなかで最初に行われたことから,のちの改革の目標となった。吉宗の将軍襲職の享保1 (1716) 年に始り,その在職中に行われた。江戸時代中期になると,封建制の矛盾が次々と現れ,また幕府制度の矛盾も表面化して,幕藩体制の危機は深刻化していた。そこで吉宗は,農村対策として定免制を施行して年貢収納の強化をはかり,生産量を増すために新田開発やサツマイモ (甘藷) の栽培を奨励して農民の生活の安定をはかろうとした。都市の商業資本に対しては株仲間の公認や通貨の統一に努め,おもにその統制に力を注いだ。高利貸資本の圧迫により貧窮の状態にあった旗本や御家人のために上米 (あげまい) の制や相対済 (あいたいすまし) 令を出すことによって救済につとめ,一方幕府内部において人材登用のため足高 (たしだか) の制を定めて幕政運営の硬直化を防ごうとした。その他法典の編纂に努めた。『公事方御定書』の制定や『御触書寛保集成』の編集はその成果である。吉宗は目安箱を設置して広く庶民の意見を聞き,前代までの文治政治による装飾化を嫌って実用主義的な立場で政治を行なった。その傾向は文化面においても現れた。医学や洋学の奨励はその現れである。しかしこの改革も享保の飢饉米価下落のために十分な成果をみず,幕府の安定は一時的なものに終った。

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デジタル大辞泉の解説

きょうほう‐の‐かいかく〔キヤウホウ‐〕【享保の改革】

江戸幕府三大改革の一。8代将軍徳川吉宗が主導。綱紀粛正、質素倹約の励行、目安箱の設置、公事方御定書(くじかたおさだめがき)の制定、足し高の制、上米(あげまい)の制、相対済(あいたいすまし)令定免(じょうめん)制の採用、新田の開発、新作物栽培の奨励などの政策が実施された。

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大辞林 第三版の解説

きょうほうのかいかく【享保の改革】

将軍徳川吉宗が幕藩体制の安定と強化のため、その在任期間(1716~1745)を通じて行なった諸改革。幕政機構の再編、法制の立て直し、都市商業資本の統制、上米あげまいの制、定免制による年貢徴収の強化、新田開発、甘藷かんしよなど新作物栽培の奨励、米価の安定、通貨の統一、目安箱の設置など。寛政・天保の両改革とともに幕府の三大改革の一。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

享保の改革
きょうほうのかいかく

江戸幕府8代将軍徳川吉宗(よしむね)の治世30年間(1716~45)の施政の総称。この間享保(1716~36)の年号が過半にわたっているので、通例これを冠している。[辻 達也]

改革の前提

17世紀後半から顕著になった全国的商品経済の発展が幕藩体制の変質を促し、幕政においても4代家綱(いえつな)のころから財政の不健全化、支配機構の弛緩(しかん)が表面化してきた。5代将軍綱吉(つなよし)はこの変質に対応すべく、儒教的理想主義を掲げて、将軍の権威を高め機構を振粛するに努めたが、かえって幕臣の気風を萎縮(いしゅく)させ、側近政治の弊害を招き、また経済政策に失敗して経済を混乱させ、財政悪化を促進させた。続く6代家宣(いえのぶ)、7代家継(いえつぐ)の時代は、新井白石(あらいはくせき)を中心に前代の弊政除去に努め、機構改革・通貨改良・貿易改正などに着手したが、白石らが諸幕臣から遊離孤立し政治は停滞した。[辻 達也]

将軍権威の確立と人材登用

1716年(享保1)7代家継死去の後を受けて紀州家から将軍家を継いだ吉宗は、まず間部詮房(まなべあきふさ)、新井白石ら前代登用の側近者を政治中枢から退け、伝統ある譜代(ふだい)層を尊重する姿勢を示して人心の統一を図るとともに、自己の権威の強化に努めた。さいわい就任当初から吉宗には庶政刷新の期待が寄せられ、また彼の活発な行動がそれまでの将軍たちと著しく違って新鮮な印象を衆人に与えたことなど、権威確立の好条件をなした。これに加えて締戸番(しめどばん)(後のお庭番)という密偵(みってい)を設けたり、1721年目安箱を設置して将軍への直訴を制度化するなど、将軍が直接情報を握ることに努めたのも、権威強化に有効であった。吉宗は強大な権威樹立とともに、盛んに施政の手足となるべき人材の登用を図った。23年には足高(たしだか)の制を定め、少禄(しょうろく)者を抜擢(ばってき)しても、世襲の家禄を増すことなく、在職中相応の俸禄を支給しうるようにした。登用された人物としては、1717年江戸の町奉行(ぶぎょう)に用いられた大岡忠相(ただすけ)が有名であるが、幕府の財政や民政を担当する勘定方にとくに多数の能吏が登用されている。これと併行して勘定所・代官所の機構改革が行われ、財政・民政・司法の分業化、合理化が図られた。[辻 達也]

初期の財政改革

吉宗は初め徹底した緊縮政策を施行した。彼は新井白石の通貨政策を継承して良質な金銀貨による急速な通貨の統一と収縮を強行し、また率先倹約を励行し、支出を抑制した。1721年(享保6)には江戸の96種の商人・職人に組合を結成させ、仲間相互の監視によるぜいたく品等製造販売禁止の徹底を図ったのは、政策遂行の新しい方法であった。[辻 達也]

本格的財政再建

しかし厳しい緊縮政策も財政を好転させず、かえって旗本への俸禄支給も滞るほどの状態になったので、1722年老中水野忠之(ただゆき)を財政専管として本格的財政再建を開始した。まず諸大名に、参勤による江戸在府を半年に短縮することを代償に、石高(こくだか)1万石につき100石の上米(あげまい)を課することで急場をしのぎつつ、新田開発の励行、年貢の増徴に努めた。その効果は6、7年後に現れ、上米制も30年に廃止した。[辻 達也]

改革遂行の矛盾

しかしそこに新しい問題が生じてきた。その一は米価問題で、1723年ごろから米価は下落の傾向をみせ、29年ごろから暴落の状態となった。幕府は米の買入れ、貯蔵、流通統制あるいは米相場刺激のための投機的取引の容認など、対策に苦しんだ。このころ一般の日常生活必需品はむしろ漸騰を続けた。当局は不当利得の商人を処罰し、問屋の登録制を施行して需給の安定を図るなど努力したが、さして効果はあがらなかった。
 農村では、幕府は年貢を増額すると定免(じょうめん)制を施行して高年貢の維持を図ったが、農民は不作を訴えてしばしば定免年季下にかかわらず減免を要求したり、種子・食料の貸付を要求して一揆(いっき)を起こし、年貢増徴も頭打ちとなった。都市・農村にわたって改革の諸政策が行き詰まりをみせてきたとき、1732年瀬戸内海沿岸を中心に大虫害が発生し、畿内(きない)以西の農村は大凶作となり、都市でも米価は暴騰し、翌33年江戸で初めて窮民による打毀(うちこわし)が発生するに至った。しかしこの混乱が治まると、米価はふたたび暴落した。[辻 達也]

財政再建策の修正と強行

1736年(元文1)幕府は通貨政策を修正し、金銀貨の質を下落させて増発し、銭貨の大量鋳造もあわせて、通貨量の増大による不況の緩和を図り、翌年には老中松平乗邑(のりさと)を財政専管とし、神尾春央(かんおはるひで)(若狭守(わかさのかみ))を勘定奉行に登用して、財政再建策を強行した。こうして一時低落の傾向にあった年貢収入も増加し、44年(延享1)には江戸時代を通じて最高額に達し、これからしばらく財政もいちおう安定期に入る。[辻 達也]

司法面の改革

司法面の運営は前代著しく乱れていたが、吉宗自らその改革に強い関心をもち、大岡忠相を町奉行に登用して、裁判の促進・公正化、過酷な刑罰の制限などに努めさせた。法典についても、1742年(寛保2)に「公事方御定書(くじかたおさだめがき)」、44年に「御触書寛保集成(おふれがきかんぽうしゅうせい)」を編纂(へんさん)するなど、法制整備のうえで一期を画している。[辻 達也]

文教政策

庶民教育に関しても、吉宗はとくに社会秩序や法令遵守の精神養成の観点からこれを奨励し、幕府儒者の講義を庶民へも開放したほか、『六諭衍義大意(りくゆえんぎたいい)』を教科書として刊行し、また私塾の保護も行った。また実用的、実証的学問を奨励し、古書・古文書の収集、古代法・外国法の研究にも力を注いだ。とくに1720年(享保5)漢訳洋書輸入の制限を緩和し、また将軍自ら西欧の事物へ旺盛(おうせい)な関心を示したことは、蘭学(らんがく)の発達に大きく影響している。[辻 達也]

改革の性格

享保の改革は5代将軍綱吉に始まる社会変質への政治的対応の帰結点で、いちおうの成果をあげたと評価してよい。しかしまた、この改革の過程を通じて、容易に克服しえぬ深刻な問題を新たに顕在化させるに至ったのである。[辻 達也]
『辻達也著『享保改革の研究』(1963・創文社) ▽大石慎三郎著『享保改革の経済政策』増補版(1968・御茶の水書房)』

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