翻訳|rickets
小児にみられるビタミンD欠乏症(大人ではビタミンD欠乏は骨軟化症として現れる)。佝僂はせむしの意で,この病気は古くから知られていたが,その病態は長いこと明らかではなかった。17世紀にはF.グリッソンがくる病について詳細に記述している。しかし,くる病についての本態が明らかになったのは20世紀に入ってからで,1919年イギリスのメランビーE.Mellanbyが,子イヌに実験的にくる病を起こすことに成功したことによって,ビタミンD欠乏症であることが明らかになった。成長の盛んな小児では,骨の組織が正常に形成されるためには十分なカルシウム,リンなどの無機質とビタミンDとが必要である。とくにDは腸管からのカルシウム,リンの吸収を高め,さらにその体内に入ったカルシウムを骨細胞にとりこませて骨の石灰化を促進させるという重要な作用をもっている。手,足,肋骨などの長い骨(長管骨)では,その両端つまり骨端部から骨の形成が行われていくが,ビタミンDやカルシウム,リンなどの無機質が欠乏すると,骨の石灰化が起こらず正常の骨の形成ができないで,石灰沈着のない,いわゆる類骨組織osteoid tissueが増加した状態となる。ひざやひじ,手首の関節の骨端部ははれて,押さえると痛みを感じるようになる。このような状態をくる病という。ビタミンDは卵黄,魚,肉,肝臓,バターなどに多く含まれており,また市販のミルクには必要量が添加されているので,ミルクをよく飲む子どもや幼児・学童で普通の食事をとっている子どもはDやカルシウム,リンの欠乏をきたすことは少なく,くる病となる子どもは最近著しく減少している。
日光の紫外線は動物体内のプロビタミンDを活性化してビタミンDに変える作用があるので,日光浴はくる病の予防に効果がある。日照時間の少ない北欧やイギリス(このために,くる病は〈イギリス病〉ともいわれる),日本では東北,北陸地方でとくにくる病の発生率が高いのはこのためである。東京でスモッグのため日照が妨げられ,くる病の発生が増えているのではないかということが問題となったことがあるが,その後あまり確実なデータはない。
ビタミンDは脂溶性で脂肪とともに吸収されるので,脂肪の吸収がとくに悪い病気,たとえば先天性胆道閉鎖症や吸収不全症候群などではビタミンD欠乏が起こり,くる病となることがある。またビタミンDは肝臓の中の酵素で活性化され,さらにもう一度,腎臓の酵素で活性化されて最終的に最も強力な作用をもつ活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD)となる。したがって肝硬変や慢性腎不全のようにDの活性化が妨げられる病気では,ビタミンDを健康な人が必要とする量だけ摂取していたのでは,Dの欠乏と同じことになり,くる病となる。最近は単純なビタミンD欠乏症によるくる病は減ってきたが,反面このような慢性の病気による特殊なくる病が増加している。
くる病となった小児は不機嫌で顔色が悪く,疲れやすいなどの症状がみられ,手首やひじ,ひざの関節がはれていて,さわると痛がって泣く。乳児では頭の大泉門が閉鎖するのが遅れたり,頭蓋癆(ろう)craniotabesといって,頭の骨が薄くなり指先で強く押すとへこむようになる。治療せずに放置されるとO脚,X脚,脊柱彎曲(わんきよく)(脊椎側彎症)など,骨の変形が起こり,身長も伸びなくなる。手首やひざの関節のX線写真を見ると,骨端部は石灰沈着がない部分があるために骨端線はぼやけて先が広がり杯状に見える。前胸部を見ると肋骨の端がまるく膨れて数珠のように並んでいるのが見える(肋骨念珠rosary)。
ビタミンDとカルシウム,リンの十分な補給である。Dの過剰投与とならないように血清カルシウム濃度,血清アルカリホスファターゼの値をみながら注意してDを投与する。活性型ビタミンDも市販されているが,作用が強力なので少量で有効である。
執筆者:藪田 敬次郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…両下肢をそろえてひざを合わせた際に左右の足関節部(くるぶしの部分)が離れ,全体としてX字形をとるひざの変形をいう。小児は3~4歳以降は生理的に軽度のX脚であるが,これが異常に,目立つ程度に強くなったものがX脚変形である。O脚変形と同様に,下肢骨の骨端線軟骨の発育に異常を生ずるような病気,すなわちくる病や先天性の骨異形成が小児期以後に現れたときに,病的なX脚変形が起こる。治療もO脚変形と同様で,ある程度以上の変形は,外見上の問題のほかに,将来膝関節の痛みの原因ともなるので,手術による矯正が行われる。…
…両下肢がひざを中心に外側に凸に湾曲して,全体としてO字形をなす下腿の湾曲と大腿を含む下肢の変形をいう。俗にいう〈がにまた〉。ひざが外側に凸に湾曲することを内反膝(ないはんしつ)というが,O脚は両側のひざに起こっている状態である。乳児は生理的に軽いO脚であるが,発育に伴ってその度が減少し,2~3歳以後は軽度のX脚になるのが普通である。しかし3~4歳以後になってなお外見上目立つもの,両ひざの間に指が2~3本入るようなものは病的なO脚であると考えられる。…
…この病気は骨組織へのカルシウムの沈着障害で,類骨(まだ石灰化していない骨基質)の割合が増して骨が弱くなる。発育期のものをくる病,成人のものを骨軟化症と呼び,両者は同一疾患である。しかし原因はいろいろあって,単一疾患でなく症候群である。ビタミンDの欠乏(食事中のビタミンD不足,日光不足,腸の吸収不全,ビタミンD代謝障害など),腎細尿管障害(リンの再吸収障害),ホスファターゼ(酵素)の欠損など,種々の原因による。…
…生体内では合成することができず,またそれ自体は生体の主要構成成分やエネルギー源とはならないが,微量(mgあるいはμgの単位)で生理機能を調節して,代謝を円滑にさせる物質群で,食物などの形で摂取しなければならない有機化合物をいう。ビタミンのなかには体内で生合成されるものもある。たとえばビタミンB複合体であるニコチン酸は,肝臓でトリプトファンから生成される。しかしその量は生体が必要とする量に及ばない。またビタミンC(アスコルビン酸)は多くの動物では体内でグルコースから生成されるが,ヒト,サル,モルモット,ゾウなどは生合成することができない。…
…ある疾患が一定の地域に持続的に多発する場合,このような疾患を風土病または地方病と呼ぶ。風土病には,その地域の地理,気候,生物相,土壌などの自然環境と,住民の衣食住の様式や習慣,因習および栄養障害の有無など種々の要因が関係している。熱帯地方に風土病的にみられる疾病は,一括して熱帯病と呼ばれることがある。現在では,かつて世界各地にみられた風土病は,住民の生活水準の向上や環境衛生の向上によってだんだんと消滅する方向にあり,風土病の分布状態も時代とともに変遷している。…
※「佝僂病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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