江戸初期の仮名草子。小瀬甫庵(おぜほあん)作。1622年(元和8)刊。15巻。太田牛一(ぎゅういち)作の実録『信長公記(しんちょうこうき)』を、甫庵が物語風に潤色したのが本書で、保元(ほうげん)の乱以降足利義輝(あしかがよしてる)までの武家政権の興亡を序とし、織田信長(おだのぶなが)の先祖の記述から本能寺で明智光秀(あけちみつひで)に弑(しい)されるまでの戦闘に明け暮れた生涯を記し、その人物評で結ぶ。『信長公記』は記録性を重んじ、信長の若年の奇行やその後の専制君主ぶりをありのままに描くが、『信長記』は、信長を媒材として儒学の理念を宣揚すべく暴君色をやや薄めている。
[村上 学]
『神郡周校注『信長記』上下(1981・現代思潮社・古典文庫)』
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…1568年(永禄11)信長上洛以前の行動を記述した首巻1巻と上洛以後の行動を記録した15巻とから成る。15巻の部分には慣例上《原本信長記》と称される写本があり,良質の史料とされてきたが,この書は岡山大学池田家文庫蔵《信長記》15巻15冊で,牛一の自筆を含む善本であり,重要文化財に指定されている。《信長公記》と《原本信長記》との成立事情は必ずしも明らかではないが,前者は記事が豊富であり,首巻を伴っているので一般には利用度が高い。…
…甫庵は太閤記の著述にあたって大村由己(ゆうこ)の《天正記》,太田牛一の諸記録,加賀藩の古老横山氏の談話等を素材としたといわれる。この態度は《信長記》の著述にあたって太田牛一の《信長公記》を素材としたのと同軌である。しかし《太閤記》では,古文書の引用に際し自己の見解,主張による改ざんをこころみていることにうかがわれるように,事実の記述というよりは自己の儒教的な政治観の主張に重きを置いているといわれる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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