地方公営企業労働関係法(読み)ちほうこうえいきぎょうろうどうかんけいほう

改訂新版 世界大百科事典 「地方公営企業労働関係法」の意味・わかりやすい解説

地方公営企業労働関係法 (ちほうこうえいきぎょうろうどうかんけいほう)

地方公共団体の経営する企業(地方公営企業)の労働関係を規整する法律。1952年公布。地方公共団体が,その住民からの需要にこたえるべく,鉄道,軌道,自動車運送,電気,ガス,水道,工業用水道などの公営企業を経営することがある。これらの公営企業に勤務する一般職公務員の労働関係は,一般行政事務に従事する公務員のそれとはその職務内容において区別され,かえって通常の労働関係に近似するが,なお公務員としての地位を有する職員の労働関係のため通常の労働関係からも区別されうる。地方公営企業は,住民の生活に密着している。したがって,企業の正常な運営を図り,もって住民の福祉の増進を実現するためには,その労働関係は平穏であることが望ましく,その紛争も平和裡(り)に解決されることが望ましい。

 職員の団結権は,オープン・ショップの形式で保障されており,したがって,消極的団結権も保障されている。ユニオン・ショップやクローズド・ショップに関する協定を,労使間で締結することはできない(〈ショップ制〉の項参照)。これは,職員の採用が受験成績,勤務成績その他の能力の実証に基づいて行われるなどの法的規律が,ユニオン・ショップやクローズド・ショップとは合致しないためであると解される。

 チェック・オフは行われておらず,労働組合役員は在籍専従者となることができるが,通産5年の制限があり,専従期間中はいかなる給与も支給されることはなく,その期間は退職手当の算定基礎には算入されない。

 労働組合は,団体交渉をすることができ,労働協約も締結することができる(7条本文)。しかし,管理運営事項は,団体交渉の対象とはならない(同条ただし書)。争議行為およびロックアウトは禁止されている。争議行為は禁止されているが,労働組合法1条2項の刑事免責規定は適用除外されていない。なお違反行為に対しては,〈職員を解雇できる〉ことになっている(12条)。それは,必ず解雇しなければならないということではなく,解雇が不当労働行為にはならないということを意味しているのである。労働組合と地方公営企業は,職員の苦情を解決するための労使同数構成の苦情処理共同調整会議を設けねばならないが,その組織および苦情処理に関する事項を団体交渉で定めることになっている(13条)。同会議への組合員の出席は,公務として扱われる。したがって,給与は減額されない。労働争議を斡旋,調停,仲裁する機関は,労働委員会である。その開始については,14条および15条に定められている。仲裁裁定に対しては,当事者はこれを最終的なものとして服従しなければならない。勤務条件などの最終決定権限は,財源が租税に負うことから,議会に留保されている。このことから,特別の規律が生ずる。すなわち,労働協約の内容と仲裁裁定の内容が条例に抵触するときには,地方公共団体の長は必要な条例の改正廃止のための議案を10日以内に付議して議決を求めなければならず(8条,16条2項),予算上または資金上支出不可能な労働協約,仲裁裁定の場合には,当該労働協約,仲裁裁定は議会により支出のための所定行為がなされるまでは地方公共団体を拘束しない(10条1項,16条1項)ので,地方公共団体の長は10日以内に議会の承認を求めなければならない(10条2項,16条1項)。

 最後に地方公営企業と労働組合との間の労働協約には,地域的一般的拘束力の制度は存在しない。
公営企業
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地方公営企業労働関係法」の意味・わかりやすい解説

地方公営企業労働関係法
ちほうこうえいきぎょうろうどうかんけいほう

地方公共団体が経営する地方公営企業(地方鉄道、軌道、自動車運送、電気、ガス、水道、工業用水道などの事業)および特定地方独立行政法人に勤務する地方公務員の労働関係について定めた法律。正式名称は「地方公営企業等の労働関係に関する法律」(昭和27年法律第289号)。略称地公労法。地方公営企業の正常な運営を最大限に確保し、住民の福祉の増進に資するため、地方公共団体の経営する企業とこれに従事する職員との間の平和的な労働関係の確立を図ることを目的とする。

 第二次世界大戦後、地方公営企業職員は、労働三法(労働組合法、労働関係調整法、労働基準法)が全面的に適用され、民間労働者と同様の権利が保障されていたが、1948年(昭和23)政令二〇一号により一般地方公務員と同様、争議権と団体交渉権を剥奪(はくだつ)された。しかし1952年に、現業の国家公務員の労働関係に公共企業体等労働関係法(略称、公労法。現、行政執行法人の労働関係に関する法律。略称は行労法)を適用したのと同じ趣旨で、本法が制定され、地方公営企業労働者を一般地方公務員から分離し、団体交渉権は認めた。したがって、内容においても本法は行労法と類似している。すなわち、団結権についてはオープン・ショップ制をとり、クローズド・ショップ制、ユニオン・ショップ制を認めず(5条)、団交権は、協約締結権を認められるが管理運営事項はその対象から除外され(7条)、予算上、資金上不可能な支出を内容とする協定は議会の承認が要件とされる(10条)。争議行為は全面的に禁止され(11条)、違反者は解雇される(12条)。一方、労働争議の調整および不当労働行為の判定・救済は、かつての公共企業体等労働委員会のような特別の機関を設けず、一般の場合と同様、都道府県労働委員会が行う。本法は行労法と同様、労働者の争議権を一律全面的に禁止している点で、日本国憲法第28条の団結権・団体行動権保障に明らかに抵触する。

[寺田 博]

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百科事典マイペディア 「地方公営企業労働関係法」の意味・わかりやすい解説

地方公営企業労働関係法【ちほうこうえいきぎょうろうどうかんけいほう】

地公労法と略。地方公営企業および特定地方独立行政法人とこれに勤務する職員との労働関係を規律する法律(1952年)。職員の争議行為の禁止,苦情処理機関の設置,強制調停仲裁制度,仲裁裁定の限定等を規定している。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地方公営企業労働関係法」の意味・わかりやすい解説

地方公営企業労働関係法
ちほうこうえいきぎょうろうどうかんけいほう

昭和 27年法律 289号。地方公営企業で働く職員の労働関係を規律する法律。職員の団結権と団体交渉権は認めるが (5,7条) ,争議行為を禁止し (12条) ,予算上または資金上不可能な支出を内容とする労働協定の効力を制限している (10条) 。不当労働行為については,労働委員会によって審理,救済されることなどを定める。

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