契約当事者の一方(事業者)が多数の契約を画一的に迅速に処理するため,あらかじめ一方的に契約条件を定め(営業上の多数の取引に用いるため,あらかじめ定められた契約条件を普通契約約款とか普通取引約款という),この契約条件に契約の相手方は無留保で従う(付合,付従,従属)形で契約を締結するほかないような実質を有するに至った契約。付従契約ともいう。航空機,鉄道,バス,船舶などによる運送,電気,ガス,水道などの供給,保険,銀行預金や住宅ローン,ホテルでの宿泊,パック旅行,マンションの賃貸借や分譲,建築請負,自動車売買,社債・株式の募集などから日常生活品の購買に至るまで,多くの領域に存在している(労働者の雇用についても付合契約が存在するが,これについては〈就業規則〉の項を参照)。
大衆を相手とする多数の同種の契約においては,いちいち内容を協議して決めることは不可能であり,画一的な契約条件によって迅速に処理することには合理性が認められるが,問題はその内容であり,事業者が一方的に契約条件を自己に有利なものとできることにある。ここでは,契約の自由は経済的強者のみの自由を意味することとなる。この付合契約という観念は,フランスのサレイユが20世紀の初めに,〈これは契約とは名ばかりで,ここには一方の単独意思の排他的支配があり,この意思はただ受諾する者の付従を待つにすぎず,契約とは認められない〉と論じたのに始まった。この考えに対しては,事業者の提供に応ずるか否かは需要者の自由であるから,そこにはなお契約たる性質が認められ,ただ提供に応ずるに当たってはひとまとめに包括的な承諾がなされることを要する点に特色があるにすぎないと説く者もある。しかし,電気,ガス,水道などのように当事者の一方が独占的企業体で,かつその取り扱うもの自体が生活必需品であるような場合には,事実上の締約強制が行われており,需要者には二重の意味で〈契約の自由〉が否定されているに等しい。
このように,付合契約においては,需要者が契約条件の全部または一部に不同意でも契約せざるをえないし,あるいは契約締結時に契約条件の内容を知らないこともあるが,そのような契約条件に拘束されるのかという問題が付合契約の法的性質とも関連して議論されている。付合契約をも契約として理解するとしても,契約の成立に〈意思〉の合致を要求する立場からは条項の拘束力が否定されることがあり,〈意思表示〉の合致で足りるとする立場でも締約時に不知の条項についてはやはり拘束力が否定される。このため,一定の取引業界では約款によって取引するという〈事実たる慣習〉ないし慣習法があると説かれたり,約款は一定の取引業界の自主的法規であると説かれたりしてきた。しかし,当事者双方にとって取引慣行でなければ,〈事実たる慣習〉とはいえないし,事業者が一方的に自己に有利に作成している約款を法とみなすことも妥当でないと批判されている。また,日本の古い判例は,とくに約款によらない旨の意思がないときには約款による意思をもって契約したものとし,契約締結後に約款を知らされた場合も約款による意思であると推定している。これに対しても,約款について,客に諾否表示義務を積極的に課す規定は民法・商法にはなく(商人には商法509条がこの義務を課している),黙っていると約款に拘束され,明示的に異議を述べないと約款が契約の内容となるというようなことにはなりようがないとの批判がなされている。
いずれにせよ,需要者とくに大衆的消費者の保護は,一部の事業者に対する行政的規制(約款の作成・変更の許認可等)だけではまったく不十分であり,消費者保護法制等の整備・拡充によって多面的な規制を行い,約款内容の適正化を図る必要がある。欧州各国では,弱者保護の立場から約款規制法が成立しており,その効果をあげはじめている。
→契約 →私的自治の原則
執筆者:高橋 弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…
[公企業の利用関係]
公企業の利用関係は契約関係であって,企業者と利用者の契約によって成立する。その特質の一つは,利用条件が法令や供給規程などによって定型化されていることである(付従契約・付合契約)。供給規程について認可制が採用されていることもある。…
※「付合契約」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新