六訂版 家庭医学大全科 「先天性難聴」の解説
先天性難聴
せんてんせいなんちょう
Congenital hearing impairment
(耳の病気)
どんな病気か
遺伝性か、妊娠中に起こる何らかの影響により出生時に難聴がある場合、先天性難聴といいます。
原因は何か
遺伝子の異常が発見される場合もありますが、大半は原因不明です。遺伝性疾患の例として、難聴と同時に前髪が一部白い(前髪白色)、欧米人のように眼が青い(
内耳が形成過程を途中でストップしてしまったために起こる
妊娠中に起こったウイルス感染にも難聴を引き起こすものがあります。母体の
症状の現れ方
大きな音にびっくりしない、目を覚まさない、玩具の音(例:ガラガラ)に喜ばない、振り向かないなど音の刺激に対して反応が乏しい時には、両側の高度の難聴の可能性があり注意が必要です。また、2~3歳になり言葉の発達が遅れていることで初めて見つかることも少なくありません。
検査と診断
音に対する検査を受ける子ども(検児)の反応を観察して判断するものと、行動の観察を要しないものとに分けられます。
前者では、まず聴力の予備検査として検児を母親の膝の上に座らせ、後方から太鼓、カスタネットなどを鳴らし、振り返るかどうかを検査します。さらに、検児の協力がうまく得られれば、難聴の程度が評価可能な条件
行動観察を要さない検査には、
治療の方法
先天性難聴のうち、内耳の蝸牛が原因の難聴(
病気に気づいたらどうする
言語の習得には生後3歳までが重要と考えられています。それまでに難聴を発見し、補聴器をすぐに装用させることと、言語刺激としての音を聞かせてやることが不可欠です。新生児スクリーニング、1歳6カ月健診、3歳児健診などで難聴が疑われた時、言語の遅れが疑われた時には、耳鼻咽喉科への受診が必要です。
將積 日出夫
先天性難聴
せんてんせいなんちょう
Congenital deafness
(遺伝的要因による疾患)
どんな病気か
先天性難聴は出生1000人あたり1人の割合で生まれる、頻度が高い先天性の病気です。
原因は何か
先天性難聴のうち、半数以上は遺伝子が関係しているといわれています。難聴に関連する遺伝子は100種類前後と推測されていますが、その遺伝子に変異があると難聴になることがわかってきました。
代表的な原因遺伝子として、GJB2遺伝子、SLC26A4遺伝子、ミトコンドリア遺伝子の3つがあります。
GJB2遺伝子およびSLC26A4遺伝子は内耳のイオンバランスを保つのに重要なはたらきをしていますが、変異があると常染色体劣性遺伝形式をとる難聴を起こします。また、SLC26A4遺伝子の変異があると「
また、ミトコンドリア遺伝子1555A→G変異は母系遺伝をしますが、ストレプトマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質に対して感受性が高くなる(副作用として難聴が起きる)ことが知られています。
症状の現れ方
以前は音に対する反応がない、あるいは言葉の遅れから2~3歳で耳鼻科を訪れることが多かったのですが、最近は新生児聴覚スクリーニングが普及し、早期に難聴と診断されることが多くなってきました。
検査と診断
種々の聴覚検査、CT、MRIなどの画像検査、遺伝学的検査を組み合わせて診断を行います。
治療の方法
難聴は早期に診断し、早期に補聴器や人工内耳を用いることによって言語習得が可能になります。言語発達に必要とされる聴力範囲(スピーチバナナと呼ばれる音声領域)に聴力を入れることを目標にします。
言語中枢の臨界期(2~4歳)を考え、高度の難聴の場合にはいたずらに補聴器のみで観察期間を延ばすことなく、人工内耳を検討することが重要です。
ミトコンドリア遺伝子1555変異をもつ人には、アミノグリコシド系抗生物質を避けるようにすることが、難聴の予防に重要です。
病気に気づいたらどうする
耳鼻咽喉科専門医および臨床遺伝専門医の診察を受けます。
遺伝学的検査は難聴の程度、進行するかどうか、難聴以外の症状が出てくるかどうか、などの予測や遺伝カウンセリングに有用です。
宇佐美 真一
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報