仏教の世界観に現れる天界の一つ。兜率はサンスクリットのトゥシタTuṣitaの音訳で,覩史多(とした)とも訳される。須弥山(しゆみせん)の上空に位置し,三界のうちの欲界に属する。ただし,この天は欲界六天の下から4番目にあたり,その住人は欲望の束縛をかなり脱している(トゥシタは〈満足せる〉の意)。七宝の宮殿に内外の二院があり,内院は将来仏となるべき菩薩の最後身の住処とされ,外院は眷属の天子衆の遊楽の場とされる。かつて釈迦がここにいて,ここから下界へ下った。現在では弥勒が説法しつつここを〈弥勒の浄土〉とし,遠い将来にここから下界に下る予定になっている。弥勒のもとに生まれその化導を受けようとする兜率往生の信仰は古く,阿弥陀仏の浄土への往生との優劣が争われたこともある。兜率往生は,日本では鎌倉時代,貞慶(じようけい),明恵(みようえ)らによって説かれ,〈兜率天曼荼羅〉などの制作もなされた。
執筆者:定方 晟
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仏教世界観における天界の一つ。サンスクリット語トゥシタTuitaの音訳で、都率、都史多(とした)などとも書く。意訳は喜足(きそく)(そこでは神々が満足しているの意)。須弥山(しゅみせん)の上空、夜摩(やま)天の上にあるが、欲界の6種の天(六欲天)の一つとされ、美しい風景や天女や子供が存在する。この天は、下界に降(くだ)る菩薩(ぼさつ)(未来の仏)が待機する場所として有名で、すでに釈迦(しゃか)が降下し、いま弥勒(みろく)が待機中であるという。弥勒信仰の発展とともに、兜率天に生まれ変わることを願う兜率往生(おうじょう)の思想が生じ、阿弥陀仏(あみだぶつ)の極楽浄土(ごくらくじょうど)への往生との優劣が争われたが、兜率天が欲界中の世界である点が攻撃された。
[定方 晟]
…すなわち,浄土という理念はインドにはなかったのであって,仏国土が清浄な国土であるとは認めても,それを宗教的理想郷としての浄土として表現することはなく,浄土思想はむしろ中国において発達し展開したといえそうである。 未来仏として修行中の弥勒菩薩が待機している天上の兜率天(とそつてん)を弥勒の浄土として,そこに生まれたという信仰がまず起こった。兜率天の信仰から一歩進んで,浄土そのものを説いた経典,つまり浄土経典の最初は,東方にある阿閦(あしゆく)仏の浄土としての妙喜を説いた《阿閦仏国経》であり,この仏国土には女人もおり,人民はみな樹より五色の衣服を取って着たと述べている。…
…インド仏教徒はMiiroをMitraに還元し,mitraが友を意味し,派生語maitreyaが〈友情ある〉を意味することから,弥勒を〈慈氏〉(Maitreyaの意訳語)ととらえたものと思われる。《弥勒下生経》をはじめとする弥勒六部経によると,弥勒は兜率天(とそつてん)におり,釈迦の没後その予言にしたがい,人寿八万四千年のときに下界に降り,竜華樹のもとで仏となって,釈迦の救いにもれた人々を救う。《菩薩処胎経》などによると,それは(釈迦没後)五十六億七千万年とされる。…
※「兜率天」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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