兜率天(読み)トソツテン

デジタル大辞泉 「兜率天」の意味・読み・例文・類語

とそつ‐てん【×兜率天】

仏語六欲天の第四天。内院外院があり、内院は将来仏となるべき弥勒菩薩みろくぼさつが住するとされ、外院は天衆の住む所とされる。都史多天。

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精選版 日本国語大辞典 「兜率天」の意味・読み・例文・類語

とそつ‐てん【兜率天・都率天・都卒天】

  1. 〘 名詞 〙 仏語。欲界の六欲天の第四天。須彌山の頂上二四万由旬の高所にある天で、歓楽に満たされており、天寿四千歳で、この天の一昼夜は人界の四百歳に当たるという。当来仏である彌勒菩薩が住するとされ、彌勒の浄土といわれる。兜率陀天。兜率。兜率界。都史多天。〔法華義疏(7C前)〕
    1. [初出の実例]「香の煙はとそつ天の雲に添い、芬々たる縑(かとり)は衣華蔵界の風に和し」(出典:仮名草子・恨の介(1609‐17頃)下)
    2. [その他の文献]〔法華経‐普賢菩薩勧発品〕

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改訂新版 世界大百科事典 「兜率天」の意味・わかりやすい解説

兜率天 (とそつてん)

仏教の世界観に現れる天界の一つ。兜率はサンスクリットトゥシタTuṣitaの音訳で,覩史多(とした)とも訳される。須弥山(しゆみせん)の上空に位置し,三界のうちの欲界に属する。ただし,この天は欲界六天の下から4番目にあたり,その住人は欲望の束縛をかなり脱している(トゥシタは〈満足せる〉の意)。七宝宮殿に内外の二院があり,内院は将来仏となるべき菩薩の最後身の住処とされ,外院は眷属の天子衆の遊楽の場とされる。かつて釈迦がここにいて,ここから下界へ下った。現在では弥勒説法しつつここを〈弥勒の浄土〉とし,遠い将来にここから下界に下る予定になっている。弥勒のもとに生まれその化導を受けようとする兜率往生の信仰は古く,阿弥陀仏の浄土への往生との優劣が争われたこともある。兜率往生は,日本では鎌倉時代,貞慶(じようけい),明恵(みようえ)らによって説かれ,〈兜率天曼荼羅〉などの制作もなされた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「兜率天」の意味・わかりやすい解説

兜率天
とそつてん

仏教の宇宙観にある天上界の一つ。サンスクリット語では Tuṣitaといい,音写して都率(とそつ),都史多(とした)とし,上足,知足と訳す。欲界の六天(四王天,忉利天,夜摩天,兜率天,化楽天,他化自在天)のうちの第4にあたるところ。ここには七宝でできた宮殿があり,宮殿には内院と外院がある。内院には弥勒菩薩が住み,説法を行なっている。外院には天衆の遊楽の場所がある。ここでは寿命は 4000歳で,その 1日は人間界の 400年に相当するという。また仏伝によると釈迦はここから降下して摩耶夫人の胎内に宿り,生誕したとされている。この天を絵画化したものに,大阪府河内長野市の延命寺蔵『絹本著色兜率天曼荼羅図』(兜率天変相図。国指定重要文化財)がある。

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百科事典マイペディア 「兜率天」の意味・わかりやすい解説

兜率天【とそつてん】

サンスクリットのトゥシタの音写。上足・妙足と訳す。都率天などとも。将来,仏となるべき菩薩の住む所とされる。欲界六天の第4。釈迦もかつてここで修行し,現在は弥勒(みろく)菩薩が説法していて,次に人間界へ降りてくるとされる。ここの天人の寿命は400歳,1昼夜は人間界の400年に当たると説かれる。
→関連項目浄土浄土信仰

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「兜率天」の意味・わかりやすい解説

兜率天
とそつてん

仏教世界観における天界の一つ。サンスクリット語トゥシタTuitaの音訳で、都率、都史多(とした)などとも書く。意訳は喜足(きそく)(そこでは神々が満足しているの意)。須弥山(しゅみせん)の上空、夜摩(やま)天の上にあるが、欲界の6種の天(六欲天)の一つとされ、美しい風景や天女や子供が存在する。この天は、下界に降(くだ)る菩薩(ぼさつ)(未来の仏)が待機する場所として有名で、すでに釈迦(しゃか)が降下し、いま弥勒(みろく)が待機中であるという。弥勒信仰の発展とともに、兜率天に生まれ変わることを願う兜率往生(おうじょう)の思想が生じ、阿弥陀仏(あみだぶつ)の極楽浄土(ごくらくじょうど)への往生との優劣が争われたが、兜率天が欲界中の世界である点が攻撃された。

[定方 晟]

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世界大百科事典(旧版)内の兜率天の言及

【浄土】より

…すなわち,浄土という理念はインドにはなかったのであって,仏国土が清浄な国土であるとは認めても,それを宗教的理想郷としての浄土として表現することはなく,浄土思想はむしろ中国において発達し展開したといえそうである。 未来仏として修行中の弥勒菩薩が待機している天上の兜率天(とそつてん)を弥勒の浄土として,そこに生まれたという信仰がまず起こった。兜率天の信仰から一歩進んで,浄土そのものを説いた経典,つまり浄土経典の最初は,東方にある阿閦(あしゆく)仏の浄土としての妙喜を説いた《阿閦仏国経》であり,この仏国土には女人もおり,人民はみな樹より五色の衣服を取って着たと述べている。…

【弥勒】より

…インド仏教徒はMiiroをMitraに還元し,mitraが友を意味し,派生語maitreyaが〈友情ある〉を意味することから,弥勒を〈慈氏〉(Maitreyaの意訳語)ととらえたものと思われる。《弥勒下生経》をはじめとする弥勒六部経によると,弥勒は兜率天(とそつてん)におり,釈迦の没後その予言にしたがい,人寿八万四千年のときに下界に降り,竜華樹のもとで仏となって,釈迦の救いにもれた人々を救う。《菩薩処胎経》などによると,それは(釈迦没後)五十六億七千万年とされる。…

※「兜率天」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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