六郷渡(読み)ろくごうのわたし

日本歴史地名大系 「六郷渡」の解説

六郷渡
ろくごうのわたし

現在の六郷橋よりやや下流にあった川崎宿と対岸荏原えばら八幡塚はちまんづか(現東京都大田区)とを結ぶ東海道の渡し。「北条記」によれば永禄一二年(一五六九)武田氏が武蔵国へ侵攻した際、北条方の行方弾正が六郷の橋を焼落したため、武田勢は船で矢口やぐち(現幸区)を渡ったという。

東海道の整備に伴い、慶長五年(一六〇〇)七月多摩川河口六郷川に木橋が架けられた。その後同一八年四月、寛永二〇年(一六四三)五月・寛文元年(一六六一)七月・同二年二月・同一一年八月・同一二年五月・同年九月と度々破損修復が繰返されたが(徳川実紀)元禄元年(一六八八)七月二一日の洪水による流失以降渡船が利用されることとなった(文久三年「六郷渡船濫觴同作法大概書抜」森文書)。木橋流失直後は幕府が荏原郡羽田はねだ(現大田区)役船など官船を差回し、のち江戸町人あるいは八幡塚村による請負渡船が行われた(前記書抜)。宝永六年(一七〇九)三月、幕府はかねて宿復興のため渡船の請負を申請していた川崎宿に運営を許し、併せて復興資金三千五〇〇両を下付した(川崎年代記録)。同時に渡船御掟と船賃銭定めの高札(御触書寛保集成)を出し、往還人の多い時は寄船を出し人馬荷物を滞りなく渡すこと、船賃は一人一〇文、荷物一駄一五文、乗掛荷物一二文と規定している。川崎宿は渡船業務を宿内および近隣の農民に請負わせ、請負期間と敷金、宿方差出し額、運営上の遵守事項などについて契約を取交わした(天保九年一一月「六郷渡船請負契約書」森文書)


六郷渡
ろくごうのわたし

現在多摩川に架かる六郷橋よりやや下流にあった八幡塚はちまんづか村と対岸の東海道川崎宿とを結ぶ渡し。多摩川河口付近の左岸一帯を六郷といい、川も六郷川とよんでいたためこの称がある。「北条記」によれば、永禄一二年(一五六九)武田氏が武蔵へ侵攻した際、北条方の行方弾正が六郷の橋を焼落したため、武田勢は船で矢口やぐち渡を渡ったという。

関ヶ原合戦前夜の慶長五年(一六〇〇)七月、六郷橋(木橋)が架けられたが、同一八年をはじめ、何度となく大雨によって流失、修復を繰返した(徳川実記)。しかし元禄元年(一六八八)七月二一日の氾濫で流失してからは、渡船に代わった。初めのうちは羽田はねだ村の役船が行路者をさばいたが、その後幕府は向井将監組の水主衆を出役させて渡船を行い、同年一〇月からは入札によって町人請負となった。同四年には村高の一部を免除して八幡塚村の請負となるが、再び町人請負となる。八幡塚村の請負の頃の渡船代は一人六文・本馬一五文・軽尻馬一〇文であった(文久三年「六郷渡船濫觴同作法大概書抜」森家文書)

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改訂新版 世界大百科事典 「六郷渡」の意味・わかりやすい解説

六郷渡 (ろくごうのわたし)

江戸時代,東海道川崎宿(現,神奈川県川崎市川崎区)と八幡塚村(現,東京都大田区)を結んだ渡し。1688年(元禄1)多摩川の下流六郷川の木橋が洪水で流失したのち渡船(とせん)となる。当初は江戸町人や八幡塚村が請け負ったが,1709年(宝永6)より宿本陣名主,問屋兼帯の田中丘隅(休愚)(きゆうぐ)の上申が認められ,川崎宿の永代渡船請負権が許可された。渡船場には馬船8艘,歩行船6艘と16人の船頭が常備され,交通量の増加には付近の村の雇舟(やといぶね)を仕立てた。渡船収入は宿財政の維持に重要な役割を果たした。渡しは1874年左内橋,84年六郷橋の竣工により休止し,一時,仮渡船があったが1925年に完全に廃止された。
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百科事典マイペディア 「六郷渡」の意味・わかりやすい解説

六郷渡【ろくごうのわたし】

武蔵国荏原(えばら)郡八幡塚(はちまんづか)村(現東京都大田区)と川崎宿(現神奈川県川崎市)を結ぶ東海道の渡し。1600年,東海道の整備に伴い多摩川河口の六郷川に木橋が架けられたが,1688年に流失し渡船場が置かれた。1709年幕府はかねて宿復興のため渡船の請け負いを申請していた川崎宿に運営を許可し,復興資金3500両と渡船御掟と船賃銭定の高札を出した。船賃は1人10文,荷物1駄15文,乗掛(のっかけ)荷物12文と定められた。渡船場には1812年当時,馬船8艘,歩行船6艘が常備され,交通量の多い場合には近郷から雇船が仕立てられた。1874年左内(さない)橋,1884年の六郷橋竣工により渡船は休止,1925年完全に廃された。

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