高利貸資本(読み)こうりがししほん(その他表記)Wucherkapital[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「高利貸資本」の意味・わかりやすい解説

高利貸資本 (こうりがししほん)
Wucherkapital[ドイツ]

〈こうりかししほん〉とも読む。金融業を営む資本であり,借手が返済・利子支払の十分な基礎をもたないなどの事情により他に貸手を求めがたい弱みに乗じて,高い利子率を課すもの。資本主義社会では,産業資本の価値増大に利用されるというかたちで金融業の一般的・経済的基礎が与えられるから,銀行をはじめ近代的金融機関が発達して,できるだけ有利な使途への資金配分を媒介する役割を果たすことになり,高利貸資本は資本の活動の本流からは外れたところに活躍の余地を求めざるをえなくなる。

 産業資本と違って高利貸資本は,商品・貨幣流通の発達がありさえすれば社会制度のいかんを問わず存在しえたから,歴史的に非常に古くからあり,商人資本商業資本)と並んでいわゆる〈前期的資本〉の一半をなす。商業と兼営されることも多かった。今日と同様,昔から窮民に対する小額の高利貸付けも多かったが,王侯貴族の奢侈(しやし),軍事費などに巨額の貸付けを行うものもあり,大坂鴻池家フィレンツェメディチ家など,日本史・世界史上に名を残している。その活躍は,過酷な収奪巨富集積とによって,しばしば旧来の社会秩序解体作用をもち,当然,政治・社会的に,あるいは道徳・宗教的に,その時々の論議の対象になった。近代社会の成立の前提をなす封建社会の解体と貨幣的富の蓄積にとっても大きな役割を果たし,やがて金融業における主役の座を近代的銀行制度に明け渡すことになる。
高利貸
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「高利貸資本」の意味・わかりやすい解説

高利貸資本
こうりがししほん
Wucherkapital ドイツ語

前期的商業資本とともに資本主義のはるか以前から存在する資本(資本の大洪水前的形態とか前期的資本という)の一つである。この高利貸資本の存在条件は、少なくともただ生産物の一部分が商品となっていること、貨幣の諸機能が発展していることのみにあり、利子生み資本の古風な形態として、浪費的貴族である土地所有者、労働諸条件を所有する小生産者や小農民へ貨幣を貸し付けたことにある。利子は、借り手の支払い能力と抵抗力以外には、なんらの制限もない高利であった。高利貸資本の収奪は、生活維持手段(資本主義の賃金相当額)を超えるすべての剰余分に及ぶだけでなく、さらには労働条件そのものの土地・家屋などの所有名義をも獲得収奪して、貨幣的富の集積を図った。高利貸資本はこのように、資本主義以前の生産様式に外側から寄生して、支配者と生産者を収奪し、生産様式を衰弱させ、分解を促進した。しかし、旧生産様式の解体がどの程度まで進むか、また解体後にどのような生産様式が生ずるかは、旧生産様式自体の性格による。寄生的高利貸資本は、それ自体としては新しい発展を生み出すものではなかった。このような高利の抑圧こそが近代の利子生み資本を根幹とする信用制度、銀行制度の前提であった。なお、近代においても高利貸資本が存在するが、それは副次的形態にすぎない。

[海道勝稔]

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百科事典マイペディア 「高利貸資本」の意味・わかりやすい解説

高利貸資本【こうりがししほん】

利子生み資本の歴史的な一形態。奴隷制社会,封建社会など資本主義以前の社会から存在し,奴隷所有者,領主,小商品生産者などに高利で金銭を貸し付ける。商業資本と並び前期的資本の一つであり,支配者と生産者を収奪してその社会の生産様式の分解を促進する。資本主義の未発達なところになお現存。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「高利貸資本」の解説

高利貸資本
こうりがししほん

利子生み資本の古典的形態。その存在は貨幣経済の存在とともに古く,基本的に自己資金の貸付であることを特徴とし,したがってその利子は高い。資本主義以前の諸生産様式に外側から寄生し,侵食していくが,新しい生産様式を生みだすことはない。預金を基礎とする銀行(近代的利子生み資本)の発達にともなって活動分野を制約されていくが,小生産者・消費者金融の分野では生き続けている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「高利貸資本」の意味・わかりやすい解説

高利貸資本
こうりがししほん
usurer's capital

近代的な資本 (産業資本) の成立以前に早くからみられていた資本の形態の一つで,貨幣を高利で貸付けて利益を得る資本の形態。高利貸資本は歴史的には商品経済の存在した社会では古くからどこにでもみられたもので,商業資本と同じく,近代的な資本対賃労働の存在を前提とする必要はない。この点で近代的資本と区別して前期的資本とも呼ばれる。

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世界大百科事典(旧版)内の高利貸資本の言及

【前期的資本】より

…この概念は,資本主義発達史の研究において産業資本と対立する資本類型として,大塚久雄によって提起されたが,マルクスはこれを〈資本の近代的基礎形態〉である産業資本に対して〈資本の大洪水以前的形態〉と呼んでいる。 前期的資本には商業資本高利貸資本があり,前者には商品取扱資本と貨幣取扱資本がある。前期的資本は産業資本と異なり資本の生産過程をもたない。…

【利子生み資本】より

…マルクス経済学特有の概念で,〈貸付資本〉〈利子付資本〉とよばれることもある。前近代的な形としては〈高利貸資本〉がある。資本主義経済のもとでは,貨幣は資本として機能することによって,利潤を生み出しうるということを基礎にして,一般に,産業資本をはじめ種々の経済主体が保有するさまざまな形の遊休貨幣は,なんらかの用途にあてようとする人に貸し付けられ,その返済に際し一定の利得(利子)を得る。…

※「高利貸資本」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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