自然におきる自然地震と違って他の原因でおきる地震。世界各地で行っている開発や生産活動に伴っておきる地震や、巨大地震に誘発されて他の地域でおきる地震を、誘発地震という。巨大地震に誘発されておきる地震は余震との区別がつきにくい。ここではおもに人間の行為が引き金となって発生する誘発地震について述べる。
誘発地震が最初に認識されたのは1962年、アメリカのコロラド州の米軍兵器工場で放射性廃液の始末のために約4000メートルもの井戸を掘って捨てたときだった。それまで地震がまったくなかったところに地震がおき始めた。多くはマグニチュード(M)4以下の小さな地震だったが、なかにはM5を超える地震もおきて地元では大きな騒ぎになった。その後、廃棄を止めると地震が減り、注入を再開したら地震が再発した。このため注入は中止されたが、それまでに注入した廃液は60万トンだった。震源は井戸から半径10キロメートルの範囲に広がり、震源の深さは10~20キロメートルに及んだ。これは井戸の深さの数倍であり、地下に入れた廃液が岩盤の割れ目を伝わって深いところにまで達し、そこで地震を引き起こしたのだと考えられている。
このほか、インド、ザンビア、エジプトなど世界各地で新設されたダムの湛水(たんすい)後に地震がおきた例が知られている。1967年にインド西部でM6.5の地震がおきて、少なくとも180人が犠牲になった。これはコイナダムという巨大なダムをつくったことで引き起こされたと考えられている。ダムで貯水が始まったのは1962年で、それ以後、M4クラスの小さな地震がおき始めた。震源はダムの25キロメートル四方だけに限られ、周囲100キロメートル以内で地震がおきているのはここだけだった。またエジプトのアスワン・ハイ・ダムでは、貯水後20年近くたってからM5.6の地震がおきた。
シェールガス採掘も地震を誘発している。2011年にアメリカのアーカンソー州で大規模な群発地震が発生したほか、2012年にはオハイオ州でも地震がおき、それぞれ採掘を一時中止する騒ぎになった。このほか天然ガス採掘が盛んなアメリカ内陸部のアーカンソー州、コロラド州、オクラホマ州、ニュー・メキシコ州、テキサス州で、2011年にはM3以上の地震が20世紀の平均の6倍にも増えた。こうした地震の増加は採掘の影響だと考えられている。
[島村英紀]
『島村英紀著『巨大地震はなぜ起きる――これだけは知っておこう』(2011・花伝社)』
ダムの貯水,深井戸への大量の水の注入,地下核実験など人間の行為が引金となって発生する地震。地殻の構造や応力などが地震が起こりうる状態に近くなっているとき,これら人為的作用がその発生を促進するため起こるものと考えられる。誘発地震は人工地震ではなく自然地震であり,その発生の時刻,場所などを制御することはできない。
ダムによる誘発地震の例は少なくない。大きなダムを作って貯水を始めると,その付近に地震が多発し,まれにはマグニチュード6をこえる地震も起こり被害を生じることもある。地震が起こるのは貯水の初期から最高水位になるまでの間が多いが,満水後何年も続く例もある。この現象が最初に注目され,組織的な観測が行われたのは,アメリカのネバダ,アリゾナ州境に近いフーバー・ダムで,1936年から数年間にわたり年間数十ないし100回近くの地震が記録された。大きな被害を伴った例としては,インドのコイナ・ダムで67年12月10日のマグニチュード6.3の地震で180人の死者がでている。ギリシアのクレマスタ・ダム,中国広東省の新豊江ダムでも被害地震が起こっている。著名なダムとしては,タジキスタンのヌレーク・ダム,アフリカのローデシア,ザンビア国境のカリバ・ダム,エジプトのアスワン・ハイ・ダムなども多数の誘発地震を発生している。日本のダムでも近くに地震が発生した例はあるが,もともと地震の多い国なので,ダムの影響かどうか判定がむずかしい。
水の注入による誘発地震としては,アメリカ,コロラド州デンバーの例が有名である。1962年に工場の廃液を処理するため3800mの深さの井戸に注入したところ,小地震が多発し,その後数年間,地震活動が断続した。ダムの貯水や水の注入による誘発地震は,地下の岩盤に浸入した水の圧力で岩の破壊強度(断層面の摩擦)が低下するためと考えられる。
地下核実験はそれ自身が強い地震波を発生する人工地震であるが,同時に付近の断層が動いて地震となることがある。また核爆発の後,多数の余震が発生するが,これらはもちろん自然地震であり,核実験により誘発されたとみるべきものである。
執筆者:宇津 徳治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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