固体の表面から真空中に電子を1個とり出すのに必要とする最小の仕事。電子の化学ポテンシャルの符号をかえたエネルギーに相当する。仕事関数は表面や界面における電子過程や,化学反応を左右する重要な量で,例えば金属表面からの熱電子放出や,電場による電子放出は,仕事関数Φの大きい金属ほど起こりにくい。光電効果において,金属表面に光を照射したとき光電子が放出されるためには,光電子は少なくとも仕事関数Φのポテンシャル障壁をこえなければならない。したがって,光電子の最大運動エネルギーEmaxは,プランク定数をh,入射光の振動数をνとして,Emax=hν-Φで与えられることになる。また,二つの異なる導体を接触させたときに生ずる電位差(接触電位差)の大きさは,両者の仕事関数の差を電子の電荷で割ったものに等しい。
単体金属元素の仕事関数は,電気陰性度xと,おおよその直線関係,
Φ≅(2.27x+0.34)eV
で結ばれている。これは両者が,だいたい固体または原子内の価電子の束縛エネルギーで決まっていることから理解できる。仕事関数は表面での電子分布のしみだしによる静電ポテンシャルの項(表面項)と,固体を構成するイオンの引力ポテンシャルに起源をもつ項(バルク項)の和として表せる。表面項は表面付近の電荷分布に支配されるので,仕事関数は表面の結晶学的な方位,欠陥,吸着などによって影響を受ける。同一金属では原子の面密度が大きい表面ほど仕事関数が大きくなる傾向がある。これは原子の面密度が大きい表面では,電子分布の真空側へのしみだしが大きくなることに原因がある。またセシウムなどイオン化エネルギーの小さいアルカリ金属原子を化学吸着すると,正にイオン化された吸着原子層ができるため,仕事関数は減少する。バルク項は物質の大きさを仮想的に無限大と考え,表面の効果を無視したときの,真空からはかったフェルミ準位の絶対値である。アルカリ金属など伝導電子の密度が小さい金属ではバルク項のほうが表面項より大きい。このような場合には,仕事関数は伝導電子間に働く交換相互作用のエネルギーで決定されている。一方,アルカリ金属以外の金属では,表面項のほうがバルク項より大きく,電子分布のしみだしによる表面の電気的二重層によって仕事関数が決まる。半導体の仕事関数は,バンド構造や不純物濃度などバルクの性質だけでなく,表面の近くに局在した表面電子状態の分布によって決定される。なお仕事関数を実験的に決定するには,電子放出を利用するものと接触電位差を利用するものとがある。
執筆者:塚田 捷
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
固体物理学の用語で、熱電子放出や光電子放出における重要な概念の一つ。金属や半導体内にある電子を表面から外部に放出させるためには、熱とか光など、なんらかのエネルギーを電子に与える必要がある。このエネルギーは温度と一定の関係があり、温度が上がるとともに減少する。仕事関数とは、絶対零度における電子放出のためのエネルギーを電子ボルト単位で表したもので、外界(真空)の電位と、金属や半導体の電子の平均エネルギー準位であるフェルミポテンシャルとの差に相当する。仕事関数は金属や半導体で異なり、半導体では不純物濃度によっても異なる。たとえばナトリウム2.28、バリウム2.51、金4.90、白金5.32、タングステン4.52などである。アルカリ金属が光電面によく利用されるのは、仕事関数が可視光のエネルギー域にあることによる。
[岩田倫典]
ある物質の表面から真空のなかへ電子が遊離されるためには,ある仕事Wが必要である.このエネルギーをその物質の仕事関数という.普通,Wが小さいほどその物質は電子を放出しやすいといえる.次にいくつかの例をあげる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…金属内の電子のエネルギーはこの束縛ポテンシャルVと運動エネルギーの和で表されるが,Vと運動エネルギーの最大値EFとの和V+EFは,真空中で静止している電子のエネルギー(真空準位という)Evacより小さい。EvacとV+EFとの差を仕事関数と呼ぶ。仕事関数をΦで表すことにすると,入射光のエネルギーhνがΦより大きいとき,すなわちcを光速,λを波長として,hν=hc/λ>Φならば,固体中の電子は,光からエネルギーを受け取り,真空準位以上のエネルギーを得て金属外に放出される。…
※「仕事関数」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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