日本大百科全書(ニッポニカ)「地震学」の解説
地震学
じしんがく
seismology
地震とそれに関連する地球物理学的諸現象を研究する学問。おもに地震計でとられた記録に基づいて種々の自然科学的考察がなされる。研究対象を便宜的に大別すると、(1)地震の発生機構、地震波の伝播(でんぱ)様式など地震現象そのものを取り扱う分野と、(2)地震波を利用して地球内部構造を研究する分野に分かれる。
地震学は固体地球物理学の一分野であるが、他の地球科学のいくつかの分野(火山学、測地学、地球電磁気学、地質学、岩石学など)とは密接な関係にある。地震現象や地球内部構造の全体像を得るには、多くの方面からの知識が必要である。
地震学は震災対策・核爆発探知などを通して現実の政治・社会と密接に結び付いている。日本では昔から地震により多くの生命・財産が失われてきた。地震災害の軽減は全国民の願いである。精度のよい地震発生予測の実現への道のりは遠いが、地震災害の軽減には地震学の知見を生かすことができよう。核実験禁止は多くの人々の願いである。地震学的手法は、地下核実験監視のための重要な手法の一つとなっている。地震学手法の応用に際しては、自然地震と地下核実験の識別が重要となる。
[山下輝夫]
近代科学としての歴史
地震学が近代科学としての形をとり始めたのは、正確に地震動を記録する地震計が開発され始めた19世紀末から20世紀初頭にかけてであった。近代的な地震計の開発についてもっとも著名な人は、ロシアのガリチンである。彼は地震の記録にガルバノメーターgalvanometer(検流計)を用いる電磁式地震計を開発した。この地震計の開発により、すでにある程度の発展をみせていた弾性理論との結合が可能になった。その後の地球内部構造についての研究の進歩は急速であった。この分野ではその後、ドイツの地震学者ウィーヘルトとその門下が基本的な仕事をした。
1910年代には、すでにモホロビチッチ不連続面や地球の核の存在が知られていた。地殻と核の間にはマントルと名づけられる部分があることも知られていた。その後の観測網の充実により、地球内部構造についてのより詳細な知識が得られるようになった。また、地震の発震機構についての研究も盛んになってきた。発震機構、すなわち地震波が震源からの方位により「押し・引き」があることは、京都大学の地球物理学者志田順(とし)によって初めて着目されていた。その後、内外の地震学者によって研究されたが、なかでも日本の本多弘吉(ひろきち)による研究はもっともよく知られている。第二次世界大戦後に海洋底の地球物理学的研究が始まったが、これはプレートテクトニクスという理論を生み出すに至った。この理論により、地震現象を全地球規模での構造運動の一環として理解することが可能となったのである。
また、1960年代の終わりころから地震の震源のモデルとして、断層モデルが用いられるようになったことは重要なことである。このモデルは、観測事実、すなわち地震波の波形や、また大地震発生に伴う地殻変動などをよく説明しうることを明らかにした。
[山下輝夫]
『地震学会編・刊『日本の地震学百年の歩み』(1981)』▽『笠原慶一著『防災工学の地震学』(1988・鹿島出版会)』▽『嶋悦三著『わかりやすい地震学』(1989・鹿島出版会)』▽『松沢武雄著『横目でみた地震学』全3巻(1993・深田地質研究所)』▽『地震災害予測研究所編『日本の地震学と地震工学』(1998・損害保険料率算定会)』▽『宇津徳治著『地震学』(2001・共立出版)』▽『T・レイ、T・C・ウォレス著、柳谷俊訳『地震学』全2巻(2002・古今書院)』▽『島村英紀著『地震学がよくわかる』(2003・彰国社)』▽『菊地正幸著『リアルタイム地震学』(2003・東京大学出版会)』▽『藤井敏嗣・纐纈一起編『地震・津波と火山の事典』(2008・丸善)』