儀礼,法制,教化などの整備充実を通じて社会秩序の安定を維持しようとする政治。武力,権謀による強圧を主軸とする武断政治と対蹠的に用いられる。語句としては古く《礼記(らいき)》にも見えるが,日本ではとくに17世紀中ごろ,江戸幕藩政治が武断から文治へ転換したというのが通説的見解である。その指標としては朝幕関係の融和,大名の改易の減少,法令・制度の整備,儀礼の尊重,人民教化の重視,学芸の振興,政治における儒教の影響の進展などがあげられている。近世の政治がこのような転換の現象を呈するのは,17世紀中ごろ幕藩支配体制が安定期に入るとともに,朝幕関係,幕藩関係という支配階級内部の緊張が緩和する一方,階級間の矛盾が徐々に表面化の傾向を示してきたのに対応して生じてきた政治の変化である。享保改革において武断復古政治へ逆行したという見解もあるが,それは幕府最高首脳部の趣向や性格や主観的立場の相違を誇張した見解であり,文治的傾向は享保改革においていっそう進展している。
執筆者:辻 達也
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法制や行政組織の整備,人心の教化などを基礎として世を治め,社会秩序の安定をはかろうとする政治体制。江戸幕府の場合,17世紀中葉から大名改易の緩和,牢人対策,法律・制度の整備など文治主義的な政治理念にもとづく諸政策がみられるところから,この時期に武断政治から文治政治への転換がなされたとされる。ただし「武断」「文治」という対比で幕府政治を理解することには疑問も出されている。
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