仏教界の統制にあたる中央の僧官。624年(推古32)ある僧が斧で祖父をなぐった事件を契機に,百済の僧観勒(かんろく)を僧正(そうじよう),鞍部徳積(くらつくりのとくしやく)を僧都に任じたのが制度的な始まりである。律令制下では僧正,大僧都,少僧都,律師および実務を担当する佐官からなる機構であった。僧尼令によると,僧綱は治部(じぶ)省玄蕃(げんば)寮の統属下にあって,その職務は僧尼名籍と寺院資財の管理,〈法務の綱維〉とよばれる僧尼の統轄や教学の振興をおもな内容とした。僧綱の政務を行う場所である〈僧綱所〉は722年(養老6)薬師寺と定められたが,平安遷都の後は西寺(さいじ)へ移った。奈良時代の末ごろに,佐官に代わって威儀師,従儀師が置かれ,律師以上の僧綱員は6~7人であった。やがて大僧正の常任,あるいは各階に権官(ごんかん)が置かれ,しだいに栄誉的な地位となり,平安後期には,実際の職務は〈法務〉と称する僧正クラスの2人,〈惣在庁〉〈公文(くもん)〉と称する威儀師,従儀師らがおもに担当した。だがそれも,惣在庁が仁和寺の法親王に祗候(しこう)するようになり,形骸化した。
執筆者:中井 真孝
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僧尼の綱維を保ち、諸寺を監督するために設けられた僧官の総称。中国に始まり、職位には僧統、僧録などの称を用いた。日本では、京師の諸寺より推挙された智徳(ちとく)兼備の人物が任命され、綱所(こうじょ)にあって事務を行い、僧正(そうじょう)、僧都(そうず)、律師(りっし)の三階の称が用いられ、これをさらに大・少・正・権などに分けた。人数も『弘仁格(こうにんきゃく)』には僧正・大僧都各1人、少僧都2人、律師4人と定められたが、のちに漸次増員し、864年(貞観6)にはこれらに相当する僧位として、僧正に法印大和尚位(ほういんだいかしょうい)、僧都に法眼(ほうげん)和尚位、律師に法橋上人位(ほうきょうしょうにんい)が設けられたこともあって、人数の増加に拍車をかけ、1086年(応徳3)には27人と激増し、有名無実となった。現在では各宗で僧の位階を示すのに用いる。
[石田瑞麿]
律令制下で僧尼の監督・教導にあたった僧官。僧正(そうじょう)・大僧都(だいそうず)・少僧都・律師(りっし)の四職で構成され,その下に佐官(さかん)がおかれた。僧綱の任命・職掌については僧尼令に規定がみえる。624年(推古32)百済僧の観勒(かんろく)を僧正,鞍部徳積(くらつくりのとくしゃく)を僧都に任じたとするのが史料上の初見だが,のちの僧綱と同じ性格のものか疑わしい。天武朝には律師がおかれ,律令制下で僧綱の制度が整備された。819年(弘仁10)定員を僧正・大少僧都各1人,律師4人,佐官の系譜を引く威儀師(いぎし)6人・従儀師(じゅうぎし)8人と規定したが,厳守された形跡はない。以後大僧正や権官がおかれ,僧綱の員数も増えてその地位はしだいに栄誉的なものとなり,僧綱政の実務も法務や在庁などの地位にある特定の僧にゆだねられた。
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…しかし全位にわたっては施行されず,8世紀末になると賢大法師位はなくなり,伝灯,修学,修行の3系列にそれぞれ大法師位,法師位,満位,住位,入位の5級に整備された。平安時代には修学,修行の2系列も消え,しかも盛んに昇叙されるため,僧綱(そうごう)はほとんど伝灯大法師位となった。そこで864年(貞観6)僧綱の位階として法印大和尚位(ほういんだいかしようい),法眼和上位(ほうげんかしようい),法橋上人位(ほつきようしようにんい)の3階を設けた(法印,法眼,法橋)。…
…日本では624年(推古32)百済の僧観勒(かんろく)の奏上によって僧正,僧都を任じたのが始まりである。その後,645年(大化1)十師(じつし)に改まったが,律令制の施行にともない683年(天武12)僧正,僧都,律師からなる僧綱(そうごう)が成立した。これは中央の僧官であるが,701年(大宝1)諸国に国師が任ぜられ,地方の仏教界の統制にあたった。…
※「僧綱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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