倶舎宗(読み)クシャシュウ

デジタル大辞泉 「倶舎宗」の意味・読み・例文・類語

くしゃ‐しゅう【×倶舎宗】

南都六宗の一。「倶舎論」を研究した学僧の集まり。法相ほっそうに所属した寓宗ぐうしゅう毘曇宗びどんしゅう

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精選版 日本国語大辞典 「倶舎宗」の意味・読み・例文・類語

くしゃ‐しゅう【倶舎宗】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「くしゃじゅう」とも ) 南都六宗の一つ。また八宗の一つ。世親菩薩の倶舎論を主とし、六足論、発智論(ほっちろん)、毘婆沙論(びばしゃろん)などを研究した学僧の集まりで、日本には、法相宗とともに伝えられ、諸寺に通じておこなわれた。元興寺の護命、明全等は傑出した倶舎学者であったが、のちに東大寺で特に習学され、東大寺を本拠とした。いわゆる宗派として独立したものではない。倶舎。〔三国仏法伝通縁起(1311)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「倶舎宗」の意味・わかりやすい解説

倶舎宗
くしゃしゅう

インドの世親(せしん)バスバンドゥの著した『阿毘達磨倶舎論(あびだつまくしゃろん)』(略して『倶舎論』)を研究する宗派。中国仏教十三宗の一つ。日本の南都六宗の一つ。『倶舎論』は、世親が部派仏教(小乗仏教)の一派説一切有部(せついっさいうぶ)の教学に、経量部(きょうりょうぶ)の立場を取り入れながら著した仏教綱要書である。中国では南北朝時代、部派仏教の論書を研究する毘曇(びどん)宗が成立したが、564年に真諦(しんだい)が『倶舎釈論』22巻を訳すと、その弟子慧愷(えがい)や道岳がこれを研究・注釈するに至って、毘曇宗は倶舎宗にとってかわられた。また654年に玄奘(げんじょう)がふたたび『倶舎論』30巻を訳すと、弟子神泰(じんたい)らが盛んに研究し注釈を施し、普光(ふこう)は『倶舎論記』30巻を、法宝(ほうぼう)は『倶舎論疏(しょ)』30巻を、円暉(えんき)が『倶舎頌疏(じゅしょ)』30巻を著した。

 日本へは、玄奘に学び法相(ほっそう)宗を伝えた道昭(どうしょう)(629―700)が初めて伝えた。奈良時代に玄昉(げんぼう)、義淵(ぎえん)らが研究し、奈良の諸大寺に倶舎宗が置かれ、倶舎曼荼羅(まんだら)が描かれた。のちには法相宗の付宗となり、平安初期、最澄(さいちょう)の年分度(ねんぶんど)者の割当てに際しても法相宗の付宗として、1名が毎年得度できることとなった。近世にも鳳潭(ほうたん)、普寂(ふじゃく)らによって研究された。現在、独立した宗派はないが、『倶舎論』は仏教の基礎学として多くの学者が研究している。

[田村晃祐]

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百科事典マイペディア 「倶舎宗」の意味・わかりやすい解説

倶舎宗【くしゃしゅう】

南都六宗の一つ。《倶舎論》を根本聖典とし,唐の玄奘(げんじょう)によって訳されて以降,盛んに研究され,日本には元興(がんごう)寺開祖道昭(どうしょう)(661年帰国)が請来,天平勝宝(てんぴょうしょうほう)年間東大寺において当宗関係の経論が転読されている。奈良時代以降は法相(ほっそう)宗に付属し,わずかに学問的伝統が伝えられた。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「倶舎宗」の解説

倶舎宗
くしゃしゅう

薩婆多(さつばた)宗とも。南都六宗の一つ。世親(せしん)の「倶舎論」によっているので倶舎宗といい,あわせて「六足論」「発智論」「毘婆沙(びばしゃ)論」などを学んだ。入唐して玄奘(げんじょう)に師事した道昭によって661年(斉明7)にもたらされたのが初伝で,さらに智通・智達・玄昉(げんぼう)らによって伝えられた。一宗としての独立性に乏しく,806年(大同元)1月26日の官符では法相(ほっそう)業の年分度者(ねんぶんどしゃ)3人のうち2人に「唯識論」を,1人に「倶舎論」を読ませることとしており,法相宗の付属とされたことがわかる。諸寺の僧侶に考究され,初期には元興寺の護命(ごみょう)・明詮(みょうせん)が知られるが,のち東大寺が倶舎の本拠とされ,良忠・宗性(そうしょう)ら多くの碩学が輩出した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「倶舎宗」の意味・わかりやすい解説

倶舎宗
くしゃしゅう

インドの僧,世親 (320頃~400頃) の著わした『阿毘達磨倶舎論』の研究をもっぱらとする仏教の一学派。中国で古く毘曇宗とも呼ばれたものと同じ路線の上にある。中国では真諦または玄奘によるこの論書の翻訳に始り,神泰などが多くの注釈を著わして研究した。日本においても道昭をはじめ行基,玄 昉らも研究を行い,南都六宗の一つに数えられたが,独立の一宗派の形態をとるにはいたらなかった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「倶舎宗」の解説

倶舎宗
くしゃしゅう

南都六宗の一つ
インドの世親の『倶舎論』を研究する学派。小乗仏教に属する。日本には斉明朝(655〜661)のころ法相宗とともに伝来し,以後東大寺・興福寺を中心として講究された。

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