行政執行法人の労働関係に関する法律(読み)ギョウセイシッコウホウジンノロウドウカンケイニカンスルホウリツ

デジタル大辞泉 の解説

ぎょうせいしっこうほうじんのろうどうかんけいにかんする‐ほうりつ〔ギヤウセイシツカウハフジンのラウドウクワンケイにクワンするハフリツ〕【行政執行法人の労働関係に関する法律】

行政執行法人の職員の労働条件に関する苦情または紛争の平和的解決を目ざし、団体交渉の慣行と手続きを確立することで、行政執行法人の正常な運営を確保する法律。平成27年(2015)「特定独立行政法人の労働関係に関する法律」を改題して成立。

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日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

行政執行法人の労働関係に関する法律
ぎょうせいしっこうほうじんのろうどうかんけいにかんするほうりつ

行政執行法人の職員の争議行為を禁止するとともに、団結権の内容、団体交渉の範囲と手続および行政執行法人と職員との間に発生した紛争の解決のための調整手続を規定した法律。昭和23年法律第257号。略称、行労法。中間目的として「行政執行法人の職員の労働条件に関する苦情または紛争の友好的かつ平和的調整を図るように団体交渉の慣行と手続とを確立することによって、行政執行法人の正常な運営を最大限に確保すること」を、究極目的として「公共の福祉を増進し、擁護すること」を掲げている(行労法1条。以下の条文番号は、とくに補足のない限りすべて同法をさす)。

[山田健吾 2017年7月19日]

法の内容

(1)適用関係

行労法は、独立行政法人通則法2条4項が定める行政執行法人(2条1号)の職員の労働関係に適用される。行政執行法人の職員(以下「職員」とする)は一般職の国家公務員である(2条2項)。職員は国家公務員法(以下「国公法」という)上の公務員であるが、労働関係法律の適用が除外されていない(国公法附則16条、行労法3条1項)。したがって、職員の労働関係について行労法が定めていない事項には労働組合法(以下「労組法」という)が適用されることになる(3条1項)。行労法は、行政執行法人と職員との間の紛争解決のための調整手続を定めているが、労働関係調整法(以下「労調法」という)の若干の規定が準用される。後述するように、職員には団結権および労働協約締結権を含む団体交渉権が認められていることから、人事院勧告などの人事院に関する規定(国公法3条2項~4項、3条の2、17条、17条の2、22条、23条など)、行政措置要求に関する規定(国公法86条~88条)、職員団体に関する規定(国公法108条の2~108条の7)などの国公法上の規定は適用されない(37条1項)。

[山田健吾 2017年7月19日]

(2)団結権の内容

職員は国家公務員であるが、労組法上の労働組合を結成することができる(4条1項)。職員が結成する労働組合は、使用者の利益を代表する者以外の職員を構成員としなければならない(労組法2条1号)。使用者の利益代表者の範囲については、中央労働委員会(以下「委員会」という)が告示で定める(4条2項)。労働組合の組合員資格に関して、クローズド・ショップやユニオン・ショップといった組合員資格を強制する形態をとることができず(4条1項)、労働組合の組合員であることを職員の条件とすることは認められない(オープン・ショップ)。

[山田健吾 2017年7月19日]

(3)団体交渉の範囲と手続

団体交渉の当事者は行政執行法人と職員の労働組合であり、団体交渉の担当者は、行政執行法人が指名する法人を代表する交渉委員と労働組合が指名する組合を代表する交渉委員である(9条、10条)。団体交渉の対象事項は、(1)賃金その他の給与、労働時間、休憩、休日および休暇に関する事項、(2)昇職、降職、転職、免職、休職、先任権および懲戒の基準に関する事項、(3)労働に関する安全、衛生および災害補償に関する事項、(4)前記に掲げるもののほか労働条件に関する事項などである(8条1号~4号。このほか12条2項など)。これらの対象事項については労働協約締結権が認められる(8条柱書)。ただし、行政執行法人の管理および運営については団体交渉および労働協約締結の対象とすることはできない(8条柱書)。団体交渉および労働協約締結の対象事項であっても、職員の任免など国公法で規律されている場合には、団体交渉や労働協約締結の対象事項の範囲が限定されることになる。団体交渉以外の交渉手続として、職員の苦情を処理するために、行政執行法人および組合に対して苦情処理共同調整会議の設置が義務づけられている(12条1項)。

[山田健吾 2017年7月19日]

(4)争議行為の禁止

職員は、国家公務員および地方公務員と同様に「同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切(いっさい)の行為」と「このような禁止された行為を共謀し、唆(そそのか)し、またはあお」る行為をすることが禁止されている(17条1項)。職員がこのような争議行為を行った場合には解雇される(18条)。

[山田健吾 2017年7月19日]

(5)不当労働行為

行政執行法人は、職員が労働組合の組合員であることを理由に解雇したり、労働組合を代表する交渉委員との団体交渉を正当な理由なく拒むことなどの不当労働行為をすることを禁止されている(労組法7条。行労法3条1項)。職員または労働組合は、不当労働行為に対して委員会の救済命令の申立てをすることができる。委員会の救済命令に対しては行政事件訴訟法上の取消訴訟を提起することができる。行政執行法人が救済命令に対して取消訴訟を提起しないときには救済命令が確定する(労組法27条の13第1項)。労組法は使用者が確定した救済命令に従わない場合には過料が課せられると定めるが(27条の13第2項および32条)、行政執行法人にはこの規定は適用されない(3条1項)。また、労組法は、取消訴訟において、救済命令の全部または一部が確定判決によって支持された場合に、使用者がこれに違反した場合に刑事罰を科すこととしているが(労組法28条)、この規定も適用されない(行労法3条1項)。

[山田健吾 2017年7月19日]

(6)行政執行法人と職員との間に発生した紛争の解決のための調整手続

行政執行法人と職員との間に発生した紛争の解決のための調整手続としては、苦情処理手続(12条)のほかに、斡旋(あっせん)、調停および仲裁の三つの手続がある。

[山田健吾 2017年7月19日]

斡旋

委員会は、行政執行法人と職員との間に紛争が発生した場合に、関係当事者の双方もしくは一方の申請または委員会の決議により、斡旋を行うことができる(26条1項)。斡旋は、行政執行法人担当公益委員、行政執行法人担当使用者委員、行政執行法人担当労働者委員および調停委員候補者名簿に記載されている者(29条)から、委員会の会長が指名する斡旋員または委員会の同意を得て委員会の会長が委嘱する斡旋員によって行われる。地方において委員会が処理すべき事件として政令で定めるものについては、委員会の会長が地方調整委員のうちから斡旋員を指名する(26条3項)。斡旋案の効力は当事者の任意の受託によって発生する。

[山田健吾 2017年7月19日]

調停

行労法は、調停について任意調停強制調停の双方を用意している。任意調停は、(1)関係当事者の双方が委員会に調停の申請をしたとき、または、(2)関係当事者の一方が労働協約の定めに基づいて委員会に調停の申請をしたときに行われる(27条1号・2号)。強制調停は、(1)関係当事者の一方の申請により委員会が調停を行う必要があると決議したとき、(2)委員会が職権に基づき、調停を行う必要があると決議したとき、または(3)主務大臣が委員会に調停の請求をしたときに行われる(27条3号・4号・5号)。

 委員会による調停は、委員会の会長が行政執行法人担当公益委員から指名する公益を代表する調停委員、同じく行政執行法人担当使用者委員から指名する行政執行法人を代表する調停委員および行政執行法人担当労働者委員から指名する職員を代表する調停委員によって行われる(29条1項・2項)。調停委員会は、関係当事者から意見の聴取を行い(労調法24条)、調停案を作成し、関係当事者にその受託を勧告し、公表することができる(労調法26条1項)。調停案の効力も、当事者の任意の受託でもって発生する。

[山田健吾 2017年7月19日]

仲裁

労調法は仲裁については任意仲裁のみとしているが(労調法30条)、行労法は任意仲裁に加えて強制仲裁も認めている。任意仲裁は、(1)関係当事者の双方が委員会に仲裁の申請をしたとき、または、(2)関係当事者の一方が労働協約の定めに基づいて委員会に仲裁の申請をしたときに行われる(33条1号・2号)。強制仲裁は、(1)委員会が斡旋または調停を開始したのち2か月を経過して、なお紛争が解決しない場合に、関係当事者の一方が委員会に仲裁の申請をしたとき、(2)委員会が、斡旋または調停を行っている事件について、仲裁を行う必要があると決議をしたとき、または(3)主務大臣が委員会に仲裁の請求をしたときに行われる(33条3号~5号)。

 仲裁委員会は行政執行法人担当公益委員の全員をもってあてる仲裁委員、または委員会の会長が指名する行政執行法人担当公益委員のうちから指名する仲裁委員で構成される。仲裁委員会の裁定については、当事者はこれを最終決定として服従しなければならない(35条1項)。

[山田健吾 2017年7月19日]

法の沿革

1946年(昭和21)に施行された旧労組法は、警察官吏、消防職員および監獄職員に限定して団結権を禁止していたため(旧労組法4条)、その他の公務員については旧労組法が全面的に適用されていた。同年10月に施行された労調法は、警察官吏、消防職員、監獄職員、国または公共団体の現業以外の行政または司法の事務に従事する官吏についてのみ争議行為を禁止するとともに(労調法38条)、公益事業(郵便や水道等の事業)の関係当事者が行う争議行為については一定の制限を設けていた(労調法37条)。1947年10月に制定された国公法は、国家公務員の団結権や争議権についての定めの規定がなく、また、国家公務員に対する労働関係法律の適用を除外しなかったため、その労働関係については旧労組法および労調法が適用されていたのであった。

 ところが、1947年2月1日に計画された無期限ストライキなど、公務員の争議行為が続発していたことを背景として、連合国最高司令官マッカーサーが当時の首相芦田均(あしだひとし)宛(あて)に、公務員の争議行為の禁止などを内容とする国家公務員法制の改変を要請する書簡を送り、これを受けて制定された政令二〇一号を経て、1948年に、公務員の労働協約締結権を否定し争議行為を禁止する国家公務員法の改正が行われた。これにあわせて、「公共企業体労働関係法」が制定され、日本国有鉄道法および日本専売公社法によって法人として設立された日本国有鉄道(国鉄)および日本専売公社を公共企業体として位置づけ、これらの職員の争議行為を禁止し、団結権や団体交渉権の範囲および労働争議の調整手続を定めた。1952年には日本電信電話公社(電電公社)、郵政、国有林野、印刷、造幣およびアルコール専売を同法の適用対象として組み込み、三公社五現業をその適用対象とする改正がなされた。これにあわせてその名称が「公共企業体等労働関係法」に変更された。

 1981年に設置された第二次臨時行政調査会の答申を受けて、国鉄、日本専売公社、電電公社の三公社とアルコール専売が民営化されることになった。これに伴い、公共企業体等労働関係法が1986年に改正され、その適用対象を郵政、国有林野、印刷および造幣事業の国営企業のみとし、その名称が「国営企業労働関係法」に変更された。

 1998年(平成10)に制定された中央省庁改革基本法の趣旨に沿って、独立行政法人通則法が1999年に制定された。これにあわせて、国営企業労働関係法が改正され、公務員型の独立行政法人である特定独立行政法人も同法の適用対象とされた。これによって、同法の名称が「国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律」(国営企業・独立行政法人労働関係法)に変更された。2002年(平成14)に、それまで国営企業であった造幣事業および印刷事業が独立行政法人化され、同法における国営企業は国有林野のみとなった。

 2003年には郵政事業が法人化され日本郵政公社が設立された。国営企業・独立行政法人労働関係法は、特定独立行政法人、国有林野事業および日本郵政公社をあわせて「特定独立行政法人等」と整理し、その名称を「特定独立行政法人等の労働関係に関する法律」に変更した。2007年、日本郵政公社は分割・民営化され同法の適用から外れることとなった。さらに2013年、国有林野事業が特別会計から一般会計に移管され国営企業ではなくなったため、同法の適用対象から外れることになった。そのため、法律名が「特定独立行政法人の労働関係に関する法律」に変更された。2014年には独立行政法人通則法が改正され、公務員型の独立行政法人の名称が「特定独立行政法人」から「行政執行法人」に変更されたことに伴い、法律名も現在の名称に変更された。

[山田健吾 2017年7月19日]

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