改訂新版 世界大百科事典 「信田」の意味・わかりやすい解説
信田 (しだ)
信太,志田とも書く。幸若舞の作品。上演記録の初出は1551年(天文20)。作者不明。平将門の孫信田小太郎(しだのこたろう)は幼少で父の死にあい,母は老臣浮島太夫の諫言を聞かず,小太郎姉千寿の夫小山行重(こやまゆきしげ)に所領の常陸信田庄の半分を与えて,小太郎の後見を依頼する。しかし,小山はすべての所領を横領し,母と小太郎を追放する。さらに,母を調伏で祈り殺し,降参した小太郎を千原太夫に殺させようとする。小太郎は太夫の情で死を免れるが,人買いの手に渡り諸国を転々として,ついに奥州卒土ヶ浜(そとがはま)の領主塩路の庄司に買い取られ,奥州の国司に見いだされて国司の職を譲られる。姉の千手も小太郎を求めて諸国を流浪するが,奥州で小太郎と再会して復讐をとげる。幸若舞の作品のなかでも長編で,なかには浮島太夫が小山の大軍と戦ってことごとく討死する場面や,妻の弥陀夜叉の女戦(おんないくさ)などが挿入されている。また,主人公が将門の子孫とし,瞳が二つあるとする点,人買いの手に渡って諸国を漂泊する苦難の物語という点で,説経節《山荘太夫(さんしようだゆう)》と類似しており,小太郎や千寿の漂泊からもとは廻国する念仏比丘尼や巫女たちによって伝承されたものではないかと考えられている。なお,信田伝説は常陸国や北陸地方を中心に伝えられている。
執筆者:山本 吉左右
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報