全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)

内科学 第10版 の解説

全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)(膠原病・血管炎の腎障害)

(1)全身性エリテマトーデス(ループス腎炎) systemic lupus erythematosus (lupus nephritis)
定義・概念
 全身性エリテマトーデス(SLE)(表11-6-2)に合併する腎障害の病態としては免疫複合体型(糸球体腎炎・血管炎)と抗リン脂質抗体型(血管閉塞)に大別される.SLE患者の約50%で尿異常,腎機能異常が生じるが,尿異常が軽微でも糸球体免疫グロブリンが沈着していることがあり,これらを含めると約90%で糸球体腎炎が起こっている.一方,微小血管内腔に脂肪塞栓が生じ,腎機能低下をきたす抗リン脂質抗体症候群が約30%の患者でみられる.
分類
 ループス腎炎の診断は,腎生検で確定される.組織学的な分類(ISN/RPSの基準)(表11-6-3)は,クラスⅠ:正常であるか免疫グロブリンの沈着がある,クラスⅡ:軽度メサンギウム増殖,クラスⅢ:50%未満の糸球体で細胞増殖および炎症がある,クラスⅣ:50%以上の糸球体で細胞増殖および炎症がある(図11-6-6),クラスⅤ:上皮下および基底膜内免疫複合体沈着を伴う膜性腎症型,クラスⅥ:すでに硬化した糸球体が主体,に分類される.すなわち病理組織学検査(光顕所見)にも,軽微な変化から高度の細胞増殖,糸球体硬化まで患者ごとに大きな幅がある.蛍光抗体法でも,IgGが主体であるが,IgAIgMも同様に沈着することが多い.また,IgGのサブクラスでもIgG1, IgG2, IgG3, IgG4のすべてが共存することが多い.電顕所見では,メサンギウム領域だけではなく,基底膜にも高密度電子物質を認め,ときに指紋状のパターンを呈することがある.
 また,光顕所見として活動(急性)性指標(細胞増殖,フィブリノイド壊死,細胞性半月体,ガラス様血栓,ワイヤーループ病変,糸球体白血球浸潤または間質単核細胞浸潤に基づく)と慢性指標(糸球体硬化,線維性半月体,尿細管萎縮または間質の線維化の存在に基づく)を評価(表11-6-3)し,活動性が高い場合は,大量ステロイド薬,免疫抑制薬を使用する.しかし慢性指標が高いものは不可逆性の病態を示し,積極治療を行うとリスクが高くなる.
原因・病因
 SLEの病因は現在でも不明である.しかし,遺伝的素因(HLA, サイトカイン調節遺伝子,インテグリン遺伝子,Fcγ受容体,補体異常など)に性ホルモンの影響が加わり,さらに環境(感染,紫外線暴露,薬剤)などが関与して,免疫異常(自己抗体産生など)が生じ臨床症状が出現すると推測されている.免疫複合体型(ループス腎炎)では,血中で形成された抗原抗体複合体(immune complex:IC)が腎組織に沈着する場合(circulating IC)と,塩基性蛋白質であるヒストンが基底膜に沈着した後,自己抗体が沈着する場合(in situ IC)がある.
疫学
 日本人では,10万人あたり30〜40人程度である.ループス腎炎の頻度は,小児SLEの46%,成人の39%,高齢者の22%とされている.
検査成績
 血球成分の減少(白血球減少,リンパ球減少,貧血,血小板減少),抗核抗体の高値陽性,自己抗体(抗DNA抗体,抗Sm抗体,抗リン脂質抗体)が陽性となる.その他,免疫複合体(C1q型)が上昇し,血清補体C3, C4, CH50が低下する.SLEでは発熱があってもCRPが上昇しない場合が多いが,CRPが上昇している場合は胸膜炎,心膜炎,腹膜炎髄膜炎などを合併している可能性が高い.ループス腎炎では,蛋白尿,血尿,ときにはネフローゼ症候群を呈することもある.
鑑別診断
 低補体血症を伴う糸球体腎炎としては,急性糸球体腎炎(溶連菌感染後,パルボウイルスB19感染後),膜性増殖性糸球体腎炎,クリオグロブリン血症などがあげられる.
経過・予後
 SLE全体の予後は,中枢神経病変・肺病変・重篤な溶血性貧血・血小板減少,ループス腎炎で規定されるが,生命予後はループス腎炎以外の病変の影響が大きい.治療中の感染症も死因として重要である.腎症のないSLEでは10年生存率が約90%に達し,腎炎があっても生命予後としては大きく変わらない.大多数は急性期治療で寛解を得られるが,20~30年以上の経過で腎硬化・動脈硬化を起こし腎不全に至る症例が増加している.
治療
 治療の最終目標は,長期の腎機能保持,合併症の防止,生涯にわたるquality of life (QOL)の向上である.びまん性メサンギウム増殖性腎炎(クラスⅣ)で活動性がある場合は,強い治療を短期間に行う必要がある.一方,膜性ループス腎炎(クラスV)では,中等量のステロイド薬と免疫抑制薬の併用を1年以上行う必要がある.いずれの場合も血清補体が低下している場合は,正常域に戻すように治療量を調整することが基本となる.発症当初の治療を寛解導入療法と位置づけ,補体,尿所見が正常化してからの治療を維持療法とよんでいる.
 寛解導入療法として,NIHプロトコール(Illei ら,2001)が有名であるが,この特徴は,メチルプレドニゾロン(mPSL)1.0 g/日3日間とシクロホスファミドパルス(IVCY) 1.0 g/体表面積/日 月1回を最低でも12カ月間(原法)実施し,その後すべての治療を終了する方法である.最大の欠点は,1回シクロホスファミド投与量が,1.7 g/日に相当し副作用による死亡が18%と高頻度であること,総投与量が10 gをこえ遅発性発癌の危険が高まること,生殖機能障害が約50%で出現することである.また投薬中止後の再燃率も高い.以上を考慮し国際的には実施されていない.シクロホスファミド投与量を約半分にした低用量群とNIHプロトコールの高用量群のRCTによって,両群で治療効果に有意差はなく,副作用は低用量群で大幅に軽減していることが明らかにされた(Bertsiasら,2008).以上をふまえて,増殖性ループス腎炎を,軽症,中等症,重症に分類した後に,寛解導入療法として軽症例では,プレドニゾロン(PSL)0.5 mg/kg/日+アザチオプリン,中等症では,mPSL 0.5 g/日 3日間,その後PSL 0.5 mg/kg/日+ミコフェノールモフェチルあるいはアザチオプリン,重症例では,mPSL 1.0 g/日 3日間,その後PSL 1.0 mg/kg/日+経口あるいは静脈内注射のシクロホスファミドが推奨されている.維持療法としては,できるだけ減量したPSL+アザチオプリン(1〜2 mg/kg/日),あるいはミコフェノール,あるいはわが国で使用可能なミゾリビン,タクロリムスが推奨される(Ponticelliら,2010(一部改変))(表11-6-4).維持療法の継続期間は最低1年である.その他,血漿交換,免疫吸着療法があるが,寛解導入に関しては無効であるというコントロール試験の成績もあり,使用する状況は限られている.[今井裕一]
■文献
Bertsias G, et al: EULAR recommendation for the manegement of systemic lupus erythematosus. Report of a task force of the EULAR standing committee for international clinical studies including therapeutics. Ann Rheum Dis, 67: 195-205, 2008.
Illei GG, et al: Combination therapy with pulse cyclophosphamide plus pulse methylprednisolone improves long-term renal outcome without adding toxicity in patients with lupus nephritis. Ann Intern Med, 135: 248-257, 2001.
Ponticelli C, et al: Induction and maintenance therapy in proliferative lupus nephritis. J Nephrol, 23: 9-16, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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